第14話 傷の少女
ふわぁ~~、昨日は遅かったから、ちょっと眠いな。
隣を見ると、まだシアが寝ていた。
出会ったころから整った顔立ちだと思っていたが、こうして間近で見ると改めてきれいな顔をしていると思う。
髪の毛は出会った頃からかなり伸びているが、毎日手入れしているのかサラサラだ。
さて、今日もシアといろいろ回りたいところだが、さすがに勉強をしようと思う。
なんせ明日が入学試験だからね。
あまり直前に詰め込み過ぎるのは良くないと分かってはいるが、それでもやっておきたい。
てなわけでシアを起こさないようにベッドから出て、朝食を食べに行く。
♢ ♢ ♢
朝食を食べ終わり部屋に戻ると、シアが起きていた。
俺を見て少し恥ずかしそうに目をそらしてしまった。
「今日は勉強をなさる予定ですか?」
「うん、とりあえず昼まではやろうと思ってるよ」
昼になれば、いったん休憩がてらまた王都を回ろうと思う。
とりあえず今は明日の試験の勉強だ。
そして昼になり、俺は両親に息抜きがてら外で食べてくると言うと、昨日と同じくお金と注意事項を言い渡され、許可してくれた。
俺を気遣ってくれたのだろう。嬉しい。
そんなわけで、今は昨日来たあたりでまだ食べていないものを食べていた。
「これもおいしいな。ノワールに持っていこう」
「あちらにも美味しそうなものがありますよ?」
うん、シアも楽しそうにしてるし、良い息抜きになっているだろう。
そうして歩いていると、ふと、昨日感じた気配をまた感じた。
それも、昨日と全く同じ場所でだ。
「シア、やっぱり昨日の気配が気になるんだけど」
「この地下にあるものですか?. . . . . . 確かに昨日から全く変わっていないうえに、あまり魔物のような気配ではありませんね」
「だよね。ちょっとだけ覗きに行ってみない?」
「私は構いませんが、危険だと思ったらすぐに逃げてくださいね?」
「もちろんだよ。明日は入学試験なんだから、こんなところで怪我をするわけにはいかないよ」
そういって気配を偽りつつ、地下からする気配の方へ歩いていくと大きな屋敷の前に来た。
「これはどこかの貴族の屋敷でしょうか」
「そうみたいだね。なんかきな臭いことになってきたな」
「引き返しますか?」
「いや、もしかしたら危険な魔物を飼っていたりするかもしれない。一応安全かどうかだけ確認しに行こう。」
気配を偽ったまま少し空を飛んで、地下の気配の真上の位置を探す。
するとそこは、屋敷の隅にある倉庫の下のようだった。
倉庫の前に着陸し、地面の密度を偽って穴を空け落下する。
落下した後は概念を解除して、穴を塞いでおいた。
♢ ♢ ♢
落下すること数秒。
火の魔術で明るくしていたが、奥の方に地面が見えてきたので自分たちの速度を偽り、ゆっくりと着陸する。
薄暗いが、所々に蝋燭があって周りは見えるようになっていた。
そして気配のした方を見るといくつかの檻があり、その中には獣人やドワーフなどの亜人と呼ばれる種類の子供たちがいた。
「これは酷いな。この国では奴隷制度は禁止のはずなのに」
「. . . . . . どういたしますか?」
「そうだな. . . . . .」
正直、全員が亜人の子供だとは思わなかった。
まあ、ここにいるのはさすがに法律違反のことをされたんだろうし、何より可哀そうだ。
逃がしてあげることはできるが、いつまた捕まるかわからないのでは不安だろうし。
かといって、俺は面倒を見切れるとは思えない。
そもそも、この子たちは酷い目にあってきているのだから、俺についてくるとも限らない。
とりあえず、大人の姿にするのはやめておこう。
「いったん話しかけてみて、話せそうなやつに事情を聞いてみるか」
「分かりました」
手分けをして、それぞれの檻に話しかける。
ほとんどの檻からはすごい攻撃をしようとしてきたり、黙ったまま何も反応がなかったりだった。
一番奥の方の檻に近づき、話しかける。
「えーと、こんにちは。君たちの事情を聞きたいんだけど、ちょっといいかな?」
「誰. . . . . .」
♢ ♢ ♢
またいつものように罵声を浴びせられ、そのまま動かずに過ごしていた私は、いきなり聞こえた子供の話声に驚いた。
もしかしたら私以外にもこの気持ちを話せるかもしれないと思って、その声を聴いていると、なにやら他の檻の子たちにも話しかけているようだった。
つまり、その2人の子供は檻の外にいる。
まさか管理人や客ではないだろうと思うけど、その声を聴き、2人がその類でないことを確信する。
早く私にも話しかけてほしい。
そう思ってみるものの、檻はいくつもあり、私はあの管理人や客すら選ばなかった欠陥品。
それに私のいる檻はかなり奥の方だから、こちらまで来てくれるとは思えない。
それでも期待をしていると、ついに声の主がこちらの方へ向かってきた。
「誰. . . . . .」
私はとりあえずその人を知りたかった。
「俺? 俺はノール・リューゲ。ちょっと気になってここに来てみたらこんな酷い所にたくさん子供たちがいたから事情を聞きたいんだけど、君たちはもしかして奴隷としてここにいるの?」
「そう。私たちは売られていく。何も悪いことはしていないのに、こんなところに何日も閉じ込められて、ご飯もまともに食べられず、ただ過ごすだけ。あなたにこの苦しさがわかる?」
自分で思っていたよりも自然と言葉が出てきたが、なぜか棘のあるものだった。
本当は、ただこの気持ちを誰かに言いたいだけだったのに。
怒らせてしまったかもしれない、そう思って後悔していると、その人は離れて行ってしまった。
やはり怒らせてしまったのだろうか。
「悪いけど、俺にはその苦しさはわからない。でも、ここから出してあげることはできる」
そう考えていたら、また戻ってきていた。
今度は銀髪の少女を連れて。
「ここから出た後のことは君が決めたらいいけど、どこか行く当てはある?」
「いいえ、それは半年前に失いました」
「あ、ごめん。でも、行く当てがないなら、俺たちについて来ないか?もちろん、ご飯は食べれるし、森で生活してもらうことになると思うけど、少なくともここよりはいいと思うよ」
「. . . . . . お願いします」
ここから出られるなら何処だっていい。
助けてくれるのなら、私はなんでもしよう。
そう思って、その人たちの提案を受け入れた。
すると、その人は檻を簡単に手で曲げて、人が出れる大きさを作ってしまった。
呆然としている私に手を差し伸べて、笑いかけてくれる。
「さあ、一緒に行こう」
♢ ♢ ♢
なんとか話せる子が見つかった。
やはり、ここにいる子供たちは違法な奴隷にされてしまったらしい。
どうにかしてあげたくて考えていると、ある案が思い浮かんだ。
ノワールにこの子たちを託しておけばどうか、と。
早速シアを呼びに行きその案を説明したら、それで行きましょう、と言われた。
檻にいた少女の同意ももらえたし、檻の硬さを偽って曲げる。
固まって動かない少女に手を差し伸べて檻から引っ張り出すと、その少女の背中には大きな傷跡があった。
「あっ、これは見ないでくださいっ」
急いで隠そうとこちらに向き直る。
俺は、概念を使ってその傷を偽った。
「ごめん。えーと、君の名前は?」
「サラ・レフレクス」
傷の少女はそう名乗った。
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