第27話 新しい森の仲間
カインと別れて、シアには悪いけど外で待ってもらって家族で昼食を食べた。
その後馬車に乗り、行きと同じように家へ帰る。
帰りも護衛は雇わず、夜のためにまたまた父さんが母さんの膝の上で寝ていた。
「. . . . . . あの、ノール様。ノール様もお休みになられてはいかがですか?」
うん、確かに入学試験でかなり疲れたし、馬車の中ではやることもないからちょっと休んどこう。
そう思って背もたれに体を預けていると、ふいに横から引っ張られた。
「っ!」
. . . . . . 危なかった。音を偽ってないのに大声を出してシアの存在がばれるところだった。
というか、なんでシアは引っ張ったんだ?
今の体勢はシアに膝枕されてる感じだから、母さんが見たら頭が空中に浮いてるように見えただろう。すぐに偽ったけど。
たまたま母さんも眠そうに目を閉じていたから見えてなかったし、俺の声にならない悲鳴も届かなかったようだ。
「あの~、シアさん? どうしてまた急にこんなことを?」
「もちろん、ノール様にお休みいただくためです」
いや、確かに癒されはするけど、休めるかと言われたら休めないだろう。
こんなんで寝れるわけがない。というか、寝るのはもったいない。
「シアも疲れてるでしょ? 顔が赤いし少しは休んだ方がいいよ?」
「いえ、私は試験ではそこまで戦っていませんから大丈夫です。ノール様はお気になさらずお休みください」
そんなこと言われてもねぇ~。
全く休めなかったノールであった。
♢ ♢ ♢
馬車の旅が終わり家についてすぐ町へ出かけ、美味しそうなものを手に入れてノワールのもとへ行く。
「あっつ! ごめんなさい! 次はちゃんとしますから!」
今回は炎は飛んでこなかったが、代わりに涙目のレイさんへ火の玉が飛んでいた。
「大丈夫ですか、レイさん?」
「あ、ノールさん! 申し訳ありません。教えていただいたものが上手くいかず. . . . . .」
「あ、ようやく来たな主。どれだけ待ちくたびれたことか」
どうやら、不機嫌になったノワールがレイさんに八つ当たりしていたらしい。
「こら、ノワール。機嫌が悪いからって他の人に当たったらダメだよ」
「ふんっ!主が食い物を持ってこなかったから此奴の作ったものを食べるしかなかったのだ! 此奴が悪い」
「いや、どう考えても悪いのはノワールでしょ。ご飯を作ってもらったんだから感謝しなさい」
「美味い物を作るなら感謝するが、此奴には感謝できん」
なんと身勝手なドラゴン様だろう。
そんなに文句があるなら自分で作ってみたらいいのに。
「はぁ、まあ、とりあえずこれでも食べといて」
「おぉ、これは美味そうだ」
さっきまでの不機嫌オーラはどこへ行ったのやら、持ってきた食べ物に目を輝かせている。
「ごめんなさい、レイさん。もしノワールが機嫌悪くなったら町の美味しい食べ物を渡すといいですよ」
「いえ、私が作れないのがよくなかったんです」
「レイさんは料理をしたこと無いんでしょ?そんなすぐには上達しませんから、しばらくはノワールには町のものを上げたらいいと思います」
「はい、次からはそうします」
まぁ、これで何とかなるだろう。
「あっ、そうそう、みんなに聞きたいんですけど、また1人、ここに連れてきてもいいですか?」
「俺たちは構いませんよ」
「私もー」
「新しい子が来るの?」
「一緒に鬼ごっこしたい」
「. . . . . . モグモグ」
「一応言っておくと、その子は多分呪い持ちだと思います。どうやらたまに近くのものをひっくり返してしまうそうです。できれば一緒に練習して、制御方法を探してあげてください」
「おっす、承知しましたよ」
「みんなも仲良くしてほしい」
「「「「「はーい」」」」」
「ノワールもいいな?」
「飯を持ってきてくれるならいいだろう」
はぁ、こいつ話聞いてるのかな?
まぁいいや。
「サラ、もしかしたら同じ原因かもしれないし、一緒に練習してあげてくれ」
「わかりました」
「じゃあ、明日にでも連れてくると思うので」
そうして、カインのことは快く受け入れてもらえそうだった。
♢ ♢ ♢
次の日、昼食を食べ終えて王都へ向かう。
父さんには、合格通知が来るまでは鍛錬に集中できないから外を歩いてくる、とか言っといた。
それなりに頑張って2時間ほど飛び、王都の人気のない路地裏に着地する。
そこから学園の方へ歩いて行くと、前と同じ場所に、前とは違って期待感を漂わせた男の子がいた。
「やぁ、カイン。返事を聞きに来たよ」
そう、超暗い雰囲気を出していたカインだ。
「あ、ノールさん! よかった。来てくれたんですね」
「もちろん。 冒険者の人たちは大丈夫だったよ。それでどう?決まった?」
「はい、ぜひお願いします!」
「よかった。でも、ご両親にはどうするの?」
「多分不合格の通知が行くと思いますけど、別の所で学んでくるという手紙を出しました。定期的に送るつもりなので心配はいりません」
おぉ、ちゃんとしてるじゃないか。
これならみんなとも仲良くやってけるだろう。
「じゃあ、今から行こうと思うけど、いい?」
「はい。よろしくお願いします。」
そうして俺たちは森の方へと飛び立った。
♢ ♢ ♢
飛びながら事情を説明して、森に降り立つ。
「よ~し、とうちゃーく」
「お、主か。今日は早いな。ん?そやつが言っていたカインとかいう奴か?」
あ、ちゃんと話聞いてたんだ。
「そうだ。みんなを集めてきてくれないか?」
「わかった」
――ガアァーー!
そう言って、咆哮を上げた。
「ちょっ、そんな声出したら冒険者に気づかれるよ?」
「案ずるな。ザックとレイが何もないと言ってくれる」
まぁ、確かにそれなら大丈夫だとは思うけど、魔物も人もビビるでしょ。
さっき説明しただけでビビってたカインがさらに縮こまってるよ。
「何があった!」
「みんな大丈夫?!」
ザックさんとレイさんが子供たちを連れて走ってきた。
「あ、ノールさんにシアさん。何かあったんですか?」
「ああ、カインを連れてきたからみんなに紹介したくてですね。特に緊急のこととかではないです」
「そうっすか。それで、その子が話していたカイン君ですか?」
「はい。じゃあカイン、みんなと自己紹介をしてくれ」
「は、はいっ。カイン・ドレ―エンです。よろしくお願いします!」
「多分ノールさんから聞いてるだろうが、俺はザックだ」
「私はレイよ」
「私はライアっていうの。ねぇ、カイン君も鬼ごっこしよう!」
ライアは誰とでも仲良くなれそうだな。
「俺はライトだ。男子が増えてよかった」
確かに、子どもの中(俺は除く)ではライトだけが男子だ。
まだ少年でも、色々と苦労があるんだろう。
「エルと言います。よろしくお願いします」
「. . . . . . エレナ. . . . . . よろしく」
エルとエレナはいつも通りだな。
「私はサラ。これからよろしくね」
全員と挨拶が終わり、すぐに子供たちだけで遊びだした。
カインも少し戸惑っていたが、まあ、仲良くやって行けるだろう。
こうして、森の仲間がまた1人増えた。
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