第38話 地下にあるもの

 通路の一番奥の扉の向こう側には、檻の中で謎の大きな肉塊が脈打っていた。

 見た目はとても気持ち悪いが、ただならぬ魔力を感じる。

 しかし、それにしては妙な気配だ。

 まるで異物が入ったような、何かが混ざったような感じがする。


 「シア、この前感じた気配はこいつだよね?」


 「はい、間違いないと思います。しかし、変な気配ですね」


 「うん。何か混じっているような感じがするよ。それにしてもこんな物どうするんだろう?」


 この漏れ出る魔力は明らかに化け物じゃないか。

 この学園はいったい何を考えてるんだ?


 「これはどうなさいますか?」


 「そうだね. . . . . . 今は触らない方がいいと思う。この学園のことをもう少し調べてから決めよう」


 「わかりました。他の場所も探してみますか?」


 「うん。どこかにこれに関する書物とかあるかもしれない」


 そうして、その檻に触れないよう気を付けながらその部屋を探したが、特に何もなかった。



 ♢ ♢ ♢



 通路を戻りながら目に付いた部屋に入り、何かないかを調べていたらすぐに夜が深くなった。

 授業ですこし宿題が出されていたし、ノワールの所へも行かないといけないので、概念を解除して俺の部屋に戻った。

 そして今度はノワールの所へ仮転移する。

 ノワールにこのことを聞いてみよう。


 「おぉ、主か。その能力は本当に便利だな。それで、何か美味いものは?」


 「悪いノワール。今日は忙しくて持ってきてないんだ。今から作ってあげるからそれで我慢してくれ」


 「仕方ない。早く作るのだ」


 「はいはい」


 来るたびに貢物のように何か食べ物を要求してくるのはどうにかしてほしい。

 料理って意外に時間がかかるんだよな。 


 「シア、サラとカインと一緒に鍛錬しておいてくれるかな」


 「わかりました」


 それから30分くらい料理して、ノワールと鍛錬する。


 「ノワール、学園の地下にすごい魔力を持った肉の塊があったんだけど、何か似たようなものを知らないか?」


 「そんな生き物は知らぬが、改造されたものだろう。我の地でも暴れて負った奴にの中に混じってそんなんがいた気がする」


 「俺が見つけたのも魔物の研究室の地下だったから、改造された魔物だと思うんだけど」


 「主がやばいと思うほどの魔物は我の地にいなかったな。何かさらに改造されたのか、あるいは元々強かったのかはわからぬが」


 「なら、関係ないのかな?」


 「赤黒い魔石は無かったのか?」


 「ただの肉の塊のように見えたけど、中に入っているかもしれないね。そういえば、王都の武器屋で赤黒い魔石は能力を強化するものだって聞いたんだけど」


 「ぬ? 能力の強化か。我はあの魔石については何も知らぬが、関連しているかもしれぬな」


 う~ん、ノワールの言っていたやつとは関係が分からないし、とりあえずはあの地下の探索をした方がよさそうだ。


 「まぁ、ゆっくり調べるとして、今は鍛錬を頼むよ」


 「承知した」


 それから魔術なしの鍛錬が始まった。



 ♢ ♢ ♢



 ノワールと鍛錬した後に子供たちに魔術を教え、カインとサラにも概念の使い方を考案し、全員で最後にご飯を食べてから帰ってきた。

 俺は概念を解除して、自分の部屋へ戻った。

 もうかなり遅くなっていて、たぶん夜の12時ぐらいだ。

 明日も授業があるから朝の6時には起きたいし、早く寝よう。


 「シア、送って行くよ」


 「いえ、もう遅いですし、必要ありません」


 「いや、でも、こんな夜中に女の子が一人で出歩くのは良くないよ」


 「. . . . . . でしたら、その、今夜はこちらで過ごしてもよろしいですか」


 うん? こちらで過ごすっていうのは. . . . . . 俺の部屋に泊まるってことか!?

 いや、確かに出歩くのは良くないって言ったけど、そういう意味じゃないって。

 シアもなんか赤いし。


 「え、いや、シア? 俺が言いたかったのは1人で出歩くのは良くないってことだよ?こんな夜遅くに男の部屋に泊まるのも良くないからね?」


 「誰にも見つからなければ良いのでは?」


 「いや、そういう問題じゃないよ。そもそも、シアはいいの?」


 なんかこの会話、試験前の宿でもやったな。


 「私は大丈夫です。もしかして、ノール様は嫌でしたか. . . . . .?」


 そんな落ち込まれたら、断れなくなるじゃん。


 「俺は嫌じゃないよ。じゃあ、シアがいいなら俺のベッドを使ってよ」


 「いえ、ノール様の部屋ですから」


 なんかデジャブだな。

 たぶんこれは前回と同じだろう。

 今回は俺から言ってみるか。


 「わかった。じゃあ、一緒に使おうか」


 「!. . . . . . はいっ!」


 とても嬉しそうだし、これで正解だろう。

 まだ12歳とはいえ、この時間に男女が同じベッドで寝るのは良くないことにしか思えないが、シアが喜ぶならまあ、いいか。


 「おやすみなさい。ノール様」


 「あぁ、おやすみ、シア」


 俺は全く眠れず、次の日の朝が大変になる気しかしなかった。

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