第22話 先生たちの会議

 ようやく今日の試験の処理が終わった。

 まだ吟味が必要だが、一応今日出たすべての合格者の成績をまとめ終えた。

 ほかの担当の先生も終わっているようで、これからいつものように合格者についての会議をする。

 久しぶりに高まった興奮は忘れられないまま、軽い足取りで会議室へ向かう。



 ♢ ♢ ♢



 「まずは全員、お疲れ様。あと2日あるがこの調子で頑張ってくれ」


 いつも通りの挨拶をして、それぞれの担当の先生から気になる生徒のことについて話を聞く。

 ただ、平民枠で合格者が出ることは少なく、会議らしい議論になることは滅多にない。

 しかし今、この場にいる先生は、私を含めて全員がとある受験生について情報を求めていた。


 「まずは、筆記試験の方から話させていただきます。こちらはいつも通り、合格者はせいぜい60点代のものがほとんどです。しかし、2人だけ高得点を出したものがいました」


 「名前は?」


 「まず、一問間違えのノール・リューゲという受験生。これは間違えた所も簡単な値のミスで、ほとんど正解と言って差し支えないでしょう。もう一人はシア・アースファル。こちらは文句なしの満点でした」


 なんと、あの2人は筆記試験でも化け物だったようだ。

 本当に平民なのか疑いたくなるが、ノールという受験生はともかく、アースファルは確かに平民であった。


 「この点数だけでも、我が学園に入る価値はあるでしょう」


 「まあ、貴族の中でもトップクラスの頭脳だな。他にはあるか?」


 「いえ、今日の収穫はそれぐらいです」


 「そうか、ご苦労。では次」


 「はい、魔術試験の方ですが、こちらも例年と大差ありませんでしたが、先ほどおっしゃった2名の受験生だけは突出していました」


 「ほう、何やら騒がしかったところだな?」


 「はい、私が担当させていただきましたが、シア・アースファルなる受験生は3つの属性の魔術を用いて真ん中の的の中心部を少しの狂いも無くくりぬき、あろうことかその奥の試験会場の壁まで貫きました」


 「なに? 試験会場にはあの結界が張ってあっただろう」


 「それがその部分だけきれいに貫かれてしまったようで、全く役に立たなかったようです」


 「しかし、それほどの威力ならば、外に被害が出なかったのか?」


 「それが、試験会場の壁を外まで貫通していたにもかかわらず、外にいた人は誰一人としてその魔術を見ていないそうです」


 「どういうことだ?」


 「おそらくですが、魔術を完全に制御して、試験会場を出た瞬間に魔術を霧散させたのかと」


 「そんな馬鹿な?! できるはずがありません!」


 筆記試験担当の先生があり得ないとばかり声を上げる。


 「あくまで推測です。しかし、そうでなければ説明がつきません」


 「まあ、とんでもないことはわかったな。それで、もう一人の方は?」


 「はい、さらに問題なのはこちらの方でして。ノール・リューゲなる生徒も2つの属性の魔術を使いましたが、それに加え大量の魔力で威力を高めていました。皆様も感じたでしょう。爆発音の前の異常な魔力を」


 「確かに、あれは鳥肌が立ちましたな」


 「悪魔でも来たのかと思いました」


 「つまりその受験生があの爆発を引き起こしたと?」


 「その通りです。あの規模の爆発ならば通常、この学園の大部分が吹き飛ばされています」


 「しかし現に被害は何もないぞ?」


 「そこが問題なのです。私は彼の少し後ろに立っておりましたが、強大な魔力で目を瞑ってしまい、爆発音がして目を開けた時には、あり得ないくらいきれいな円状の窪みと砂埃が舞っていたのです。近くにいた受験生にも被害はありませんでした」


 「つまり、なんらかの方法で爆発を制御したということか?」


 「おそらくは。我々の張った結界よりも強いものを使ったのかもしれません」


 「恐ろしいな」


 「それだけではありません」


 「まだあるのか」


 「はい。それほどの魔術を使ったすぐ後で、できてしまった窪みを土の魔術で生み出した土で埋めてしまったのです」


 「意味が分かりませんな。いかに土魔術といえど、大量の土を生み出すなどただ魔力量が多いだけでは不可能でしょう」


 別の会場担当の先生が反論する。


 「ですから問題なのです。あれほど魔力を使っておいてまだ底が見えない。もう既にこの学園の誰よりも魔術を使えるのは明白でしょう」


 「あなたがそこまで言うのですか」


 「学園長が残っていますが」


 「それでも、私は彼が上かと」


 「なに!? 学園長の方が弱いというのか!」


 別の会場担当の先生だけでなく、他の先生もあり得ない、という顔をしている。


 「まあ、落ち着け。今は学園長とその者の実力を比べる場ではない。それで、最後は武術だが」


 「副学園長自らお相手なさった相手がいるとか」


 「もしや、その者は」


 「そう、さっきから話題に上がっているノール・リューゲだ」


 「なんと」


 「筆記と魔術に加えて武術まで備えているとは」


 「して、どうでしたか?」


 「ああ、あれは紛れもなく化け物だった」


 「と、おっしゃいますと?」


 「魔力無しでは私よりも上だった」


 「なんと. . . . . .」


 「副学園長をも上回る武術ですか」


 「魔力無しとおっしゃいましたが?」


 「あぁ、魔力無しで最初はやっていたんだが、かなりきつかったから、私は魔力を使って叩いたたんだが、それでもある程度持ちこたえたのだ。それも、あいつは魔力を一切使っていなかった」


 「「「「「. . . . . .」」」」」


 全員が沈黙する。


 「どうやら、あいつは試験の内容を勘違いしていたようですよ」


 その中で唯一模擬戦を見ていたゼムが補足する。


 「ふん、あれが魔力を使っていたら、私では勝てなかったかもしれんな」


 「それほどですか. . . . . .」


 「逸材. . . . . . というより規格外ですね」


 「まったく、とんだ化け物が入ってきたな」


 それぞれが思いの内を語る。


 「この教師生活も面白くなりそうだ」


 ヒスイもこの時、これからの生活に思いを馳せていた。

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