第47話 過去の魔物

 医務室から出て、まずはヒスイさんの部屋を訪ねた。

 本当は授業があるらしいが一応病み上がり?だし、そもそも授業ではあまり身につくものもないからこっちを優先だ。

 もちろんシアもついてきている。

 あ、さっきの魔力の件は放課後にやるつもりだ。


――コンコンコン


 「入れ」


 「「失礼します」」


 「お前たちか。ノールも目が覚めたようで何よりだ」


 「いろいろと助けていただいてありがとうございました」


 「何を言う。あれはもともと学園側の不備だ。お前たちが助けてくれた側だろう。礼を言う」


 俺は1日寝てたのに、ヒスイさんは普通に仕事してた。

 すごいタフだな。


 「それで、何を訊きたいんだ?」


 「あの後どうなったのかをまず知りたいです」


 「そうだな. . . . . .」


 ヒスイさんの話をまとめると、まず、あの魔物は完全に死んだらしい。

 俺も倒れる前に魔力が消えていくのを感じたからそれはわかっていたが。

 その後、学園長とヒスイさんがシアも連れて医務室に俺を運んでくれた。

 地下の件は上層の先生たちと会議になって、しばらくはあの研究室ごと閉鎖だ。

 生徒たちに不安が残らないよう、授業は次の日に再開となったらしい。


 いや~、先生たちもすごいね。

 ちなみに、俺とシアのことは何も話していないそうだ。

 上層部の先生にさえ、俺たちが関わったことは秘密のようだった。


 「まぁ、こんなものだ」


 「あの倒した魔物って何だったんですか? 先生は知ってるようでしたけど」


 そう、あの魔物はマジで意味わからない強さだった。

 特に魔力量がバグってた。

 先生たちも名前を聞いて驚愕してたし。


 「あぁ、そうだな。あれはおそらく10年前の災害の魔物だ」


 「10年前. . . . . .」


 「ん? どうしたのシア?」


 「あ、いえ、私の父も10年前に森に行って帰らなかったので」


 「お前たちの町はあっちの方だったか。だとすると、関係あるかもしれないな」


 「? どういうことですか?」


 「10年前、王都の外れの森に化け物みたいな魔物が出た。最初は普通に冒険者パーティが向かっていったが全滅し、ついには私たちSランクの冒険者も駆り出されることになった。その時に戦ったのがあのグファールという魔物だ。まぁ、原型はほとんどなかったがな」


 つまりヒスイさんは一度、あの魔物と戦っていたのか。


 「しかしなぜそれがシアのお父さんと関係あるのですか?」


 「あの魔物が出たのはちょうど、王都からお前たちの町の方角にずれた場所だ」


 「ということは、魔物は俺たちの町から来たかもしれないということですか?」


 「そうだ。いや、もしくは私たちが戦った後だったのかもしれないが」


 ヒスイさんが戦った後なら、ボロボロで町に侵入できるのかな?


 「ヒスイさんたちが戦った後ならボロボロだったんじゃないですか?」


 「あぁ、私たちは何とかしてそいつにダメージを負わせたんだが、瀕死のところで逃げられてしまってな。どこかで回復していたのかもしれない」


 「町の近くにあんな魔物がいたら気づきそうなものですが」


 確かに、俺でも地下で隠されてるときの気配を感知できたんだから、誰かが気づいててもおかしくないはずなのに。

 しかもシアのお父さんが帰ってこなくなってから捜索隊が出されたはずだけど、その時にはもういなかったってことになるな。


 「今回のように、誰かが魔物を隠していたのでしょうか」


 「その可能背はあるな」


 シアの言う通りかもしれない。

 あのヴィセンシャフトラという組織が関わってそうだ。


 「ノールが言っていたヴィセンシャフトラだったか。あれが動いていたのかもしれん」


 ヒスイさんもあの組織のことは覚えていたようだ。

 これって王族は知ってるのかな?


 「後でエインに話しておきます」


 「生徒を巻き込むのは気が引けるが、確かに王族に話しておくべきだろうな」


 あの魔物の話がひと段落したところで、ヒスイさんの目が鋭く俺を貫いてきた。

 あれ? 俺、何か悪いことしたかな?


 「さて、お前の聞きたいことは答えてやったし、私の質問も答えてもらいたい」


 「え? まぁ、答えられる範囲でなら大丈夫ですけど。俺、何かしましたかね?」


 「あぁ、あの最後のときだ。魔物が急に弱体化していたな。そしてお前はあの魔物の魔力に苦しんでいたようだった」


 確かに、なんか苦しかったな。

 普段はあんなのになったことないのに。


 「あれは何かリスクのあるものだったのだろう?」


 「いえ、普通はリスクは無いと思います。あの時の後遺症もありませんし、俺だって苦しくなるとは思いませんでしたから」


 「正直に話せとは言わないが、もしリスクがあって何らかの形で後が残るのならこれ以上は使うな。本当に必要な時を見定めて使うべきだ」


 あ、これって心配してくれてるんだな。

 元Sランクの冒険者だし、きっとそういう人たちを見てきたのだろう。


 「わかりました。もっと慎重に使います」


 「あぁ。あまりリスクのあるものに頼りすぎるな。お前たちはまだ子供なんだから他の方法でいくらでも強くなれる」


 「はい」


 ついでにシアの心配もしているし、やはりヒスイさんはいい先生だな。

 しっかしなんであんなに苦しくなったんだろう?



 ♢ ♢ ♢



 「ふぅ」


 2人が出て行った後、小さく息を吐き出す。

 今更、たかが子供2人と話すのに緊張するとは思わなかった。

 前々から、あの2人の異常性はわかっていたつもりだが、さらに認識を改める必要がありそうだ。

 特にノールの方。

 模擬戦でSランク冒険者に届いているとわかった時にはかなり驚いて、あいつの強さを評価し直していたのだがな。

 昨日の戦いで使った魔術。

 あれだけならば、まだSランク冒険者のかなり上の部類で収まる。

 ただ爆発させるだけならば。

 しかしあいつは、完全に部屋の中でのみの爆発で収めた。

 あの魔物があれだけボロボロになっていたことから、威力はそのままだったはずだ。

 つまり、あの威力の魔術を制御していた。

 結界を張っているようには見えなかったから、また別の方法だろう。

 それだけでも未知数の力なのに、さらに不可解な光景を目の当たりにした。

 あいつの中に、魔物の魔力が生まれたのだ。

 いや、あいつの魔力がすべて、魔物の魔力となっていた。

 しかし、そんなことはあり得ない。

 魔力が別になるということは、別の生き物になるということだ。

 それでもあいつは人のままだった。

 そしてなぜか、あの魔物が急激に弱くなった。

 私の単なる一振りで絶命するほどに。

 だが、代わりにノールに異変が起きていた。

 とても苦しそうだったのだ。

 おそらく、体に別の魔力が流れているからだと思う。

 あれはかなりリスクのあるものだったはずだ。

 さっきは説教じみた事を言ったが、もとはといえば私たちの力不足が招いたこと。

 もっと強くならなければならない。

 引退した身だが、せめて生徒ぐらい守れるように。

 そして、あいつにもリスクを冒す必要が無いよう、私から教えられることは教えて行こう。





――――あとがき――――


 まずは、誠に申し訳ありません。

 少々用事があり、更新日が空いてしまいました。

 いつも読んでくださった皆様にはご迷惑をお掛けしました。

 お詫びになるかわかりませんが、新しくもう1作品を投稿しました。

 よろしければご覧ください。

 今日からはちゃんと毎日投稿するつもりですが、ストックを増やせてないので、また日が空くかもしれません。

 反省しているのか! と思うかもしれませんが、頑張って継続するつもりですので、ご容赦ください。

 今後もどうか、この作品をよろしくお願いします。

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