第16話 入学試験について

 ついに入学試験の日になった。

 昨日は早めに寝たから、いつもよりも早く起きて体調もばっちりだ。

 シアも昨日はぐっすり眠れたようで、今日なんかは俺よりも早く起きて準備をしていた。


 「シア、朝ごはんを買いに行こうか」


 「はい」


 この2日は、シアのご飯は外で買ってきたのを食べてもらってる。

 もちろん朝も買いに行かないといけないわけで、両親にばれないよう早めに済まさなければならない。

 本当は食堂を使ってもらいたいんだけど、さすがに一緒の席で食べるのは偽れないからね。

 まあ、一緒に買い物ができるし良しとしよう。



 ♢ ♢ ♢



 朝の買い物を済ませて戻ってくると、ドアがノックされた。


 「ノール、朝よ。起きなさい」


 「はいはい、起きてるよ。先に行ってて」


 「ちゃんと下りてくるのよ?」


 母さんが起こしに来てくれたようだ。

 朝の準備は終わってるけど、シアがご飯を食べるのを見ていたいから、先に食堂へ行ってもらう。


 「さてと、受験票と剣はあるし、服装も大丈夫だし、魔力も満タン。完璧だな。シアは大丈夫そう?」


 「はい、私も体調は万全です」


 「よし、じゃあ、試験の流れを復習しとくか」


 学園の入学試験には、3つの試験がある。


 1.筆記試験

 2.魔術試験

 3.武術試験


 1つ目は言うまでもない、ペーパーテストだ。

 まあ、多分何とかなるだろう。

 シアに関しては、満点を取れるのではないかと思っている。


 2つ目は魔術のみの試験だ。

 内容としては、少し離れた所にある的に向かって好きな魔術を放ち、威力と精度を測る。

 魔術を打てるのは一回きりだが、同時にならば複数の魔術を放ってもいいらしい。

 これは少し不安だ。

 なんせシアの方が魔術は上手いからね。

 シアとの魔術の勝負でまだ負けてはいないけど、いつも魔力でゴリ押しだから正直、勝っていると言っていいかわからない。


 3つ目は武術、つまり試験官との模擬戦だ。

 とても強い人が出てくるらしいから、安心して全力を出せると言っていた。

 ただ、遠距離の攻撃である魔術は使用禁止で、純粋に近距離の武術を測るらしい。

 武術といっても人によって様々で、試験官も剣を使ったり、槍を使ったり、拳だったりと色々だ。

 もちろん俺とシアは剣を使う。

 あの町にいたどの冒険者よりも強くはなったけど、あの町は弱い魔物しかいないからな。あまり参考にならない。


 「じゃあ、俺も食べてくるね」


 「はい」


 まあ、ここで自分の実力を知れたらいいと思う。



 ♢ ♢ ♢



 「ちゃんと寝た?」


 「持ち物は確認したか?」


 「学園の場所はわかるな?」


 「もしわからなかったら、他の人に聞くのよ」


 「わかってるって。それじゃ、行ってきます」


 めっちゃ心配してくれる両親に手を振って、学園まで歩いていく。


 「すこし緊張しますね」


 「そうだな。緊張で魔術を間違えないか心配だよ」


 「ノール様ならば大丈夫だと思いますが、もし魔術を暴発させたら周りが大変なことになりますから、注意してくださいね」


 「いや、さすがに暴発しても大丈夫なようになってると思うけど」


 「普通ならば、ですが」


 ? 何を言ってるんだ、シアは?

 ま、俺がちゃんとしてればいいだけだろうし、問題ないか。


 そうして歩くこと15分、学園が遠くに見えてきた。


 「昨日もちらっと見えたけど、王都の学園とだけあってすごい大きさだな」


 「はい、色々と設備も整っているそうですよ。さすがはこの国で一番の学園です」


 どんどん周りも子供たちが多くなってきた。

 ここにいるのは全員が平民の子のようだ。


 「貴族の子をあんまり見ないね」


 「どうやら、貴族は平民とは別枠らしいです。試験も少し前に行われています」


 「へ~、なら、変に気を使わなくていいね」


 「ノール様ならば、貴族にも気を遣われる必要はないと思います」


 「いや、さすがに貴族に対しては気を遣うよ?」


 学園の敷地に入ろうというとき、門のあたりで何やら騒ぎが起きている。


 「シア、ちょっと見に行こうか」


 「はい、ですが遅れないようにしてくださいね」


 「もちろん。やばかったら、飛んでいくから」



 ♢ ♢ ♢



 「貴様っ! 俺が誰だか分ってるのか? 侯爵家の人間だぞ!」


 どうやら、貴族の子供と平民の子供でトラブルが起きているらしい。

 高級そうな服を着た男子が、土下座してる男子に怒鳴りかけている。


 「ごめんなさいっ! わざとじゃないんです!」


 「わざとじゃないだと!? ふざけるな! この俺を投げ飛ばしておいて!」


 「本当にわざとじゃないんです! 自分の力が勝手に暴走するんです!」


 「ならば貴様の力不足だ! ここで死ぬか俺の奴隷になるかぐらいは選ばせてやろう」


 「そんなっ! 許してください!」


 う~ん、これは難しい場面だな。

 どうやら平民の子の力が暴走しちゃって、貴族の子が被害を受けたらしい。

 まあ、事故のようなものなんだろうけど、貴族の子に被害がいったらなぁ。

 どうしようか。


 「許せるものか! 貴様は死罪だ! 許してほしければ俺の奴隷になるがいい」


 「っ、せっかく王都まで来れたのに. . . . . . 許してください!」


 まあ、貴族の子はせいぜい擦り傷程度だし、それで死罪とか奴隷とかは可哀そうだな。


 「ノール様、どうなさいますか?」


 「さすがに可哀そうかな。それに、暴走する力も気になるし」


 「では、助けるのですね?」


 「うん。あぁ、でも、シアはそこにいてね。シアにまでなんかやってきたら許せなくなるから」


 「っ、. . . . . . 分かりました」


 さてと、どう仲裁しようかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る