第45話 地下での戦闘

 「グオォォ!」


 雄叫びと共に魔力をばらまきながら、至る所に体当たりをしている。

 ぶつかった場所は大きく抉れ、あらゆる物が落ちてくる。

 魔術の明るさしかない暗い部屋の中、ヒスイさんはグファールなる魔物の攻撃を紙一重でかわし、隙を見て刀を振るう。

 しかし、かなり硬いのか、かすり傷程度しかつかなかった。


 「副学園長、そのまま注意をひいてください」


 「了解!」


 シアはこっちに飛んでくる物を止めながら、貫通力の高い魔術を放ち、また魔物の動きも妨害している。

 学園長はヒスイさんが注意を引いている隙に、攻撃力の高い魔術を急所に放ちつつ、ヒスイさんに回復魔術をかけたりしていた。

 みんなが戦っている中、俺は魔力量を偽って大量に出し、試験のときのよりも遥かに高威力な魔術を構築していた。


 「ノール! それはいつできそうだ?!」


 「もう少しです!」


 とてつもない魔力量を使ってるから、グファールという魔物も俺に向かって来ようとしていた。

 おそらく、俺が最も脅威であると認識したのだろう。

 それをみんなが頑張って防いでくれているが、いつまでもつかわからない。

 俺は全員を信じて、魔術の構築に集中した。


 少ししてようやく学園どころかこの辺り全部が吹き飛びそうな魔術が完成する。


 「全員俺より後ろに下がってください!」


 そう言った途端、全員が驚くほど速く俺の後ろに下がった。

 妨害が無くなったことで瞬く間にその魔物は俺の目の前に来たが、俺が魔術を放つのが先だった。


――ドガーン


 ためていた魔力を一気に開放し、目の前に向けて放つと、耳が潰れるような轟音と地震のような揺れが怒った。


 あれ、音を偽ってたはずなのに、耳が痛くなるぐらいの轟音だ。

 ちゃんとこの部屋の範囲内で爆発するよう制御はしたし、学園が吹き飛んではいないはずだけど。


 「. . . . . . やったのか?」


 ちょっとして、部屋がまだ暗いことを考えると、ちゃんと制御はできているようだった。

 そしてヒスイさんがフラグ的なことを言う。

 それを言ったら大抵はやれてないんだ。


 「っ! ノール様!」


 目の前に殺気を感じ、防御壁に集中する。


――ガキンッ


 俺の壁がひび割れ、煙が散ったその場所には、グファールなる魔物が血だらけの姿で立っていた。

 やはりまだ生きていたか。

 ボロボロになっているというのに殴っただけでこの威力だ。

 いよいよヤバい状況になったな。


 「まさか、これでも生きているとはな」


 「これはまずいですね。2人は全員を避難させてください。ここからは我々でやります」


 いやいや、さすがにこれは2人じゃ無理だ。

 確かにここにいれば死ぬかもしれないけど、俺たちが生徒を避難させたところでこいつを倒さなきゃ意味がない。


 本当は2人の前であまりやりたくなかったが、概念をちゃんと使った方が良さそうだ。


 「シア、悪いけどこれを解除してもいい?」


 「. . . . . . わかりました。くれぐれも気を付けてくださいね」


 シアは俺のやりたいことを理解してくれているようだな。

 ここにいられないのが残念だろうけど、許してほしい。


 「うん」


 「ノール、何をする気だ?」


 「できればお2人には見せたくなかったんですが、これは仕方ありませんね」


 グファールなる魔物は今も、俺の壁を壊そうと殴ってきている。

 俺は壁が壊れては作って、壊れては作ってを繰り返しているのだ。

 急がないと俺の体が魔力に持たないかもしれない。


 「これ以上は危険です。2人とも、今すぐに逃げてください」


 「ここで倒せなきゃ、避難しても同じでしょう」


 仮転移を解除し、シアの姿が消える。

 さすがに先生たちがこっちに来る前に魔物は倒したと思うから、あっちの部屋に1人でも大丈夫だろう。


 「!? まさかシアさんだけを逃がして、自分は戦うつもりですか?」


 「そうですね。シアを安全な場所に逃がしたいとは思いました」


 「おい、ノール! お前も早く逃げろ!」


 ヒスイさんが怒鳴ってくるが、俺は気にせずに自分の魔力をグファールなる魔物の魔力に偽った。


 「!? ノール、お前. . . . . .」


 「ノールさん!? 何をしているんですか!」


 先生たちの顔が青ざめていく。

 俺もあんな肉塊になるのを危惧したのだろうか。


 「おい、ノール! 早くそれをやめろ!」


 ヒスイさんが迫ってくるが、俺はグファールなる魔物の強さ、硬さ、生命力を偽った。


 「くっ!」


 ちょっとあまりに大きく偽って魔力を消費し過ぎたせいか、それともあの魔物の魔力のせいか、少し苦しくなって膝をつく。

 これは今までに感じたことのない痛みだ。


 「おい、早くやめ「先生、早くアレを」」


 頭が痛くなる中、今があの魔物をやれるチャンスだと先生に伝える。

 きっと今倒せないと、この学園はとんでもない被害を受けるだろう。


――グサッ


 俺の必死さが伝わったのか、ヒスイさんは俺の壁を壊せなくなったグファールなる魔物の頭に刀を突き刺した。

 弱くなり、生命力も失った魔物は、急所を貫かれて絶命する。

 魔力を感じなくなってから俺はすぐに概念を解除し、その場に崩れ落ちた。

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