学園の地下編

第31話 入学式

 また少し日が経ち、ついに入学式の日がやってきた。

 すでに寮に入っており、荷物はまだ整理していないがここで寝泊まりしている。

 いつもより少し早めに起き、制服に着替えて朝の支度を終え、食堂に行く。

 まだほとんど人がいない食堂で、1人、目を引く生徒がいた。

 さらさらした長い銀髪に真っ白な肌、ほっそりと華奢な体つきでモデルのような体型の女子生徒。


 そう、シアだ。


 シアも俺に気づいて、俺の方に駆け寄ってくる。

 シアに見惚れてた男子生徒は俺に殺意の視線を送ってくるが、勝手にシアを眺めておいてそれはないだろう。


 「おはようございます、ノール様」


 「あぁ、おはよう。ちょっと待たせちゃった?」


 「いえ、先ほど来たばかりですので」


 嘘は言ってないからギリギリセーフだ。

 寝癖を直すのにもう少しかかってたらシアを待たせるところだった。


 「何度も思うけどほんとに似合ってるね」


 そう、数日前から毎日見ているが、毎回言いたくなってしまうほどにシアの制服姿は似合っている。


 「ありがとうございます. . . . . .」


 そう言う度にシアも照れるからお互い様かな?


 「混んでくる前に食べようか」


 「はい」


 今日は入学式なので、他の生徒も同じように早めに食べに来るだろう。

 現に、いつもより早い時間なのにいつもと変わらない人数だ。

 入ってくるたびに男子生徒の視線がシアに注がれ、俺には殺意の視線が飛んでくる。

 まったく、シアが可愛いのはわかるけど俺に八つ当たりしないでほしい。



 ♢ ♢ ♢



 朝食を食べ終え、シアと共に学園を見て回る。

 入学式まであまり時間がないが、今会場に入っても何もやることがないので、外からは見えなかった場所を探検している。

 一応時間はこまめに確認しているが、概念を使えばほぼタイムラグなしで会場に着けるし、心配いらないだろう


 「ここは. . . . . . 実験棟かな?」


 「こちらは研究室のようです」


 この前気配を感じたあたりに来てみると、そこには実験や研究を主な目的とした建物が集まっていた。


 「あの気配はなにか魔物の実験でもしていたのかな?」


 「その可能性が高そうですね。危険な魔物ならば地下に入れておいたほうが安全でしょうし」


 入学式が終わったらこのあたりの地下を調べてみよう。

 どっかに学園の地図とか置いてないかな。



 ♢ ♢ ♢



 「. . . . . . ここでは皆さんが将来、世界に羽ばたくための. . . . . .」


 前世でも今世でも、こういったセレモニーの話は全然俺の耳に入ってこない。

 というか、俺が代表で挨拶するタイミングはいつなんだ?

 いきなり呼ばれたらテンパって何言うか忘れそうだわ。


 「. . . . . . この学び舎で様々なことを経験して、己を高めていってください」


 学園長先生の挨拶が終わり、パチパチと来ている割には小さめの拍手が鳴る。


 「ありがとうございました。続いては、新入生代表の挨拶です。新入生代表のエイン・オーストシェン・アスラ様、よろしくお願いします」


 なんと、新入生代表は俺ではなかったのか。

 いや~よかったよかった。

 横でシアが残念そうな顔をしているが、俺としてはとても嬉しい。

 しかし今、司会の人が紹介してた名前ってこの国の王子だよな?

 やはり、こういったものの代表は身分の高い人がやるもんなのかな。


 そんな風に考えていると、ステージに金髪の背が高いイケメンが現れた。

 まだ12歳にもかかわらず、俺でもわかるほどカリスマ性を醸し出している。


 「. . . . . . 学園ではともに切磋琢磨し. . . . . .」


 しかしそんなイケメンからの言葉も、俺の意識には届かなかった。

 俺の意識は現在、シアの目線に集中している。

 なぜかって?そんなのシアがあのイケメンを意識しちゃったら俺が止めないといけないからに決まってるじゃないか。


 じっとシアの方を見ていると、シアも俺の方を見てきた。


 「? どうかされましたか?」


 「いや、シアが大丈夫かな~って」


 「?」


 シアが不思議そうに首を傾げているが、そんなことしたら余計に目を離せなくなりそうだ。


 そのまま新入生代表の挨拶も終わり、全員がぞろぞろと出ていく。

 この後は自分のクラスに行って、HRをやるのだ。



 ♢ ♢ ♢



 特待生組のクラスに行くと、すでにほぼ全員が教室にいた。

 俺たちが入るとすぐ、全員の目がシアに行った。

 そしてその後すぐ俺の方にも(主に男子からの)視線が突き刺さる。

 これは大変なクラスになりそうだな。


 とりあえず、まだ空いている席にシアと一緒に座る。

 ほとんどの人が立っていたことからも、ある程度は集団が出来上がっているようだ。

 それもそのはず、このクラスは俺たち以外は全員貴族であり、すでに社交パーティーや王宮で知り合っているのだ。

 シアは誰とでも仲良くなれる、というか向こうから寄ってくるだろうけど、俺は友達ができるかとても不安だ。


 「おはようございます」


 そんな風に思っていると、ドアの方からあのイケメン王子が入ってきた。

 みんなの視線もシアから離れ(俺への殺意も離れ)、イケメン王子へ向かう。

 しかし、イケメン王子はそんなことを少しも気にせず、真っすぐ俺たちの方へ歩いてきた。

 まさか、シアの可愛さに惹かれたのか?

 もしそうなら、たとえ王子でも俺は抗うぞ。


 「やぁ、君がノール君だね?お隣はシアさんといったかな?隣をいいかい?」


 そう思っていたが、なぜかイケメン王子はシアではなく俺の方へ話しかけてきた。

 もしかして、俺を通してシアに近づこうという魂胆か?


 「えぇ、どうぞ」


 「ありがとう。先生方は君の噂で持ち切りだったから、一度話してみたかったんだ」


 なに?俺と話したかったのか?


 「エイン様に興味を持っていただけるとは恐縮です」


 「いや、敬語は必要ないよ。同い年だし、この学園では身分は関係ないから」


 くそっ、性格までしっかりイケメンだ。


 「しかし、さすがにこの国の王子様にそういった態度は. . . . . .」


 「みんなそんな風に言うから、私には対等な関係の友達がいなくてね。ぜひお願いしたい。君なら貴族のしがらみは無いだろう?」


 確かに、貴族のよくわからない関係を気にする必要はないが、他の貴族から殺されるかもしれない。

 でも、対等な友達がいないってのは可哀そうだな。


 「え~と、じゃあ、わかった。タメ口で話すよ」


 「よかった。ありがとう」


 「こんなんでお礼はいらないよ。名前を知ってるみたいだけど一応自己紹介しとくね。俺はノール・リューゲだ。それでこっちが」


 「シア・アースファルです」


 「私の名前も知っていると思うけど、私はエイン・オーストシェン・アスラだ。この国の第2皇子をやってるよ」


 そうして、イケメン王子と友達になった。

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