第一章 推しが我が家にやって来た!②
***
いや壁が高すぎる!
思い出してみれば、出会いイベントはあまりいいものではなかった。
ゲームの中のジョシュア様は不幸な出来事が続いているため、最初は心を
基本的に攻略対象者は主人公より爵位が高い。ただ、主人公も
言ってしまえば
「……そういえばゲームの最初は〝見ないでください〟って言われたんだったな」
それに比べれば、先日の顔合わせで睨んでこなかったジョシュアは
ゲームでの最悪すぎる出会いに、攻略を
「でも! 顔が良すぎるんですよ……!!」
顔を両手で覆いながら一人
前世の自分が面食いだったこともあるが、あのビジュアルは他の
「やっぱりジョシュア様は最高だわ」
そう
(このままお母様が心中してしまうと、この世界のジョシュアも心に傷を負うことになってしまう……)
そうして不運を積み重ねた結果、ジョシュアは自分を不幸体質と思い込むようになる。本来ならばそれがシナリオであり、ジュエラブのジョシュア様というキャラクターなのだ。
「でもそれは、ゲームの話よ」
義弟として家族になった以上ゲームのような人生ではなく、ジョシュアにとって
(ジョシュア。
しかし、何からすればいいかはわからなかった。
ただ話すだけでは効果が
「……よし、ないなら私が作ろう!」
ガタンと勢いよく立ち上がると、すぐさま行動に移した。
そして数日後、完成した物を手にジョシュアの部屋を
「ジョシュア。今いいかしら?」
「……はい、
入室の許可をもらうと、
ジョシュアは無表情だったが、部屋を訪れたことを嫌がっているようには見えなかった。
いきなり
(そっか、もう
ジョシュアがルイス侯爵家に養子として
(ちょっと悲しいけど、優秀な人が
そう割り切りながら、ジョシュアの話に耳を
話に一区切りつくと、私は用意していた箱をテーブルに置いてジョシュアに見せた。
「……これは?」
「ジョシュアへのプレゼントなんだけど、よかったら開けてみて」
にこにことしながら答えるものの、
「眼帯を作ってみたの。
ジョシュアは眼帯をじっと見つめていた。
「もしよかったら使ってみて」
「……やっぱりこの瞳は気持ち悪いですよね」
ジョシュアは、悲しそうな声で視線を落とした。
予想外の反応に驚く。しかし、ジョシュアが気にしている瞳を隠せたらという思いで作った眼帯だが、
「気持ちが悪いなど一度も思ったことはないわ。ジョシュアの瞳はとても
ジョシュアの瞳を
「ジョシュア、貴方の瞳は
好意的な言葉が返ってくるとは思わなかったようで、ジョシュアは目を丸くさせていた。
「私はジョシュアの瞳が好きだし、隠せだなんて思わない。だけど、ジョシュアが隠したいのなら、私はその意思を尊重するべきだと思うの」
「僕の……意思?」
(僕!? ゲームでは俺だったけど、幼少期は僕なんだ……!!)
集中しないといけないのはわかっている。ただ、あまりにも
こちらを窺うように問いかけるジョシュアに、私はゆっくりと
「こ、こうですか?」
初めて身につける眼帯に
「私が手伝っても良い?」
ピタリと手を止めたジョシュアは、少しだけ考えた後に小さく頷いた。
「…………お願いします」
その返事を受け取ると、
(今度は一人でつけられるように、耳にかけられるような形にしてみよう)
もちろん、ジョシュアが眼帯を気に入ってくれればの話だけど。
「できた。鏡で見てみて」
「ありがとうございます」
私は持ってきた手鏡を
「……
「喜んでもらえたようで良かった」
(やった!! 気に入ってもらえたみたい!)
喜びで胸が
この出来事をきっかけに、私はジョシュアと段々親しくなることができた。感じていた
それから一年が経った
貴族であればよくある結婚の仕方ではあるが、お母様の愛はとにかく異常だった。お母様がお父様の
(
十二年間、お母様がお父様を待ち続けていたのだとしたら、次の結婚記念日に再びお父様が来ないことが引き金となって、積み重なった悲しみが
結婚記念日を祝おうと準備しているのに、来ないお父様もお父様だが、お母様にも何か問題があると考えるのが
そんなお母様が悲しみのあまり心中をしてしまうのではないかという不安と、シナリオ通りに進む
(お母様は今度こそお父様が来てくれると信じて疑わないのよね……)
一体その自信はどこからくるのだろうかと疑問になるほど、お母様は
こうして、もう一度作戦を練り直すことになった。
ゲームの知識では、お母様が心中を
(一度火を放つのを止めたとしても、また別の日に起こるかもしれない。……お母様の気持ちという根本的な問題を解決しない限りは、バッドエンドは常に付きまとうでしょうね)
最適解を探しながら、私は頭を
「お母様の気持ちを変える……簡単にできたら苦労しないわよね」
「そうだね、お母様はとにかくお父様命だから」
「……!」
バッと振り向けば、そこには可愛らしい
「ジョシュア!」
「また
「どちらかというと
出会った頃は敬語で一線を引かれているような
(やっぱりため口で話しかけてくれるのは嬉しい……!)
ジュエラブのジョシュア様は基本的に敬語で、壁がなくなるとため口になるので、これは心を許してもらえた証拠だった。義姉弟として仲を深められたことを改めて実感する。私が一人喜びを感じているうちに、ジョシュアは
「姉様が悩んでいるなんて
「それは……ほら、義姉弟になれたのが嬉しかったから」
「ふーん」
それは
「……僕は姉様ほどお母様のことはわからないけど」
「?」
「姉様らしくぶつかってみればいいんじゃないかな。僕にしてくれたみたいに」
私がジョシュアにしたことといえば、眼帯や
(思えば色々したなぁ。ジョシュアを前にすると、どうしてもジョシュア様を思い出しちゃって、前世にしていた
その
「何か思いついた?」
「うん……だけど、あまりにも
「でもお母様相手ならその方がいいんじゃないかな。ほら、目には目をって言うでしょ」
「変わっている人には変わった案を……って、こら! お母様になんてことを」
「そこまで言ってないけど」
「……さっ。作戦を考えないとね」
自爆をなかったかのように
(ジョシュアの成長を見守るためにも、なんとしてでもバッドエンドは
お父様には異常な愛を見せるが、私には至って普通の母。それ
思い立ったら
(まさかここまで
お母様は、なぜか今回の結婚記念日は成功すると
(
結局私は、結婚記念日当日まで作戦を実行することができなかった。
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