第20話 入学試験(3)

 ちょっと不安が残る魔術試験を終わらせて会場を修復した後、シアのもとへ真っすぐ戻ってきた。


 「どうだったかな?」


 「さすがはノール様です。あれほどの威力を出しておきながら被害が一つもありませんでしたし、修復までなさるとは。ノール様は土の魔術が苦手でしたよね?」


 「うん、そうだよ。だから、魔術で生み出す土の量を偽ったんだ」


 「では、試合が終わるまでは概念を使い続けるのですか?」


 「いや、最近知ったんだけど、自分の魔力を偽ったら、すぐに偽った状態で世界に定着するんだ。だから魔力の量を偽れば、この体が耐えうる限り無限に魔力が使えるよ」


 「さすがです. . . . . .!もうノール様に敵はいませんね」


 「あはは、それはどうだろうね」


 そんな話をしながら、最後の武術試験の会場まで歩いて行く。

 会場に残された人々は、試験官も含めてしばらく動けなかった。



 ♢ ♢ ♢



 「ここが武術試験の会場? ホントに合ってる?」


 魔術の試験会場と似た感じだが、屋内でそれなりに広いから、殺風景に感じる。

 いや、それよりも会場っぽくないのは、受験生がほとんどいないからだ。


 「なんでこんなに少ないんだろう」


 「どうやら、魔術試験で合格した者のみが武術試験へ来れるようです」


 なるほど、確かにさっき見たほとんどの人はヨワヨワの魔術だったな。

 しかし、なんでシアはそんなことを知ってるんだろう。


 「試験官が話していましたよ」


 そんな疑問を持っていると、シアが先回りして答えてくれた。

 心を読むことができるのかな。


 「え、マジで? 俺、聞き逃してたの?」


 「そのようですね。ノール様が筆記試験の時の魔力の話をされているときでしたから、仕方がないと思います。そもそも、ノール様にはあまり関係がないかと」


 「いや、大ありだよ。もし魔術の試験に落ちてたら、めっちゃ恥ずかしい思いをするところだったじゃん」


 「ノール様が落ちることはありません」


 「いや、断言されても. . . . . .あれだけ吹き飛ばしたら精度なんて測れないし」


 「あれだけ吹き飛ばしたのですから精度を測る必要はないと思います」


 いや、精度は大事だと思うよ?


 「おーい、そこの君たち。魔術試験を突破したんだろ?次の試験をやるからこっちへ来てくれ」


 お、最後の試験が始まるようだ。



 ♢ ♢ ♢



 最後の武術試験の内容は、遠距離攻撃の魔術は無しで、試験官と得意な武器を用いて模擬戦をするというものだ。

 武器は基本的に持ち込んだものを使うが、万一持ってきてなくても、学園が貸してくれるらしい。

 ただし、あくまで武術を測る試験なので魔道具は禁止である。

 試験官は学園の中でもかなり強い人たちを集めてるから、全力でかかって来てもいいとのこと。


 「. . . . . . . とまあ、説明は以上だ。つまり俺は学園に選ばれた凄い奴ってわけだ」


 一人でワハハ、と笑っているけど多分、俺たちが緊張すると思って、それを少しでも緩めようとしてくれてるんだろう。

 このゼムとかいう人は、けっこう優しい人なのかもしれない。

 ちなみにさっき自己紹介で冒険者やってたって言っていた。


 「. . . . . . それで、どっちからやる?」


 「えーと、こういうのは受験番号順でやるのが普通なんじゃないですか?」


 「おっ、確かにそうだな。それじゃあ、どっちの方が先だ?」


 「私です」


 「えーと、シア・アースファルね。. . . . . . ん? アースファル?」


 「はい、私の家はもともと魔術でそれなりに有名でした」


 「そうか、なるほど。いや、悪かった。あんまこういうのは聞いちゃなんねえからな」


 「いえ、お気になさらず」


 ん? シアの昔話はだいぶ小さいときに聞いてたけど、今でも覚えてる人がいるぐらいに有名な家だったのか。


 「そんじゃ、いつでもかかってきな」


 「それでは、行きます」


 「おう、って、おわっ! あぶねえ」


 そうして、室内に金属音が響き渡った。



 ♢ ♢ ♢



 「はあ、はあ、くそっ、降参だ」


 模擬戦が始まってから20分。

 ついに決着がついた。


 「はぁ、はぁ、ありがとうございました」


 シアが少し息を上げながら笑みを浮かべてこちらに来る。

 そう、シアが勝ったのだ。

 いや、勝ってしまったのだ。


 「すごいじゃないか、シア! 試験官を倒すなんて。さっきの魔術試験もあわせて絶対一番だよ!」


 「ありがとうございます。しかし一番はノール様です」


 なんかさっきも似たようなやり取りをした気がする。

 それにしても勝ってしまうなんて。

 シアの剣術が純粋にすごいんだろう。


 ん?ということは、俺も試験官に勝てる可能性があるのでは?

 たぶんこのゼムって試験官は疲労困憊で動けないから別の人になっちゃうけど、それでも勝てる可能性は十分あると思う。

 なんてったって、シアがほとんど無傷だ。

 ちょっとは血が出てるけど、とりあえず、治してあげよう。


 「あ、ありがとうございます」


 ちょっと照れたシアもいいね。


 ついでにゼムさんの方も傷を偽っておく。

 ちなみにちょっとした切り傷なら一瞬で治すことができるようになっていた。


 「大丈夫ですか?」


 「あ、ああ、悪い。って、これは治癒魔術か! おまえ本当に平民かよ!」


 「あははー、無事でよかったですけど俺は平民ですよ」


 「まあ、そこの嬢ちゃんもまさか剣術がこれほどの腕とは思わなかったぜ」


 「ありがとうございます」


 「俺の試験はどうなりますか?」


 「ああ、安心しな。その感じだと嬢ちゃんよりもお前の方が強いだろ?俺よりもめっちゃ強い先生を呼んでくるから、ちょっと待っててくれ」


 「. . . . . . わかりました」


 え、マジか。強い先生来たら勝てないじゃん。

 なんとかしてもう一回この人がやってくれないかな。

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