第44話 魔物の暴走

 「さてと、案内してもらおうじゃないか」


 めっちゃ怖い迫力のあるヒスイさんが研究室の人にそういうと、その人は驚いた顔をして、しかし黙ったままその階段を下りて行く。

 俺たちもヒスイさんと学園長について行って、階段を下りた。


 下へ降りた研究室の人は、なにやら机をごそごそと漁っていた。


 「おい、何をしている? 学園に無断でこんな施設を造ったんだ。いろいろと聞かせてもらうまで怪しい行動はしないことだな」


 ヒスイさんが刀を抜き殺気を込めてその人を睨むが、その人は少し怖がっただけで手は止めなかった。


 「ここの説明をする前に見てほしいものがあるんです」


 「ほう、ならば今から見るものについて話せ」


 「あなたの様子からして、ここに来たことがあるんですよね? ならわかると思いますが、通路の奥の部屋です」


 「奥の部屋がどうした?」


 「そこに行けばこの場所の説明がつきますので、ぜひ見ていただきたいんです」


 この人、何を言っているんだ?

 まさかとは思うがあの化け物を見せて、あれのためにここを造ったから許されるとでも思ってないよな?

 さすがに怪しい。

 きっと罠だと思う。


 「今、ここで話してもらおう」


 「どうしても見てはいただけませんか?」


 「あぁ。そもそもこんなことをしておいてお願いができると思うな」


 さっきから聞いてると、かなりヒスイさん怒ってるよな。

 まぁ、あんなのが暴れでもしたら何人死ぬかわからないし、先生からしたら当然か。

 しっかしこの人、マジで何考えてるんだ?


 「そうですか、それでは仕方ないですね」


 研究室の人はそういうと、さっき机から取り出したと思われる小瓶?を取り出して、地面に叩きつけた。


 「何をしている! っ!」


――ギーン


 その瞬間、あの化け物がいる通路とは違う扉から、これまた異形の魔物が5体飛び出してきた。

 研究室の人に振り下ろそうとしたヒスイさんの刀は、魔物の攻撃を受けるために軌道を逸らされてしまう。

 出てきた魔物は全て魔力量がかなり多く、力やスピードもあってヒスイさんに奇襲を仕掛けてきた。


 「危ない! シア、こっち!」


 さすがにヤバいと思った俺は、シアを抱き寄せて周りに風の刃を渦巻かせる。

 そうしてできた小さな刃の竜巻の中心に、密度と硬さを偽ってガッチガチに固めた土の壁を作った。

 ついでに色を透明に偽れば、透明な防御壁の完成だ。

 まぁ、シアが飛んできた物すべてを停止させてくれたから、あまり意味はないが。


 「ノール様! あの人が逃げました!」


 「わかった。先生! 俺たちは先回りします!」


 このタイミングであそこへ向かったのなら、間違いなくあの化け物を暴走させる気だろう。

 この魔物たちのように。


 「すぐに行くから気をつけろ!」


 「無理はしないでください!」


 さっきは奇襲でヒスイさんもちょっと押されたが、先生たちなら心配ないだろう。

 返事をほとんど聞かずにすぐに仮転移する。

 先生たちはその間にも、2体の魔物を倒していた。



 ♢ ♢ ♢



 仮転移した部屋は暗かったが、すぐに扉が開いた。


 「シア、あの人の空気を止めて」


 「わかりました」


 そして俺は自分の姿を5m左に映し出した。


 「!? なぜここにいるのですか!? 鍵は!?」


 そりゃ鍵を開けて入ったのに、さっきまで部屋にいたやつがいたら驚くだろう。

 しかし今はそんなことを言ってる場合じゃない。


 「それよりも早く諦めたほうがいいと思う。時間稼ぎもあれじゃできないよ」


 「子供風情が生意気な!」


 すると、シアの概念を無理やり破って俺に殴りかかってきた。

 かなり強い人だと思っていたが、まさか力でゴリ押しするとは。


 「なっ!? すり抜けた?」


 まぁしかし、見事に俺の右5mを空振った。

 そのまま俺はその人にかかる重力を偽り、地面を落とし穴にして捕らえようとした。


 「目覚めなさい! ゲファール!」


 だが、俺を空振ったと思った時には、すでに檻に向かって何かを投げ込んでいた。

 その何かが檻の中の肉塊にぶつかると、途端に魔力が溢れ出した。


 「シアっ!」


 俺はさっき使った壁をシアと自分の周りに張る。


 「いったい何だこれは!」


 「2人とも、無事ですか?」


 ちょうどその時、ヒスイさんと学園長が入ってきた。

 2人ともあの化け物の魔力に驚いている。


 「ハハハハハッ! これであなたたちも終わりです! 行きなさい、グファール! すべてを破壊するのです!」


 「グファールだと? まさか本物なのか?!」


 「なんと. . . . . .!」


 ヒスイさんと学園長はこの魔物を知っているようだ。


 「先生、あの魔物を知ってるんですか?」


 「あぁ。だがそれよりも、今はこいつを殺るのが先だ。くそっ、これはまずいぞ」


 「ハハハハハッ! 今更遅いんですよ! わざわざ正面から来るなんて、馬鹿じゃない. . . . . .」


――グシャッ


 かなりグロテスクな音がして、その人はグファールに潰された。

 いや、食べられた。

 あれはもう助からないだろう。


 「っ! シアっ、魔術を!」


 「はいっ」


 シアが3属性を使って魔術を放つ。

 同時に学園長も魔術を放った。

 ヒスイさんは刀で切り込み、所々で魔術を使って攻撃している。

 俺は防御をしながら、ある魔術の準備を始めた。

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