第9話 偽りの冒険者登録
というわけで、やって来ました冒険者ギルド〜。
2年ぶりぐらいかな?
もちろん、ただの子供がこんなところにいたら追い返されるだけなので、俺とシアの姿を偽っている。
ぱっと見、駆け出し冒険者に多い20代前半ぐらいの容姿にしといた。
この前助けた時の姿だ。
受付に行き、登録をする。
「あの〜、冒険者登録をお願いしたいんですけど」
「はい、新規の登録ですね。それではこちらに名前をお願いします」
俺とシアの名前を書いて渡す。
「え~、ノールさんとシアさんですね。では能力値を測定するので、こちらに手をかざしてください」
これは懐かしい測定器具だ。
しかし、今の俺とシアのステータスをそのまま反映させてもよいのだろうか。
いくら冒険者になるとはいえ、なる前からかなり強いのは面倒ごとに巻き込まれるかもしれない。
「シア、ステータスはどうしようか?」
「そうですね . . . . . . 概念を持っていることだけを隠して、他はそのままにしましょう。あまり弱すぎると、狩ってきた魔物を信じてもらえず買い取ってもらえなくなるかもしれませんし」
なるほど、さすがはシアだ。
確かに、普通の冒険者のステータスで大量の魔物を狩ってくるのは怪しまれるな。
概念でステータスを偽りつつ、シアが手をかざす。
「っ!レベルが49?しかも魔法の適性に2つも5があるなんて」
つい、受付の人が大声を出してしまったせいで、かなり奇異の目を向けられている。
まあ、新規で登録しといていきなりレベルがこの町で最強だったらそりゃ驚くわな。
「え~と、俺の分を測ってもらっても?」
「あっ、失礼しました。では、どうぞ」
かなりテンパってる受付の人に俺の存在を思い出してもらう。
ちゃんとステータスを偽って手をかざす。
なんとなくこの後の展開が分かった気がした。
「っ?! こっちはレベルが68?! こんな数字見たことないわよ!」
なんか突っ込まれた。
「は?レベル68だと?見間違えか?」
「王国の引退した騎士だったりして」
「いやいや、あの姿見ろよ。どうみても現役だろ」
どんどん騒がしくなっていく冒険者ギルド。
ただの登録のはずだったのに、小一時間ほど追及されてしまった。
まあ、そうなるよね。
うん、知ってた。
♢ ♢ ♢
その後、何回か測り直されたり、職員の人に今までの事情を聞かれたりとなんやかんやあって、なんとか冒険者登録することができた。
聞きたくなるのはわかるけど、こういう個人の都合って聞かないのがマナーだよね?
そんなことは置いといて、ようやく冒険者になることができたので、さっそく依頼を受けてみようと思う。
この世界の冒険者ギルドは、前世でよく見た感じのランク制を使っている。
簡単に言うと、上からS、A、B、C、D、Eで、最初はE、Cぐらいは一人前の冒険者、Bは熟練、Aは国のお抱えになるレベル、Sはこの国に2人いるらしいけど、よくわかっていない、って感じだ。
俺たちはさっき登録したばっかだから、もちろんEで、依頼は一つ上のランクまでは受けられるらしい。
まあ、この町はそんな強い魔物がいないから、みんなCランク以下の人ばっかだ。
とりあえず、魔物の依頼が欲しくて探していると、Dランクでは群れのゴブリンとうさぎ型の魔物の依頼があった。
「シア、どっちにする?うさぎ型を狩ってバーベキューにしようか?」
「ノール様。それでは買い取ってもらう部分がなくなってしまいます。ここはゴブリンでいいのでは?うさぎ型の魔物も見つけ次第狩ればいいでしょう」
確かに、買い取ってもらうために冒険者登録したのに、危うく忘れるところだった。
「よし、じゃあ、これにするか」
そうして、受付の人に依頼の受注を伝えに行こうとすると、目の前にちょっと大柄な男が立って道をふさいできた。
「よお、兄ちゃん、冒険者なったばっかでレベルが高すぎねえか?どんなズルをしたのか知らんが、いきなり魔物討伐は危険だぜ?」
「別にズルはしていませんよ。それに、魔物の買取をしてもらってお金を稼ぎたいので。心配して下さりありがとうございます」
ちょっと面倒そうな感じの人だが、一応心配してくれてるっぽいので丁寧に返しておく。
「おいおい、この俺が気遣ってやったのにいい度胸だな。魔物討伐の前にちょいと指導してやろうか」
やっぱ面倒そうな人だな。
「実は魔物討伐はすでに経験済みですので、ご心配には及びません。そこを通してもらえませんか?」
「ふんっ、ビビってんのか?そこの姉ちゃんを守れなさそうだし、俺らが代わりに守ってやろうか?なあ、そこの姉ちゃん、俺らのほうへ来ないかい?こんな奴の所よりは安全だぜ」
は?シアに目をつけやがったな、こいつ。
もういい、こんな奴は無視するのがセオリーだ。
「シア、受注しに行こうか」
「はい」
シアも迷惑そうな顔してるし、こんな奴は放っといて横を通り過ぎる。
「おいおい、俺を無視すんじゃねえよっ」
肩を掴んできそうだったので肩の大きさを偽り、見た目はそのままにすると、奴の手が俺の肩をすり抜けた。
「おいっ、. . . . . . なあ姉ちゃん、恨むならあいつを恨めよ」
そう言って、シアにも手を出そうとしたのでさすがに俺も怒った。
自分の速度を偽って一瞬で奴とシアの間に入り、奴の手首を掴む。
「いでででででっ、離せっ離せっ」
あ、ちょっと加減を間違えた。
仕方なく離してやると奴は少し後退ったが、すぐに顔を赤くしてこちらに突っ込んできた。
「いい加減にしろよっ。詫びてももう遅いからな!」
奴にかかる重力を10倍に偽って、地面に突き落とす。
ちなみに偽る前と後で大きく異なる場合は必要な魔力量が多いので、魔力量を気にせず偽れる重力は今の所20倍がせいぜいだ。
まあそれでも、60kgの男性にかければ1200kgの体になるから、十分ではあるけどね。
「カハァッ」
あ、鼻が折れてるかもしれない。
ま、シアに手を出したし当然の報いだろう。
周りが騒然となっているが、俺たちは気にせず受付に行き依頼を受注する。
「これを受けたいのですが」
「えっ、あ、は、はい。ゴブリンの討伐ですね。わかりました」
またテンパってるけど、受注はなんとかやってくれた。
あんまり目立つ予定じゃなかったんだけどな。
♢ ♢ ♢
とある男女2人の冒険者視点。
「なあ、あの人たちって」
「ええ、この前助けてくれた人たちね」
「冒険者じゃなかったのか」
「でも、レベルがあんなに高かったら、あの強さも頷けるわね」
「最近魔物の動きがおかしいらしいけど、あの2人がいれば安心だな」
「命を助けてもらったお礼もしないといけないわね」
「あぁ、俺たちも強くなってじゃんじゃん稼いで、何かお返しをしよう」
「少しだけ奥に入ってみる?」
「ばか、死にそうになったんだから、そんなことできるか!」
「そうね。でも、本当に何かお返しがしたいわね」
「今は無理そうだけど、また今度会ったら話してみるか」
「えぇ。そうしましょう」
この2人はそう遠くない未来に、ノールらにこき使われることを知らないでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます