第43話 正面突破

 ノールの案内で学園の地下を見て回ったが、あれはかなり危険なものだった。

 副学園長である私が知らないのだから、学園の意図したものではないだろう。

 ノールの言っていた“ヴィセンシャフトラ”なるものも聞いたことがないが、危険であることは変わりない。

 早く学園長に伝えなければ。



 ♢ ♢ ♢



 ヒスイさんを案内してから1時間ほど経った。

 とりあえず案内が終わって夕食の時間になっていたから、シアと共に夕食を食べている。

 ヒスイさんはかなり焦っていたから、すぐに対策を取って、俺に連絡してくれると思うんだけど。

 というか、どうやって俺に連絡するんだ?

 気配はいつも他の生徒に紛れるぐらいにしてるし、探し回るのは大変だろう。

 いや、でもシアが目立ってるから何とかなるのかな。


 「っ! おい、あれ」


 「なんでここに?」


 「すごい。初めて見た」


 そんな風に考えていると、食堂の入り口辺りが騒がしくなった。

 ん? この気配はまさか。


 「ここにいたのか。早く来い。話がある」


 「まさか副学園長直々にお出迎えとは思いませんでした」


 「急を要するからな。先生の中では私が一番速い。それよりも早くついてこい」


 え、まだ食べてる途中なんですけど。

 シアは. . . . . . ってもう食べ終わってる?!

 ヒスイさんが来たのを知ってから食べるスピードを上げたのか。


 「ノール様。早く食べていきましょう」


 「あ、うん」


 「早くしろ」


 何とか頑張って食べ終えて、ちょっと不機嫌なヒスイさんについて行く。

 めっちゃ視線を感じたが、ヒスイさんの方が怖かった。

 あ、みんなはご飯をゆっくり食べてほしい。


 ヒスイさんに連れていかれたのは職員室がある棟の最上階の部屋だった。

 ヒスイさんの部屋のさらに上だから、おそらく学園長先生の部屋なのだろう。

 ヒスイさんが扉をノックし、入るよう返事が来たので扉を開けて部屋に入る。


 「失礼します。2人を連れてきました」


 「「失礼します」」


 「よく来てくれました」


 中に入ると、ヒスイさんの部屋よりも広く、様々なもので埋め尽くされた空間が広がっていた。

 そして奥の高級そうな椅子には、背の高い、ちょっと年を取った茶髪の男性が座っていた。

 入学式の時にも見た、学園長先生だ。

 たぶん歳は50後半だと思うけど、内に秘める魔力量がすごい。

 俺も負けてないと思いたいけど、経験値が違うから魔術だけで戦ったら負けるだろうな。


 「2人のおかげで学園の危機に気づくことができました。本当にありがとうございます」


 「いえ、たまたま見つけただけですし、勝手に探索しましたからね。それよりも今はアレをどうするかです」


 「そうですね。副学園長よりも強いあなたが不安になるぐらいならば、残念ながら安全を保証することができないでしょう。生徒たちには避難してもらい、私が1人で正面からその魔物に挑もうと思っています」


 「学園長、それはあまりに危険です。私も行くべきでしょう」


 「副学園長。あなたは私に何かあったときに学園を任せられる人なのです。あなたまで連れて行くわけにはいきません」


 たぶんこの2人、俺を連れてくるまでにも同じことを言い争っていたな。

 しかしまぁ、学園の危機ならば、俺も役に立ちたい。


 「俺も行っていいですか? アレをやれるかはわかりませんが、地下の案内はできますし、逃げる手伝いもできると思います」


 「あなたは我が学園の大事な生徒です。こんな危険なことには巻き込めません」


 「俺も学園の生徒だから役に立ちたいんです。そもそも、アレを見つけて探索したのは俺ですよ。最後まで関わらせてください」


 「私からもお願いします」


 「私も連れて行くべきです。2人が行くならば私が面倒を見ましょう」


 3人から絶対に折れないような圧を受けて、学園長先生はため息をついた。


 「わかりました。私が危険だと判断したら私を置いて逃げることを約束してくださるのなら、いいでしょう」


 「「「約束します」」」


 「はぁ、それでは作戦会議をしておきましょう」


 そうして、生徒たちに臨時休校と言って寮に自粛してもらうことにし、近くを教師たちに守ってもらうことになった。

 その間に俺たち4人は地下へ行き、アレを処理する段取りだ。

 学生寮は研究室からかなり離れているし、いざという時は結界を張れる先生がいるから何とかなるだろう。



 ♢ ♢ ♢



 そして作戦の日。


 「やあ、ノール。今日は臨時休校らしいね」


 シアと合流しようと寮の部屋を出ると、エインに会った。


 「そうだね。できるだけ寮から出るなって言われたけど、エインは何してるの?」


 「君は今からあの地下に行くんだろう? 応援をしたくてね」


 「話が早いね。エインは地下に行きたいとか無いの?」


 「これでも私は自分の力を正しく認識しているつもりでね。君でも危険という場所に連れて行ってくれなんて言えないよ。もちろん、行きたい気持ちはあるけど」


 「そっか。じゃあ、エインの分も頑張ってくるよ」


 「あぁ、頼んだよ」


 そのまま気配を偽って寮を出て、シアの部屋の窓から中に入った。


 「おはよう、シア。そろそろ行こうか」


 「おはようございます、ノール様。わかりました」


 すでに準備を終えていたシアを連れて、研究室のほうへ向かう。

 研究室から少し離れた所に先生たちは待っていた。


 「来たか。早速だが行くぞ」


 「2人とも、くれぐれも気を付けてください」


 「「はい」」


 そして研究室の中へ入ると、そこにはやはりあの時の人がいた。

 ちなみに俺たちは気配を偽っている。


 「おや? 学園長先生に副学園長先生。どうかなさいましたか?」


 「ここの地下について調べに来た」


 「地下? どういう意味でしょう?」


 「とぼける必要はない。さっさと地下への扉を開ければいい」


 「ですから、何のことかと」


 「わかった、なら無理やり開けるまでだ」


 そういって、空の檻の地面を切り裂いた。


 ガラガラッと音を立てて床が崩壊し、地下へ続く階段が現れる。


 「さてと、案内してもらおうじゃないか」


 なんかヒスイさん、めっちゃ怖いな。

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