第12話 いざ、王都へ
あれから少し経ち、学園の入学試験のために王都へ旅立つ日になった。
正直、俺の概念を使えば俺もシアも半日とかからず王都と家を往復できるので、もっと鍛錬をしておきたかったが、まあ、久しぶりにゆっくりした時間を過ごすとしよう。
王都へ行く馬車に家族(シアは俺の隣)で乗り、3日程度の馬車の道だ。
ちなみにだが、ノワールには留守番をしてもらってる。
向こうで何かあったときに契約者である俺に伝わるからね。
まあ、退屈しないように、たまに抜け出して一っ飛びいくつもりではあるが。
「王都では宿を借りるんだよね?」
「ああ、母さんと父さんは同じ部屋だが、お前は別で取るつもりでいるぞ。寮生活の練習をしないとな」
「そうだね. . . . . . ねえ、シア。シアの部屋はどうしよっか」
「私はノール様と同じで構いません。むしろ、一緒の方が. . . . . .」
「ん? ごめん聞き取れなかった。父さんたちには聞こえないようにしてるから、もう少し大きい声で言ってくれる?」
「いえ、私はノール様と同じ部屋で構いません」
「そ、そう? まあ、もし嫌になったら行ってね。最悪、家に帰ることもできるし、他の宿をとることもできるから」
「はい、わかりました」
宿のことはこれで大丈夫だろう。
外には広大な草原が広がっている。
所々で動いているように見えるのは小型の動物や魔物だろうか。
なんにせよ、のどかである。
ドラゴンが森にいたなんて考えられなくなりそうだ。
そんなことを思いながら眺めていると、横から視線を感じた。
隣を見てみると、シアがこちらを見ており、少し顔を赤くしてすぐに外へ視線を向けた。
?. . . . . . 俺の顔に何かついてたかな?
「どうした、ノール?」
いきなり誰も座っていない横を見つめたように見えた父さんから不思議そうな声が出されるが、
「いや、なんでもないよ?」
シアのことはまだしばらく黙っているつもりなので、ごまかしておく。
「そういえば、試験の勉強はもういいのか? 馬車の中と宿ぐらいでしかもうできないぞ?」
「いや、馬車の中でくらいはゆっくりするよ。宿では最後の復習をするつもりだし。ちゃんと苦手な分野の本ももってきたよ」
「そうだな。ここんところずっと頑張ってたもんな」
そう、この1か月は本当に頑張った。
朝起きて筆記試験のために本を読み返し、
やる気が出まくっている父さんの鍛錬をこなしつつ魔力の操作の練習をし、
シアの学費のために討伐依頼を達成し、
ノワールとの魔術なしの鍛錬、
シアとのほぼ何でもありの鬼ごっこ、
そして魔力を枯渇させるための魔力放出、
これらを毎日続けたのだ。
おかげで、魔力の操作はかなり上達して、魔力だけで身体強化魔術並みには使えるようになったし、魔力無しでドラゴンとも多少は戦えるようになったし、シアとの鬼ごっこの範囲は森全体になって、冒険者に気づかれないようにしていたから、気配察知と気配の隠蔽はかなりうまくなった。
ついでに知識の方もだいぶついたし、いろんなパターンの戦い方も練習できた。
やれるだけのことはやったから、あとは試験に臨むだけだ。
♢ ♢ ♢
王都までは3日の道のりだけど、道中は寝泊りをしないといけない。
普通は馬車と護衛も雇うのだけど、父さんが冒険者だから今回は護衛は無しで来ている。
いつもの父さんを見てると心配になってくるが、さすがにちゃんとしていて、夜のために馬車に揺られながら母さんの膝の上で寝ていた。
うーん、仲がいいのはわかるけど、子どもの前でいちゃつくのはどうかと思う。
なんかシアも期待の眼差しで見てきてるし。
さすがに父さんの真似事をシアにはできない。
いや、やらないよ?
とまあ、そのあとシアがなんか残念オーラを出していて、偽るのが大変になったり、父さんが寝ぼけてさらに母さんといちゃついたりしてるのを眺めてると夜になった。
馬車の運転手さんは、草原の中に点々と立っている中の一番近い木の下で止まり、野宿をすることになった。
その間、父さんはあたりを警戒してくれるらしい。
でも、これじゃあノワールに会いに行けないな。
まあ、王都に着いたら速攻で行って、王都のお土産でもあげれば許してくれるだろう。
俺は母さんとシアに馬車の中を譲り(シアはかなり渋った)、木の下で、魔力を偽りながら放出して、気絶するように寝た。
♢ ♢ ♢
王都内のとある建物の地下。
そこには、大小さまざまな檻があり、それぞれからうめき声や金属をたたく音がしている。
ここに囚われてから半年。
私はここから出れずに死ぬ運命なのだろうと思っている。
近くの檻の子たちは、たまに来る管理人っぽい人と客のような人たちが決めて、なにやら怪しい儀式をして連れていかれていった。
なぜか私は半年間もずっと、この檻の中に閉じ込められている。
きっと私の持つ大きな傷跡と、よくわからない呪いのような能力のせいだろう。
管理人っぽい人にたまに罵声を浴びせられ、抗う心も折れてしまった。
半年前までは楽しく暮らしていたはずなのに。
誰も助けに来てはくれない。
この国では奴隷制度は禁止されているけど、この人たちは貴族だからきっとどうにもならない。
私も半年前までは貴族の一員だったからわかってしまう。
貴族は、国の騎士団でも簡単に捜査ができない。
だから、重要な証拠さえ隠してしまえば白を切り通せてしまう。
また1人、この檻に近づいてきた。
きっと管理人だろう。また罵詈雑言を浴びせに来たのだ。
私は言い返して抗うことも、耳をふさいで聞き流すこともできず、ただの壊れた機械のようにその場で動かなくなった。
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