第15話 助けた子供たち

 なんとかサラを檻から出したら、他の子たちは黙って俺の方を睨むようになってしまった。

 さっきまで暴れていた子たちも俺が檻を手でこじ開けるのを見て、少し怖がっているようだ。


 「おっけー、サラ。他の子たちはどうやったら話を聞いてくれるかな?」


 「この中では私が一番長くここにいるので、任せて下さい」


 そう言って、他の子たちの所へ話しかけに行った。


 十分後、すべての檻にいた4人の子供たちを説得し、檻から出すことに成功。

 サラの説得能力はすごい。

 俺なんて子供の姿でも襲われそうになったのに。

 他の檻の返事がない子供は、どうやら遅かったらしい。


 「しかしノール様、この方たちをどうやって森まで運ぶのですか?」


 「大丈夫、ちゃんと考えてあるから。とりあえず、全員俺についてきてくれ」


 そして、俺たちは最初に下りてきたところへと戻る。

 真上の地面の密度を偽り、穴をあける。


 「じゃあ、みんな、この上に飛んでいくから、穴に入れる位置に来てくれ。ただし、何があっても騒がないこと。いいね?」


 全員が頷いて俺の周りに集まる。


 「ちゃんと離れないよう掴まっといてくれ」


 そしてみんなの気配を偽り、全員にかかる重力の向きを上向きに偽る。


 穴の開いた真上に向かって落ちていく・・・・・



 ♢ ♢ ♢



 来た時と同じ時間かけて地上まで上がってきたが、そこでは止まらず、そのままさらに上へと落ちていく。

 下にいる人たちがかなり小さく見えるぐらいの高さに来て、全員にかかる重力の向きを横向きに偽る。

 今度は森の方角へと加速していく。


 数時間かけて、ようやく森に着いた。

 まだ日は暮れてないが、あまり遅くなると両親が心配するので早く事情を説明しようと思う。


 「はぁ、はぁ、ノワール、今日も来たよ」


 「おぉ、主か。どうしたのだ、そんなに息を切らして。それにそこの人間どもは何だ?」


 俺が来たことに嬉しそうにしつつ、連れてきた子たちを訝しげに見つめる。


 「この子たちは、さっき王都で不法な奴隷として檻の中に入れられてたのを助けたんだ。それで、ノワールに世話を頼みたくてね」


 「こやつら全員をか? 我は人間の扱い方など知らぬぞ?」


 「大丈夫。それ用の本もあるし。最悪は、この子たちの安全を守ってくれたらいい。まあ、もしノワールが優秀な教育者なら、この子たちと一緒に町へおりることもできるでしょ?」


 「うむ、確かにそれなら町でいろいろと食べられるな。よし、我が教育してやろう」


 食べ物で釣れるとはとてもチョロいドラゴン様である。


 「みんな、こいつはノワールだ。すっごい強いから、あんまり怒らせたらダメだぞ。みんなはこれからしばらくここで暮らしてもらうから、ノワールのいうことを聞いてほしい。いいね?」


 「「「「「はーい」」」」」


 うんうん、みんな素直で良い子たちだ。

 獣人の子たちは身体能力が高いと聞くし、ノワールとの相性もいいかもしれない。

 ドワーフの子たちは手先が器用でモノづくりが得意な子が多いらしいから、料理や食器とか、服なんかも作れるようになってくれたら嬉しいな。


 「ノワールもちゃんと面倒を見るんだぞ」


 「もちろん、わかっておる」


 「サラ、念のためだけどみんなをよろしくね。できるだけ毎日来るつもりだから」


 「わかりました。お任せください」


 それから俺は、いったん家に行って必要そうな本10冊ほどをみんなに渡し、近くにいたうさぎ型の魔物を3体狩って、料理の仕方を教えた。

 もう既に日が暮れていたので、みんなにまた明日来ることを伝え、シアと共に王都へと飛んで帰った。



 ♢ ♢ ♢



 なんとか夕食までには間に合った。

 森に行くときは大人数の重力とか気配とか偽ってかなり疲れてたのに、王都に帰ってくるときはシアが苦しくならないよう様子見しながら、重力と速度を偽って全速力で帰ってきた。

 おかげでかなり疲れているが、両親も少し外に出ていたようで、俺の疲れを勉強の疲れだと思っているようだ。


 「明日が試験だし、あまり詰め込まずに今日は早く寝なさい」


 「うん、そうするよ」


 「ちゃんと受験票とか剣とか確認するんだぞ」


 「わかってるよ」


 「明日の朝は一応起こしに行くからね」


 「はーい」


 心配性な両親がいろいろと言ってくれるが、俺にはシアがいるし大丈夫だろう。

 まあ、寝坊しても飛んでいけば間に合うからね。

 そういえば、あの屋敷の人たちは気が付いたのだろうか。

 ここに来てからはやばそうな気配もないし、まだ気づいてないのかな。

 まあ、あの森にいれば安全だろうし、心配いらないか。



 ♢ ♢ ♢



 部屋に戻り今日は疲れたので、両親に言われた通り早く寝ることにした。


 「シア、俺はもう寝ることにするけど、シアはどうする?」


 「っ、私もご一緒しますっ」


 なぜか早口のシア。


 いつもは魔力を放出して気絶してるけど、明日に響くと怖いから、今日は何もせずに寝ようかな。


 「. . . . . . どうしたの? シア」


 なぜかじっと俺を見つめてくる。


 「いえ、今日は魔力の放出をなさらないのですか」


 「まあ、明日の試験があるからね。念のため今日は枯渇するまで放出するのはやめておくよ」


 「そうですか. . . . . . あの、少しお話してくれませんか?」


 「うん? いいよ」


 「ありがとうございます。 今日のあの子たちですけど、このままノワールに任せておくのですか?」


 「いや、この試験が終わったら基礎的なことを教えに行こうと思ってるよ」


 「そうですか、試験が終わって学校が始まるまでですか?」


 「う~ん、そうだな、それまでに教えきれたらいいんだけど。とりあえず、ノワールに人を傷つけない程度の加減を覚えさせるのと、みんなが少なくとも一人であの森を歩けるぐらいにはなってほしいからね。」


 「そう. . . . . . ですか」


 どうしたのだろう?シアの元気がない。


 「えっと、シア? どうしたの?」


 「いえ、何でもありません。」


 何でもなくはないと思うんだけど


 「明日の試験が不安?」


 「いえ、ノール様に教えていただいたので、不安はありません」


 「あの子たちが不安?」


 「確かに少し不安ではありますね」


 これも違いそうだ。

 う~ん、何に落ち込んでるんだろう。


 「学校生活の準備が不安?」


 「学校が始まるまではノール様はあの子たちの所へ行ってしまいますから、不安です」


 はっきり不安だといった。

 でも学校生活ではなさそうだな。

 もしかして、俺との時間が無くなるのが不安なのか?


 「もしかして、試験の後に俺とゆっくりしたかった . . . . . . ?」


 「はい、できればそうしたかったです」


 やはり、そうか。

 今日、みんなのことばかり気にしてしまってたからシアをあまり考えられていなかった。


 シアの手を取る。


 「ごめんシア、不安にさせてしまって。ちゃんと試験が終わったらシアと一緒に王都を見て回りたいと思ってるんだ。あの子たちに教えに行くのは朝でも夜でもいつでもいけるからね。だから、安心してほしい」


 「. . . . . . ありがとうございますっ. . . . . .!」


 そういって、シアはとびきりの笑顔になった。

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