第52話 怪しい噂
俺とシアの模擬戦を見せると、AクラスだけでなくSクラスのみんなまで固まっていた。
あれ? Sクラスの方は最初の授業でも見てるよね?
何でそんな固まってるんだ?
「あ、あの、ノール様. . . . . .」
「あ、ごめんシア」
「いえ. . . . . .」
つい抱きしめたままだったシアを離すと、赤くなりながら俯いていた。
いや、それは反則だろ。
というか、他の奴がいるのにそんな顔しちゃダメだって。
急いで俺はシアの顔がみんなから見えなくなる位置に立った。
「え、えーと、勝者、ノール」
エインまでなんか動揺しちゃってるし、ほんとどうしたんだ?
まさかシアに惚れたとか言わないよな?
「エイン、どうかしたの?」
「あぁ、いや、2人の模擬戦があまりにもかけ離れていたからね。つい言葉を失ってしまったよ」
確かにシアの実力がかなり上がっていて、かなりハイレベルな戦いになったと思うけども。
「ま、まぁ、これで全員の実力がわかっただろうし、今日は前半戦の練習をしよう」
エインの声で、固まっていた者たちはなんとか動き出した。
♢ ♢ ♢
「ノール、最近ある噂を聞いたんだけど、知ってるかい?」
練習が始まって少し経ったある日、エインが昼食のときに聞いてきた。
ちなみに昼食は俺とシア、エイン、ルナの4人で基本食べている。
周りの、特にクラスメートなんかはエインやシアを狙ってるけど、残念ながらそうはさせない。
「噂? 対抗戦の?」
「そう、ただの噂だからあまり信じるのは良くないけど、先輩たちがかなり強いという噂だ」
なんだ、それは。
そもそも噂じゃなくて本当だろ。
去年1つ上の学年に勝ってるんだから。
「それって噂じゃなくて本当のことでしょ。去年一つ上に勝ってたよね?」
「いや、もちろんそうなんだけど、今回はちょっと違って、総合で優勝しそうな勢いらしい」
え? それはおかしい。
去年勝ったといってもまだ2年生。
最高学年とは4年も差がある。
普通に考えたら勝てるはずがないのだ。
「そんないきなりパワーアップするかなぁ?」
「うん、私もそれはおかしいと思ってね。噂だから誇張しているのかもしれないけど、それなりに多くの人が言っていたから、少し気を付けたほうがいいかと思ったんだ」
誇張って言葉、この歳で普通使うかな~?
まぁ、噂ならそれぐらいはする人がいるだろうけど、なんでみんな信じてるんだろう?
ちょっと調べてみるか?
「シア、ちょっと後で見に行ってみない?」
「はい。私も見てみたいです。ノール様に勝てるなどと自惚れているようですし」
いや、去年勝ってるなら俺にも勝てるかもしれないと思うんだけど。
まぁ、放課後にちょっと見に行ってみて、見極めるとしよう。
♢ ♢ ♢
てなわけで、放課後、2年生が練習しているところに来た。
ちなみに俺たちも練習があったが、俺とシアの実力がかけ離れているので、情報を集める目的でこっちまで来ている。
エインに話をしてもらったら、みんなからも快諾された。
「これが2年生か。確かに魔力量が多いね」
「はい。私が言えることではありませんが、この年齢では少々おかしい量です。何かやっているのでしょうか?」
練習している一人一人を観察していると、全員ではないが、確かに魔力量が多い人がいた。
それも1人だけじゃなく、10人以上だ。
他の学年を見ていないからわからないけど、1年生はエイン以外勝てないだろうな。
シアの言った通り、何かやっていると思えるレベルだ。
いくら2年の特待生クラスと言ってもこれはおかしい。
「うん、その可能性があるね。何かの魔道具かな? なんか手のひらに持ってるようだし」
「聞いてみますか?」
「教えてくれないと思うけど。さすがにそんなペラペラと話さないでしょ」
いや、もしかしたらシアならいけるのかもしれない。
しかし、2年生にまでシアが狙われては欲しくないのだ。
シアが行けば、確実に面倒な奴が寄ってくるのが目に見えている。
身分だけでなく、年齢的にも先輩だから傲慢な奴が多いと思う。
「やってみなければわかりませよ?」
「いや、シアが変な奴に絡まれるから」
「大丈夫です。ノール様を除いて、私よりも強い者はここにはいませんでしたから」
「確かにいないけど. . . . . . じゃあ、念のために仮転移で行ってほしい。俺もついて行くし」
「はい、ありがとうございます」
本当は俺が危機に行きたいけど、たぶん俺には何も話さないだろう。
せめてシアがいつでも逃げれるようにしないと。
♢ ♢ ♢
放課後の練習が終わり、今日は解散となった。
去年、1つ上の学年に勝ってからというもの、どんどんと成長して今年は総合優勝も狙えるというところまで来ている。
こっそり教えてもらった方法がかなり効いたようだ。
「よ~し、じゃ、帰ろうぜ」
「あぁ、今日も疲れたな~」
いつも一緒にいる仲のいい友達と共に寮に向かって歩き出す。
長々としゃべっていたために他の奴はもう帰っており、周りには人がいない。
おまけに冬で、既にあたりが暗くなっている。
「あ、あの」
と、後ろから声をかけられた。
きれいな声だと思って振り返る。
「えっと、その、2年の先輩の方ですよね?」
そこには息をのむような可憐な少女が、儚げな不安定さを醸し出して立っていた。
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