第8話 とある救出劇

 またまた時が流れて俺は現在10歳になった。


 もうシアもかなり強くなって、概念もだいぶ使いこなしている。

 この森ならシア1人で探索ができるだろう。

 つまり、この町にいる冒険者のほとんどより強くなったということだ。

 この森にいる魔物では鍛錬にならなくなってきたので、最近はシアと森の中を追いかけっこしている。

 もちろん、ただ遊んでいるわけではない。

 俺もシアも真剣だ。


 「これは、足跡か?大きさからみてシアのだと思うけど」


 少し進むと、少し擦れた跡のある背丈の高い草があった。


 「やはり、この辺か」


 俺は風の魔術を使い、あたり一面に嵐のような風をもたらす。

 そして気配を探っていると、さらに十数m離れた木の上に一人の気配が一瞬漏れた。

 すぐに走りだし、その木の所へ向かう。

 シアも俺に気づいたのか、隠れるのをやめ少し先の地面に下り、足元を蹴って土を舞わせ、走り出した。

 俺も追いかけようとしたが、シアの概念で止められた土があたり一面にあり、そこを進むと痛いので、自分の体重を偽り、跳躍して木の枝を蹴りながら追いかける。


 「前世のアニメみたいだな」


 すぐ下に見えるシアを追い越して、目の前に下りる。

 すると、かなりの速度で走っていたシアが予備動作もなく完全に停止し、横の茂みに飛び込んだ。

 俺も後を追うが、針山のように固まった茂みに阻まれ、また木の上へと戻る。


 勝負がつくまでにはまだかかりそうだった。



 ♢ ♢ ♢



 「捕まえたっ」


 「っ、いつの間にっ」


 気配をうさぎぐらいの小ささに偽って、ついでに少し遠くで魔術を発動し、自分の魔力を偽って素早く近づき、ようやく捕まえることができた。


 ふっ、俺のほうがまだ上だな。


 まあ、シアはまだ俺の偽った気配を見破れないから、これだけ逃げれてる時点ですごいんだけども。


 「また捕まってしまいました。やはりノール様には敵いませんね。練習になっていますか?」


 「もちろん、とてもいい練習になってるよ。それに、レベル差があるのにあれだけ逃げられるなんてすごいよ」


 「ですが、魔力を私の魔力に偽っていれば一瞬だったでしょう?」


 「一瞬かはわからないけど、もう少し楽に決着はつけれただろうね。でも、それは無しってルールでやったんだから、これだけ逃げれたのはかなり強くなってる証拠だよ」


 そんな風に話しながらいつもの場所に戻っていると、ふと気になる気配がした。


 「っ、ノール様、早く行きましょう」


 「そうだな。これは少しまずいかもしれない」


 感じ取れたのは、2人と、20を超える魔物の気配だった。



 ♢ ♢ ♢



 「くそっ、どうなってやがる」


 「この森は安全だって聞いたのに」


 「このっ、はあっ!. . . 魔力はまだあるかっ?」


 「もう、ファイアボールを、4回ぐらいしか、撃てないと、思う」


 「チクショウッ、こんなところで死ねるかっ」


 そのとき、4体の狼の魔物が2人に飛びかかった。

 2人は死を覚悟し、目を瞑った。


 「キャ――」「うわ――」


 「「. . . . . .」」


 しかし、2人が予想した攻撃は来なかった。


 2人が目を開けると、そこにはさっき襲い掛かってきた4体の魔物が埋まっていた。


 「「―――えっ?」」



 ♢ ♢ ♢



 ふう、危なかった。

 何とか間に合ったみたいだな。


 さっき大量の魔物と2人だけの人間の気配がしたから急いで来てみたら、もう食われる直前だった。

 とっさに魔物にかかる重力を偽って地面に落とし、地面の密度を偽ってふかふかの地面にめり込ませたあと、概念を解いて地面に埋めた。


 「間一髪だったな」


 「はい、さすがはノール様です」


 まあ、たとえ俺があいつらを埋めてなくても、シアが2人を守ってたけど。

 それよりもまだ魔物は大量に残っており、あの2人はもう戦えなさそうだから、行くしかないようだ。


 「とりあえず、姿を偽って行くか」



 ♢ ♢ ♢



 さすがに子供の姿だと怪しまれるので、適当に20代前半ぐらいの姿にしといた。

 ちなみに、姿を偽るのはあくまで見え方を偽るだけだから、他人の魔力に偽る必要がない。

 当たり判定は変えられないけどね。


 「大丈夫ですか?」


 「っ、早く逃げるんだ。この数は無理があるっ」


 俺たちが駆け寄ると、驚きつつも俺たちに逃げろと言ってくる。

 まあ、このあたりの冒険者で2人だけのパーティーなら、この数の魔物は無理だと思うだろう。

 ちょうど今、自分たちが経験しているように。


 「怪我はないようですけど、戦えなさそうなのでそこを動かないでくださいね」


 「いやだめだ! 危険すぎる!」


 必死に止めようとしてくれてるのを無視して、俺はシアに話しかける。


 「どっちが多く狩れるか競争しない?」


 「良いですね。今度こそ勝って見せます」


 「それじゃあ、よ~い、ドン!」


 第二ラウンドが始まった。



 ♢ ♢ ♢



 俺は今、ものすごい光景を目にしている。

 並の冒険者ではおそらく生きて帰れないほどの数の魔物を、たった2人が競争するように瞬殺していく。


 冒険者になって少し。

 何時もと違って今日は少し奥の方まで進んでみようということになった。

 しかし、警戒していたはずなのに気がつけば魔物に囲まれていた。

 それも、この森の中では強い部類である狼型の魔物20体以上にだ。

 この部類の魔物は群れる習性があるが、それもせいぜい5体程度で、これほどの規模は滅多に聞かない。

 そもそもこの森には強い魔物がいないのだから、群れる必要性がないのだ。


 なんとか凌いではいたが、すぐに魔力も体力も付きそうになった。

 狙っていたように一気に襲い掛かってこられ、ここで死ぬんだろうか、と思い、目を瞑った。


 しかし、いつまでたっても想像を絶する痛みが来ず、目を開けてみると魔物はなぜか埋まっており、どこからともなく2人の男女が現れた。


 驚いたが、それよりもこの数の魔物はやばい。

 そう思って逃げるように言ったが、少しも臆することなくゲームでもするように魔物を狩り始めた。


 「ギャゥッ」


 「ガッ」


 今も、一瞬で移動したように見えた男は小石を投げ、狼の堅い皮膚を貫通し、どんどん息絶えていく。

 女のほうも風の魔術で広範囲を切り裂いたり、水の魔術で貫いたりしている。

 時折、なぜか不自然に動きが鈍くなる魔物の動きを不思議に思ったが、それ以上に自分たちとはかけ離れた2人の実力に見入る。

 自分たちもいつかはこうなりたいという憧れを抱きながら。



 ♢ ♢ ♢



 数分もしないうちに、魔物は全滅した。


 「よし、もうこれ以上はいないみたいだな。シア、何体だった?」


 「私は11でした」


 「俺は13だったから、今回は俺の勝ちだな」


 「さすがです。また負けてしまいました」


 あっぶね~、最後らへん気を抜いていたら、シアに負けてたわ。

 結構ぎりぎりだったな。

 ちらっと冒険者2人を見ると、傷だらけではあったが動くことはできそうだった。

 魔物と会わなければ、この森から帰れるだろう。


 「じゃあ、帰るか」


 「あの2人は放っておいてもいいのですか?」


 「うん、動けそうだし、この辺に魔物はいないからちゃんと帰れると思うよ。まあ、一応怪我を偽って少しだけ治してあげたけどね」


 「そうでしたか。それなら心配いりませんね」


 「よし、いつもの場所まで競争しようか」


 「今度こそ勝って見せます」


 そう言って俺たちは木の上へと飛び上がり、さっさとその場を去った。


 しっかし、なんでいきなりこの規模の群れができたんだろうか。

 ちょっと深くまで探索する必要があるかもな。


 ただ、道中の魔物の死体の処理がめんどいし、冒険者に登録しといて買い取ってもらうのがいいかもしれない。

 うん、冒険者になろう。

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