第17話 試験前の騒動
僕の名前はカイン・ドレ―エン。
僕は貧しい平民の家に生まれて、苦しい生活ながら両親には恵まれたので幸せに育った。
僕には魔法の才があり、両親が誕生日に魔術の本を買ってくれたのでそれを読みこんで、それなりの魔術を使えるようになった。
両親はとっても喜んでくれたし、僕も王都の学園に行けるかもしれないと思ってすごくうれしかった。
でも、僕は制御が不十分なようで、たまに触れたものや近くのものをひっくり返してしまったんだ。
一度、父さんをひっくり返してしまったこともあったけど、父さんは笑って、すごいじゃないか、なんて褒めてくれた。
頑張ってこの暴走する力を止めようとしたけど、魔力量が上がるにつれてその頻度は高くなってきていた。
それでも、近くにたまたま本屋があったからそこでたくさん勉強したし、魔術も練習したし、剣は父さんと練習して王都の学園を受けることを決めた。
道中は暴走しなかったけど、ついにやってきた学園の門の前で緊張のあまり力が暴走してしまった。
たまたま横を通り過ぎた男の子をひっくり返してしまったんだ。
もちろん僕はすぐに駆け寄って謝りまくった。
でも、その子はすごい貴族のようで、僕は学園の入学試験を受ける前に家に戻れなくなったかもしれない。
それだけは嫌で必死に謝ってるけど、許してくれる気配はなくて。
でも、誰も助けてくれそうにもなかった。
「まあまあ、わざとじゃなかったんだし、そのぐらいで許してあげてくれませんか」
そんなとき、ふと目の前に自分と同じぐらいの背丈の男の子がいつの間にか立っていた。
♢ ♢ ♢
仲裁すると決めたはいいが、どうしたものか。
相手は貴族だから、タメ口は良くないだろう。
かといって、あまり下手に出るとなめられて何の解決にもならない。
う~ん、タメ口をはさみながらしゃべればいっか。
そう思って、今にも殴りそうな貴族の子の前に立つ。
「まあまあ、わざとじゃなかったんだし、そのぐらいで許してあげてくれませんか」
「なんだ貴様は?! こいつを庇うならば貴様も死罪だ!」
「いや、さすがに訳わかんないよ」
「なんだと! 俺は侯爵家の人間だぞ! 俺に逆らうならば平民ごときは死罪だ」
う~ん、ちょっとマジで訳わかんない。
正直、ここまでよくわからない奴だとは思わなかった。
まあ、こんな奴ならば敬語はいらないか。
「その死罪とやらは置いといて、彼はわざとじゃなかったんだし、こんなに謝って反省してるんだから許してあげてよ」
「この俺に指図するのか! 貴様も今ここで殺してやる!」
そう言って、火の魔術を使ってきた。
「くらえ! ファイアランスっ!」
俺とこの子を貫こうと、ラグビーボールのような火の塊ができる。
こいつ、後ろに人がいることを考えてないな。
もちろん俺は熱量と空気の密度を偽って、ただの風が通り過ぎる。
「なっ! 俺の魔術が効かない?! なぜだ! ファイアランスっ!」
同じものの繰り返し。
普通一撃目が効かないってわかったら、他の攻撃手段を取ると思うんだけど。
頭に血が上ってそれどころではないのかもしれない。
「くそっ、 ファイアエッジ」
あっ、ようやく魔術を変えた。
まあでも、さっきの方が強い魔術だったし、もう魔力が尽きかけてるのかな。
そもそも、火の魔術系統はもっと強いやつじゃないと無効化されるのにね。
「はぁ、はぁ、くそっ、なんなんだよっ」
そう言って、よろけながら走って去って行った。
「大丈夫?」
「えっ、は、はい! ありがとうございました。このご恩は一生忘れません!」
「うん、まあ、無事でよかったよ。そろそろ受付が始まるし、俺はもう行くね」
「はい、その、本当にありがとうございました!」
なんかめっちゃ見られてるし、ちょっと恥ずかしいからさっさと逃げよう。
シアのいる方へ早く歩いて行き、人混みのなかで気配を偽った。
「ノール様、かっこよかったです」
「そう?まあ、あの貴族はあまり魔術が得意じゃないようだったし、見て見ぬふりをしていたら悪い気持ちにしかならないからね」
「ノール様はお優しいです」
「シアだって行こうとしてたじゃないか」
「それでも、助けたのはノール様ですから」
これは、ちょっと気恥ずかしいな。
「ほ、ほら、早く受付に行かないと」
「ふふっ、そうですね」
ちょっとした人だかりを作ってしまったが、まあ、すぐに無くなるだろう。
さっきの貴族の子がこの後どうなるか不安だけど、多分なんとかなる。
現実逃避気味にそう考えて、受付へ向かった。
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