第29話 合格通知

 家に帰ってきて1週間ぐらい経ち、ついに学園から通達が来た。


 「ノール、学園からきたわよ!」


 そんな母さんの声に部屋でシアと本を読んでいた俺は猛ダッシュで下りて行った。


 「はい、これ」


 「1回自分だけで確認してもいい?」


 「えぇ。ノールなら落ちてないと思ってるけどね」


 母さんに許可を得て、シアと共に町の役所へ行く。

 ちなみに父さんは現在、冒険者として金を稼いでいる。


 シアの受験票は直接取りに行って、住所も書かず町の名前だけを書いておいたので、町の役所に届いているはずだ。

 貧しい平民の子たちはほとんどが住所は書かずに町の役所へとりにいくらしい。


 「えっと、シアのは. . . . . .」


 「あっ、ありました。ノール様」


 シアはおびただしい数の手紙から、自分の名前を見つけ出した。

 普通は役所の人がやるもんなんだけど、この時期だけは多すぎるから自分のを見つけて、役所の人に言ってから持って帰る方式になっている。


 「じゃあ、せーので開けようか」


 「落ちているとは思えませんが」


 「まぁ、それでもだよ。いくよ. . . . . . せーの!」


 2人は同時に手紙の口を破って中身を確認する。


 「やったー!合格だよ!」


 「はい、さすがはノール様です」


 よかった。ちゃんと合格して多っぽい。

 シアも嬉しそうにしてるけどなんで驚いてないんだ?


 「シアはあんま驚いてないね」


 「さすがに落ちることは無いと思ってましたから。ですが、特待生になれたので良かったです。ノール様と同じクラスになれますから」


 ん?特待生?


 そう思って自分の手紙をよく見ると、そこには確かに”特待生”の文字があった。

 しかもそれだけではない。そこには主席とも書かれていた。


 「えっ! 俺が主席なの?」


 「当然です。あんなにすごいことは他の誰もできません」


 いや、王族とかもいるんだし、他にもできそうだと思うんだけど。

 しっかし主席合格か~。

 嬉しくないわけじゃないけど、前世の記憶ではだいたい主席が代表の挨拶をやるんだよな。

 絶対シアの方が容姿も頭脳もふさわしいんだけど。


 「何か気になることがありましたか?」


 「あぁ、いや、こういうのって主席の人が代表の挨拶をするのかなぁ~って思ってさ」


 「手紙にはなんて書いてあるのですか?」


 「それが何にも書いてないんだよね。一応考えとくか」


 「ノール様の挨拶、楽しみです」


 いや、やると決まったわけじゃないからね?!



 ♢ ♢ ♢



 家に帰って、主席合格だったことを伝えると、母さんが泣きながら喜んでくれた。

 こりゃ父さんはもっとすごい事になりそうだ。


 学園への入学が決まったので、必要なものをそろえに町へ買い物に行く。

 後でシアの分も買わないとな。


 必要なものは主に制服と筆記用具や紙、あとは一人暮らしに必要なものぐらいだ。

 全寮制だし、学園の近くにもいろいろ店があったから、何か足りなくてもそこで買える。

 というか、たぶん向こうの方がいろいろ揃ってる。

 シアのは学園に買いに行こう。



 ♢ ♢ ♢



 というわけで、いつ帰ってくるかわからない父さんを放っといて、シアと一緒に王都まで買い物に来た。

 今回は俺が保護者でシアはそのままの、王都を観光したときと同じ感じで行こうと思う。


 「ノール様。私たちは親子という設定なのですよね?」


 「うん、そうするつもりだよ」


 「なら、その. . . . . . 手を繋ぎませんか」


 確かに手を繋いでた方が親子っぽく見えるな。

 でも大丈夫かな?手汗かきそうだし、顔がちょっと赤くなるかもしれない。

 娘と手を繋いでて顔が赤いなんて変態だと思われるかも。

 でも、せっかくシアと手を繋げるチャンスだし、頑張れ俺!


 「じゃ、手を繋いでこっか」



 ♢ ♢ ♢



 学園の周りでシアに必要そうなものを一通り見繕った後、帰る前に学園のまだ見ていないところを見るために歩いていた。

 すると一瞬、学園の地下から入試のときに感じた気配を感知した。


 「っ!シア、今の感じた?」


 「はい。たしかにあの気配は異常ですね」


 今回はシアもわかったようだ。

 なんだか魔物のようだけど魔物でないような、よくわからない気配が感じられた。


 「何がいるんだろう. . . . . . .」



 ♢ ♢ ♢



 王都での買い物を済ませた後、俺は森に来ていた。


 「おめでとうございます。ノール様」


 「「「「おめでとー」」」」


 「さすがは主だ」


 「まぁ、ノールさんたちが落ちたら誰が受かるんだって話ですけどね」


 「主席合格だなんてすごいですね」


 「僕はダメでしたけど、さすがです」


 サラをはじめ、全員が俺たちの合格を喜んでくれた。

 カインにはちょっと悪いかな、と思ったけど、それほど気にしている様子は無くて安心した。

 学園の代わりに俺がみっちり教えてやらないとな。


 「ザックさんたちに聞きたいんですけど、新入生の代表挨拶って主席合格の人がやるものですか?」


 「えぇ、私たちの時は公爵家の方が主席だったから、その方が務めていらしたわ」


 やはりか。

 まともなことを言えるよう練習しとかないとな。


 「俺が挨拶しないといけないのか. . . . . .」


 主席合格についてもうちょい手紙に書いといてくれてもよくない?

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