第10話 森の主
依頼を受け取って俺たちは森に来ていた。
正直、ゴブリン5体なんて一瞬過ぎるから、ついでにこの前の魔物の群れの調査をしようと思い、かなり深くまで入り込んでいた。
「こんなに深いのに、魔物があんまり出てこないね」
「先ほどの魔物も大規模の群れでしたし、奥に強い魔物でもいるのでしょうか」
「まだ気配は感知できないけど、一応油断しないようにね」
「はい」
そうしてさらに進むこと30分。
ついに大きな気配を掴んだ。
「おお、これはかなりの大物だね。Aランク、いや、ひょっとしたらSランクまで行くかもしれないな」
「っ、逃げますか?」
「いや、ちょっと戦ってみようと思う」
「危険です。いくらノール様でも、あの強さは無事では済みません」
「まあ、やばそうだったら、最終手段を使うから」
「. . . . . . 確かにあれなら逃げ切れるかもしれませんが、まだ完成していないのでは?」
「そうだね。まだ完成はしてない。でも、時間を空ければ逃げ帰ることはできるはずだ。シアも一緒にいるし、大丈夫」
「. . . . . . わかりました。ですが、危険だと感じたらすぐに使ってくださいね」
「わかったよ。約束だ」
♢ ♢ ♢
気配のする方へと歩いていくと、大きな生き物が目に入った。
「おぉ、この森にこんな奴がいたとは」
「勝てそうですか?」
「レベル的には厳しいけど、概念を使えばたぶん行けるよ。それに、戦う必要がないかもしれない」
「どういう意味ですか?」
「ほら、本に書いてあったでしょ?ドラゴンは人語を話すって」
そう、そこにいたのは黒色の大きなドラゴンだった。
翼と腕が一緒になってる、所謂ワイバーンってやつだ。
「確かにありましたが、そもそもドラゴンはほとんど観測されてない魔物です。このドラゴンが話せるかどうかわかりません。いきなり襲い掛かってくるかもしれませんよ?」
「一応、気配を偽って、俺たちは10m左にいるように見せているし、あれの準備もできてるから」
「わかりました。では、お任せします」
「うん。. . . . . . こほん、あのー!、寝ている所すみませんが!、すこしお話をしてくれませんかー!」
すると、大きな体がピクリと動き、顔を上げて俺たちよりも10m左を睨みつけた。
「なんだ人間、我の眠りを妨げるとはいい度胸だな。死にたいのか?」
やっぱり人語を話せるようだ。
「ごめんなさい、邪魔をしてしまって。ただ、この森の魔物の動きがおかしいので、確認をさせてほしいんです」
「ほう、我に確認か、人間の分際で。なにか贄はないのか?」
え、ドラゴンが何するか確認したいだけなのに何かあげないといけないのか。
「え、えーと、ごめんなさい。特に何も持ってないです」
「ほう、我に何も持ってきていないと。ならば貴様が贄となるがいい」
そう言って、炎を吐いてきた。
もちろん、俺たちの10m右に向かって。
「あつっ、ただ話しただけでいきなり殺そうとするなんて酷いよ」
思ったよりも広範囲の炎だったから、ちょっと肌を掠った。
「っ? われの炎に耐えるとは。ならばこれはどうだっ」
爪で広範囲を薙ぎ払ってきたから、さすがに危ないと思って腕にかかる重力だけ20倍に偽る。
ドンッ
いきなり腕だけ重さが変わり、腕が地面に落ちるとともに体勢が崩れる。
「? 腕が上がらぬ。貴様、何をした?」
「さあ? それよりも、これでこっちの話を聞く気になった?」
念のために、両腕と尻尾にかかる重力も偽っておく。
ついでに大量の魔力を漏れ出させながら。
「っ! わかった、話を聞くから、殺さないでくれ」
どうやら、俺の魔力はドラゴンでさえも驚く魔力量らしい。
隣でシアも驚いてるけど、毎日魔力を枯渇させて気絶するとかいう鍛錬を一緒にしているのだから、シアの魔力量もそれなりに多いはずだ。
「よかった。じゃあ、楽にさせてあげるけど、何かしようとしたら同じ目に合うだけだからね?」
「わかった、もう攻撃はせん」
概念を解くと、ちょっと痛そうに腕をさすっていた。
「えーと、それで確認したいことなんだけど、君はいつからここにいるの?」
「我はノワールである。最近、およそ1週間前ぐらいに、東の荒野から食べ物を求めてここに来た。」
おぉ、名前と場所と理由も言ってくれた。
ドラゴンって結構賢かったりするのかな。
「東の荒野っていうと、凶悪な魔物が多すぎて人はほとんど行かないところだよね?かなり遠いけど何があったの?」
「もともとそれなりの魔物が蔓延っていたが、1年ほど前からだんだんと魔物が強くなりだしてな。強くなりだした魔物だが、我が狩ってみたところなにやら改造されたようで、皆一様に赤黒い魔石が埋まっておった。自我もなく、近くの自分より弱い魔物を食い荒らし始めおったから、我もつぶして回ったが、そのあたりの魔物がほとんどいなくなってしまった」
なるほど、なにやら東の荒野で魔物の実験でも行われているのかもしれない。
ちょっと厄介かもだけど、今の俺にはどうすることもできないし、まあ、関係ないでしょ。
「この後もここにいるつもり?」
「そうするつもりであったが、立ち去れと言われるのなら仕方あるまい」
「うーん、魔物が群れを作り始めてるから、それなりの冒険者がここに来るかもしれないし、人を襲う気があるのなら立ち去ってほしいけど、襲わないというならここで会ったことは無かったことにしよう」
「わかった。もとより人間は不味い。襲い掛かってきたときは吹き飛ばすぐらいにしておこう」
「いや、この辺に住んでる冒険者ってあんまり強くないから死んじゃうかもしれないよ。なにか隠れる方法とかないの?」
「我が人間ごときに隠れるだと?」
本当は、俺の概念で大きさとかを偽ればいいんだけど、相手の魔力に合わせる必要があるから、シアを偽れなくなっちゃうんだよな。
「まあまあ、とにかくなんかないの?」
「ノール様。契約をしていれば人を傷つけることは無くなるかと」
なるほど、その手があったか。
「ちょっと家に契約の本を見に行ってくるから、待っててくれ」
そうして、俺は最終手段としていた自分の座標を偽る、所謂仮の転移を使った。
♢ ♢ ♢
魔物との契約では、契約者の魔力や血などを契約したい魔物に捧げることで、魔物に命令を守らせることができる。
実力差があれば一度供物を捧げるだけでいいが、基本は定期的に供物を捧げなければならない。
また、契約には両者の同意が必要だ。
なんかたまに、契約の時に補正が入るみたいな魔道具があるらしいが、当の魔物に負荷がかかるから今は禁止されている。
「――と、本に書いてあったから。ノワール、準備はいいか?」
「我に拒否権は無いのか」
「別に嫌ならいいけど、行く当てがないんでしょ?」
「確かにそうだな。わかった」
そして俺は指を切り、一滴の血をノワールの口に垂らす。
「グッ、クハッ、はぁはぁ、たった一滴なのになんて魔力をしているのだ」
「そんなこと言われても。それで、契約は終わった感じ?」
「うむ、我の魔力は貴様とつながった」
「ノール様とのつながり. . . . . .」
お、ほんとだ。なんかノワールの魔力とつながりを感じる。
ん?待てよ。この感覚は、俺の偽りがそのまま使えるのではないか?
「? なんだ? いきなり体が小さくなっておる」
「よっしゃ成功」
シアの姿も偽れてるし、俺が魔力を偽っても、つながっていることに変わりはないみたいだ。
「これで、俺が大丈夫な時は周りから人間に見えるぞ」
「なんと、契約にはそんな能力があったのか」
「いや、単純に俺の力だけど」
契約にそんな便利なものがあったら、さすがに覚えてますとも。
「まあ、基本はその姿でいてもらおうかな。別にその姿でも力が出せないわけじゃないしね。ちなみにだけど、見た目のリクエストなら多少は聞けるよ。今は男性の格好にしてる」
「む?我はメスだぞ?」
え? その喋り方とその見た目で?
あ、見た目は俺が変えたんだった。
まあでも、ドラゴンにはドラゴンなりの話し方があるだろうし、女性の姿にしとくか。
よし、これで気配も偽っとけば一件落着だな。
なんかシアがめっちゃノワールを睨んでるけど、まあ、仲良くしてほしい。
そういや、狩ってきた魔物どこやったっけ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます