第42話 地下の案内(2)

 俺たちは仮転移をして、地下の最初の部屋に来ていた。


 「本当に転移ができるとはな。しかも自分の姿すら見えなくなってるじゃないか」


 「さっき説明したとおりです」


 「確かに言った通りの化け物じみた力だ。それで、ここは地下のどのあたりだ?」


 「研究室の隠し階段を降りてすぐの部屋です。研究室にいる方がここに来て紙束と肉を持ってあちらに歩いていくのを見たんです」


 「研究室の奴か。私は良く知らないが、あまり良い噂は聞かないな」


 「まぁ、ここを調べていてそんな気がしてました」


 魔物の研究をしている時点で、結構ヤバそうなイメージがあるが、ここの研究もイメージ通りヤバい。

 生き物の解剖よりもグロいものがいくつもあった。


 「それで、お前の言うヤバい肉塊はどこだ?」


 「こちらの通路の奥です」


 そういって、俺は階段と反対側のドアを開き、通路を歩く。


 「本当にここは学園の地下なのか?」


 「本当ですよ。真上に生徒や先生の気配もあるでしょう?」


 「いや、確かにそうなんだがな。まさかこれほど広い空間が知らない間にできているとは思わなかった」


 「学園長先生はご存じなのですか」


 「いや、おそらくご存じでないだろう」


 これほどの大きな地下があるのに知らないのは不自然だ。

 学園長先生は魔術に長けているそうだし、ここにあるヤバい魔力にも気づきそうなものだが。

 まさか学園長先生がここを造ったとか?

 いや、さすがに無いか。


 「この辺りの部屋は一通り見て回りましたが、研究の成果?的なものの資料しかなくて、魔物の研究室ならあってもおかしくない物ばかりでした」


 「これほどの地下でそんなありきたりな実験はしないだろう」


 「はい、俺もそう思います。ただ、ヴィセンシャフトラという組織の名前が書いてありました」


 「そんな名前の組織は聞いたことがないな。薬品の名前とかではないのか?」


 「俺もそれはわかりません。ただ、『ヴィセンシャフトラの戦力に』と書いてあったので、組織の名前かな、と」


 「戦力とは、物騒だな。それがあった部屋は何の研究がされてたんだ?」


 「他の部屋と変わりませんでした。たまたまメモのように本と本の間に挟まっていたんです」


 「かなり怪しいな」


 「はい」


 そうして歩いていくと、最後の部屋にたどり着いた。


 「ここがヤバい魔力を持つ魔物?のある部屋です」


 「どうみても鍵がかかっているが?」


 「ここへ来た時のようにすればいいだけですよ」


 そうして数m先に転移する。


 「鍵の意味が無くなるな」


 そこでは前と同じように、ただならぬ魔力を溢れさせる肉塊が脈打っていた。


 「っ、これは確かにヤバいな」


 「はい。ただ、何かが混ざったような異質な感じなので、たぶん改造されたんだと思います」


 「まあ、普通に生きていてこうなることは無いだろうな。それで、こいつは今殺った方がいいと思うが?」


 「いや、もしそれで暴れ出したら怖いじゃないですか。念のために生徒のいないときにするべきでしょう」


 「確かにそうだが、これは急を要する事態だぞ」


 「だから先生に相談したんですが. . . . . . あ、誰か来ました。静かにしてください」


 先生も気づいたようで、頷いて端の方へ移動する。

 気配はドアの目前まで来て、鍵を開けた。


 入ってきたのは、あの研究室の人だった。

 最初に見たときと同じように、紙束と肉を持っている。

 檻に近づくと、持っていた肉を檻の中へ投げ込んだ。

 檻の中の肉塊は側に落ちた肉に覆いかぶさるように動いて、また元の位置に戻る。

 肉はきれいさっぱりなくなっており、血の跡だけが残っていた。

 研究室の人は数分間その檻を眺めて、何かを紙に書き込むと部屋を出て行った。


 どうやら、今回は俺たちに気づかなかったようだ。


 「もう大丈夫そうですね。今の人が上の研究室によくいる人です」


 「この肉塊を飼っているようだったな。学園に報告もせずこんな化け物を飼うとは、犯罪もいいところだ」


 「しかし、これからどうします? いったん戻りますか?」


 「地下をもう少し知っておきたい」


 「OKです。じゃあ、俺が探索したところを紹介します」


 そうして、地下の案内を始めた。



 ♢ ♢ ♢



 「これぐらいですね、だいたい俺が探し回ったのは。しかしどこも普通の研究資料とか魔物の本とかばっかりでしたから、あまり役に立たないと思います」


 「そうだな。だが、隠し通路とかがあるかもしれないだろう?」


 「確かにそうですね。それで、これ以上は案内できないんですけど」


 「ご苦労だった。いったん戻してくれ」


 「了解です」


 そう言って俺は概念を解く。

 視界がぼやけ、次の瞬間にはヒスイさんの部屋にいた。


 「あ、お帰りなさい、ノール様」


 「うん、ただいま。誰か来なかった?」


 「はい。誰も来てませんよ」


 「そっか。それで、先生はどうします?学園長先生に伝えに行きますか。」


 「ここは私の部屋なんだが. . . . . . 私はさっきのことを伝えに行く。お前たちは戻れ。何かあれば伝えよう」


 「わかりました。それでは」


 シアと一緒に先生の部屋を出る。

 この後どうなるのかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る