第19話 入学試験(2)

 筆記試験が終わり、次は魔術試験の会場に来ていた。

 今回はシアと同じ会場だ。

 どうやら会場は3つほどあるらしく、会場の奥に的がいくつか立っていてその中の一つに向かって魔術を放つらしい。

 せいぜい20mぐらいしか離れてないから外しようがないな。

 一応狙うのは真ん中の的らしく、他にも的が置いてあるのは的を破壊してしまった場合や、ずれてしまった場合でも点数をつけられるようにするためらしい。

 確かに、何人も的を破壊しちゃったら順位のつけようがないな。


 と、いうわけで、会場の周りに群がって、自分の名前が呼ばれるまで他の受験生の魔術を見る。


 「みんな一つの属性しか使っていないうえに、かなり弱い魔術だね。やっぱり練習する機会がないのかな?」


 「平民枠の受験ではこれが普通なのでしょう。平民で魔術の本を買ったり、練習したりすることは難しいですから」


 「なら、やっぱり貴族の子たちはすごい人が多いのかな?」


 「どうでしょうか。ノール様よりもすごい人がいるとは思えません」


 「いや、さすがにいるでしょ。なんか今年はこの国の王子が1人入ってくるらしくて、その人は魔術がすごい腕だって噂だよ」


 「そうなのですか? 確かに、本の中の王族の方は魔術に秀でた人が多かったように思います」


 「うんうん、やっぱり、この学園に入るなら全力でやらないとね」


 「ノール様、周りの人たちのことを忘れてはいけませんよ?」


 「もちろんわかってるよ。誰かを怪我させちゃって失格になりたくないからね。最悪、偽ったらいいから」


 「確かにそれなら大丈夫そうですね」


 どんどん受験生が魔術を披露していく。

 まあ、1人につき1回だけだし試験官も的の交換と、名前を呼ぶのと、的の点数の記入だけだから、これはあまり難しくない作業なのかもしれない。

 それに、みんなの魔術がそこまで強力じゃないから的の交換はほとんどされていないな。


 「あの的は毎回魔術を受けるたび点数を表示しているのか」


 「どうやら魔術に込められた魔力量と、的にかかった衝撃を計算して表示しているそうです」


 「えっ、シアはそんなことがわかるの?」


 「? いえ、先ほどの筆記試験の後、なぜか話しかけてきた受験生が言っていました」


 「え? シアの知り合いがいたの?」


 「いいえ、私が覚えてないだけかもしれませんが、初対面だったと思います」


 これは由々しき事態。

 確かにシアは可愛いけど、そんな普通に喋りかけてくるなんて。


 「そいつは男だった?」


 「? はい、男子の受験生たちでしたよ?」


 なんと、”たち”ってことは複数人で話しかけたのか。

 これは俺がシアから離れてはいけないな。


 「シア・アースファル。こちらへ来てください」


 そんな風に考えていると、シアの名前が呼ばれた。


 「じゃあシア、頑張って」


 「はい。見ていてくださいね」



 ♢ ♢ ♢



 魔術の試験で私の番が来た。

 今までのを見てると正直、平民枠の中では2番目になれると思っている。

 なぜ2番目かというともちろん、ノール様がいるからだ。

 適当にやってもいいけど、せっかくノール様が見ていて下さるのだから、本気でやろうと思う。


 「それでは、ここから魔術を放ってください」


 試験官が合図する。


 私は、右手に風、左手に水、胸のあたりに土の魔術を作り出す。


 「?! おいっ、見ろよあれ! 複数の属性を同時に使ってるぞ!」


 「3属性を同時にだと?! 化け物かよ!」


 「あれってひょっとしてどっかの王族かな?」


 「確かにすごい美人だし、貴族だろ」


 なんかいろいろと言われているが、そんなのはどうでもいい。

 ノール様にはこれは何度も使ってるけど勝ててないからだ。

 私はここで3つの魔術を重ね合わせ、風と水の魔術を少し強めにし、最も威力が出やすいように組み合わせる。

 それを魔力で包んで、1か所だけ穴をあけ、その方向に一気に放つ。


 「. . . . . . 大地の怒りアースレージ


 発射された魔術は、細いビームのように的の中心部をきれいさっぱりと消し去った。

 それだけでなくその奥の会場の壁も貫通し、会場の外まで届いていたが、私はそこで魔力を霧散させたので外に被害は出ていない。

 まあ、会場にサッカーボールぐらいの穴を空けちゃったけど。

 残った的は、中心部が真円状に穴が空いてドーナツのようになっていた。


 「. . . . .」


 会場全体が静かになる。


 「あの、試験は終わりですか?」


 「えっ、は、はい。次の武術試験の会場へ、お進みください」


 「ありがとうございました」


 そう言って、私はノール様のいるところへと戻る。

 去り際に大歓声が巻き起こった。



 ♢ ♢ ♢



 「すごいじゃないか、シア! あんなに正確に制御できるなんて」


 「ふふ、ありがとうございます。」


 「これならシアが一番だよ。ちゃんと外に被害も出ないようにしてたし。さすがはシアだね」


 「あ、あまり褒めても、何も出ませんよ。それにノール様のほうが上です」


 「いやいや、そんなことは無いって。俺はあんな正確に3属性を操れないよ」


 「ですが、ノール様の魔力量と制御力は私なんかと比べ物になりません」


 「でも、シアよりは魔術は扱えないから、あまり威力を出せないし、もしかしたら被害が出るかもしれないよ」


 「大丈夫ですよ。ノール様は私よりもきっと皆さんを驚かせます」


 「いや、シアの後だと霞んじゃうと思うけどな」


 そんな風に話していると、的が交換され、また受験生が魔術を撃ち始めた。


 しばらくして、


 「ノール・リューゲ、こちらへ」


 俺の名前が呼ばれた。


 「お、ついに俺の番だな。ちょっと緊張する」


 「頑張ってきてください。見てますから」


 シアに見られてるんなら、かっこ悪いところは見せられないな。



 ♢ ♢ ♢



 「それでは、試験を開始してください」


 試験官に言われて、魔術を練り始める。

 右手に火、左手に風の魔術を出す。


 「おいっ、また複数の属性を使ってるやつがいるぞ!」


 「マジかよ。今年はどんだけ化け物がいるんだ?」


 「ここって平民枠のはずよね. . . . . .」


 2つの魔術を組み合わせ、シアとは違い魔力を威力として利用する。

 魔力を大量に出力し、2つの魔術と重ね合わせる。


 「っ! なんだよ、この魔力量. . . . . .」


 「ば、化け物. . . . . .」


 「おい、さすがにやばくないか?」


 「まさかこの辺を吹っ飛ばすんじゃ. . . . . .」


 なんか周りの声が小さくなっていくが、さすがに被害は出さないように加減する。

 この会場より外に出る魔力を偽れば、魔力も魔術も外に出なくなるからね。


 できるだけ魔力をためて、魔術と共に一気に放出する。


 「炎嵐ブレイザード


 荒れ狂う魔力の塊が、炎と嵐をまといながら突き進んでいく。

 誰もが、その直後に起こるであろう光景に恐怖した。

 そして、的に衝突し―――


 ――ドッガーン


 大規模な爆発が起きた。



 ♢ ♢ ♢



 全員が轟音に耳と目を塞ぐが、いつまでたっても訪れない熱風を不思議に思い目を開けると――


 「なんだよ、これ . . . . . .」


 「どうなってんだ . . . . . .」


 ――そこには、的があったであろうあたりが大きく抉られ、大量の砂ぼこりが舞っていた。


 「う~ん、まあ、そこそこかな。ちゃんと被害は出してないし。的は全部壊しちゃったけど、地面を直しておけばいいでしょ」


 その爆発の跡地に立つ少年は呑気な声でそう言い、また魔術を使いだした。


 「っ、き、君の試験は終わった。すぐに武術試験へ行きなさい」


 「え、でも、ここを壊しちゃったんで、直さないと他の人ができませんよね?」


 「確かにそうだが. . . . . .」


 今度は土の魔術を使い、それで生み出される土の量を偽って大量の土を抉れた地面へ流し込む。

 しかし、傍から見ればそれは、土の魔術のみで大量の土を生み出すあり得ない光景だった。



 ♢ ♢ ♢



 ふう~、ちゃんと抉っちゃった部分は元に戻したし、的も全部破壊しちゃったから精度はあまり点数がよくないかもしれないけど、まあ、威力で何とかなるでしょ。


 最近気づいたが、自分の魔力ならば長い時間偽っていたらその状態のままこの世界に定着することが分かった。

 特に魔術なんかは、魔力そのものだから定着が早い。

 だから、今回の土魔術も数分であの量の土を生み出す魔術ができた。

 怪我なんかが治るのもこれが原因だろう。

 さっさと戻って、シアの感想を聞かないとな。

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