第21話 入学試験(4)

 試験官の人がほかの試験官を呼びに行って数分後、ちょっと小柄な女性の試験官と共に帰ってきた。

 その人は腰に刀をつけており、前世でよく見た女武者のようである。


 「ほう、この受験生に負けたのか」


 「はい、完敗しましたね」


 「こいつを相手にしてほとんど無傷で勝つとは、お前は逸材だな」


 「ありがとうございます」


 おぉ、さっきのゼムさんがめっちゃまともに敬語を話してる。

 受験生にあの態度だから、他の人にもあんな感じかと思ってた。


 「それで、その子よりもお前の方が強いのか?」


 え、俺に聞いてくるの?

 まぁ、シアに聞かれても俺の方が上って断言するだろうけど。


 「え、う~ん、剣術だけの勝負なら多分負けては無いと思いますけど」


 「ほう、面白そうだな。その自信の無さが鼻に付くが、私が確かめてやろう」


 うわ~、めんどそうなことになった。

 絶対この人強いじゃん。

 もし勝てなかったら特待生になれないよ。

 シアと違うクラスかもしれない。

 それだけは避けたいから絶対に勝たないといけない。


 「私はヒスイだ」


 「え~と、ヒスイさん。俺は受かりますかね?」


 「さあな、それはお前次第だ」


 あ~、これはやるしかなさそうだな


 「はぁ、わかりました。お願いします」



 ♢ ♢ ♢



 「じゃあ、俺が審判をやります」


 ゼムさんが審判をしてくれるそうだ。


 「こほん、それでは. . . . . . 始め!」


 瞬間、ヒスイさんが動いた。

 鞘に納まったままの刀を手にし、こちらに踏み込んでくる。

 抜刀と同時に切り込んでくるのだろう。

 そう思い、俺は念のため両手で剣を持ち、受け止める姿勢をとる。

 そしてヒスイさんの刀が高速で俺の刀にぶつかった。


 ――キーン。


 甲高い金属音と共に突風が生まれる。


 「ほう、これを防ぐか。なかなかやるではないか」


 「いや、結構ギリギリでした、よっ」


 そう言って俺は剣を弾き、それと同時に切り込む。

 おそらくこの人は守りが固い。

 俺が勝つには、この守りを崩すために高速で切り込んでいくしかないだろう。


 「ハァッ」


 幾度となく響く金属音。

 目にもとまらぬ速さで切り込む俺に、すべてを完璧に防ぐヒスイさん。

 この均衡状態を崩すために俺は一歩下がりながら刀を上へ投げた。

 いきなり剣を手放した俺に驚き、ヒスイさんに一瞬の停滞が生じる。

 そこに放たれた俺の蹴りに防御が間に合わず、蹴りを受けて体勢が崩れる。

 そこで剣を手に取った俺は両手で上から振り下ろす。


 ――ギーン。


 すこしだけ鈍い音が響き、ヒスイさんが壁の方へ飛び退る。


 「クッ、まさかこれほどやるとはな。少し甘く見ていたようだ」


 もしかして、この人はまだ本気じゃなかったのか?


 「私も力を出そう」


 そう言うと、視認するのがギリギリの速さで迫ってきた。


 ――ギーン。


 再び響く鈍い音。

 俺は後ろに飛ばされ、着地をすると同時に強い危機感を感じたので、その方向へ剣を振りつつ、横に跳びのく。


 ――ギーン。


 またもや鈍い音が響き、壁の方まで飛ばされ壁に着地する。

 今度は着地と同時に横ではなく、ヒスイさんが迫ってきているであろう前方に向かって跳び、両手で剣を前に振りぬく。


 ――ギーン。


 両手が痺れたが壁までは飛ばされず、その場に着地してまたすぐに跳びのく。


 ――ギーン。


 そろそろ腕がかなり痺れてきて剣が吹き飛ばされそうになるが、なんとか耐えて、ヒスイさんの姿を視認しようと顔を上げた。


 するといつの間にかヒスイさんが目の前にいて、勘で首元に置いた俺の剣にヒスイさんの剣がギリギリ触れない程度で止まっていた。


 「ふっ、これにも反応するか。面白い奴だな」


 「こ、降参です」


 くそ、こんなに強いとは。完敗だ。


 「潔くてよろしい。結果は楽しみにしておけ」


 「. . . . . . ありがとうございました」


 ヒスイさんはそのまま去っていった。


 「大丈夫ですか、ノール様!」


 「いや~、シアみたいには勝てなかったよ。完敗だった」


 そう言いながら、自身の傷を偽る。


 「いいえ、すごい試合でした。私は途中から身体強化をして動体視力を上げていたのですが、それでも見えにくかったです」


 「うん、俺もかろうじてしか見えてなかったよ。魔力を使って身体強化したらもう少しやりあえたかな?」


 「え、魔力を使ってなかったのですか?」


 「うん。魔術使ったら失格になるし」


 「身体強化用にも使わなかったのですか?」


 「?. . . . . . 使ってないけど?」


 「. . . . . .」


 黙り込んでしまったシア。


 「魔力を使わずただのフィジカルでやりあってたのかよ. . . . . . 化け物だ」


 「え?ちょっと待って。シアもゼムさんもヒスイさんも魔力使ってたの?」


 「. . . . . . はい。試験で禁止されてるのはあくまで遠距離用の魔術。身体強化は禁止されていません」


 うそん。

 確かに途中からヒスイさんの動きがめちゃくちゃ上がったけども。

 いや、魔力使ってもいいならそう書いといてくれよ!

 魔術ダメって言われたら全部ダメだって思うじゃん。


 「はぁ、マジかよ。落ちてたらどうしよう」


 「だ、大丈夫ですよ!ほかの人はあれほどすごい模擬戦はできません。絶対受かってますよ」


 「そうだと良いけどね. . . . . .」


 「お前らはなんでこれで受からないと思ってるんだ?」


 心底理解できない、という顔をするゼムであった。

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