第7話 概念の使い方

 俺はシアの概念を使えるようにするため、本を漁っていた。

 歴史上の魔術師や魔術の解説書、古い逸話なども読んでみた。

 結果、概念についてある程度分かった。


 まず、前にシアが言っていた魔法陣の話。

 あれはシアが言った通りで、概念も魔術の一部だからオリジナルの魔術を使うには魔法陣が必要であるらしい。

 ただ、一回使ってしまえば概念に関してだけだが、ほとんどの人が無詠唱でその概念を使えるようになったっぽい。

 要は感覚さえ掴めばいいらしく、最初は全く分からないから魔法陣が必要で、概念持ち=最強にならないのは、魔法陣を作る必要があるかららしい。

 魔法陣はその道の学者でもなきゃ一から作るなんてほぼ無理。

 だから歴史に名を残す人々でも、概念持ちじゃない魔術師がいるようだ。


 なら、なぜ俺は魔法陣を描かずに概念が使い放題なのか。

 これはあくまで仮説だが、魔法陣を偽っているのではないかと思う。

 具体的なものよりも抽象的なものを偽るのに魔力を多く使うのは、本来の魔術(魔法陣)が複雑だからではないかと思っている。


 これなら無理やりでも筋は通るが、最初に魔法陣を偽れたのはなぜか。

 おそらくそれは、前世で裏切られたからだと思っている。

 自分の命を落とすような他人の偽りを経験したからこそ、使えるようになったのではないか。

 まあ、ただの仮説だし、真相はわからない。

 重要なのは、シアが概念を使うには魔法陣が必要だってこと。


 う~ん、かなりハードル高いな。

 どうにかして、俺の概念が使えないかな。


 今の俺の仮説が正しければ、シアの詠唱を偽ってあげることで、シアもいろいろ使いたい放題になるはずだ。

 しかし、この概念には他にもはっきりした特徴がある。


 それは、他の魔力にはほとんど影響を与えられないってことだ。


 俺の概念では気配や姿(見え方)は偽れても、相手の体そのものや魔術は偽れない。

 つまり、俺自身や魔力を持たないただの植物や物質、武器などは好きなように偽れるが、人間や魔物などの魔力を有する何かを偽ることができないのだ。

 ほとんどって言ってるのは、対象の持つ魔力よりも大量の魔力を以ってすれば概念を使えるからだけど、そんなの非現実的すぎる。

 これは何か考えなくてはならないな。



 ♢ ♢ ♢



 そして数日後。

 いつものように本を読み漁っていると、一つ気になる文を見つけた。


 そこには、魔術の適性が全く同じで使える魔術も同じである双子がお互いの魔術を操れたと記されていた。


 まあ、自分の魔力で作った魔術ならそりゃ操れるでしょうけども、魔力が全く同じなら、他人の魔術でも操れるというのは驚きだった。

 そして、閃いてしまった。


 他人を偽るには、自分の魔力を他人の魔力に偽ればいい。


 早速試してみる。

 ちなみに、魔術師は魔力への感覚が優れてないとそもそも魔力を操れないので、他人の魔力を感じることはできる。


 「シア、手のひらに火を出してくれるか?」


 「これでよろしいでしょうか」


 ここで、自分の魔力をシアの魔力に偽り、シアの魔術を偽って大きくする。


 「っ、いきなり火が大きくなりました。何をなさったのですか?」


 「シアの魔術を偽った」


 「他人の魔力を帯びているものへの干渉は不可能では?」


 「その通りだよ。だから、俺の魔力をシアの魔力に偽った。それなら、シアの魔力は俺の魔力と同じになるからね」


 「ノール様と同じ. . . . . .」


 これで実験は大成功だ。


 「よし、実験は完璧だし、シアもきっと概念が使えるようになると思うよ」


 「どういうことですか?」


 俺は考えた仮説を説明する。


 「なるほど、確かにそれはあり得ますね」


 頭の良いシアが認めたのだから、たぶん当たっているだろう。


 「じゃあ、前みたいに、この辺の空気を止めてみてくれるか?」


 俺は自分の魔力を偽り、シアの概念に必要な魔法陣を偽る。

 他人の魔法陣を偽るなんてかなり抽象的だから、予想外に多くの魔力をもってかれた。

 いや、それにしては持っていかれ過ぎじゃない?


 「. . . . . どうでしょうか。あまり成功している気がしませんが」


 空気を止めれても目に見えないし、確かに成功してるかわからない。


 「俺は偽るのにかなり魔力持ってかれたから、多分概念は使えてると思うよ。どんなイメージでやったの?」


 「空気を固める?感じにイメージしましたが、もし空気が固まるとどうなるのかはイメージできませんでした。確か、具体的にイメージしたら発動しやすいんですよね?」


 「そうそう。でも、空気が固まるってイメージであれだけもっていかれるのはおかしいな。シアは固まった空気がイメージできないって言ったけど、そもそも空気がどんなものかは知ってる?」


 「何もない部分のことでは?」


 「じゃあ、風魔術はどういう現象か説明できる?」


 「. . . . . . 空気中に目に見えない風を作り出し、形を決めて相手に飛ばす. . . . . . ?」


 もしかして、魔術で起こる現象が具体的にどうやってるのかをわかってないのか?

 たしかに、俺が概念を使うときは何をどう偽るかをしっかりイメージしてるし、あながち間違っていないのかもしれない。

 まあ、一回イメージがしやすいものを止めてもらって、できるかどうかを試してもらおう。


 「シア、この石が落ちるのを止めてみてくれる?ただ、止めるときに石の速さをこんな矢印だと思って、それをなくすイメージでやってみてほしい」


 俺は地面に矢印、つまりベクトルを描いてもう少し細かく説明する。


 「?. . . わかりました」


 俺は石を持ち上げ、それを落とす。


 「っ、止まった . . .?」


 小石は一瞬だけ止まり、今度は地面まで落ちた。


 やはり、概念を使うときに大切なのは具体的なイメージらしい。

 さっきよりもだいぶ魔術の消費量は減るから、これは確実だろう。


 「すごいじゃないか。具体的なイメージさえあれば、空気も止めれるんじゃないか?」


 「先ほどの矢印ならわかりやすいのですが、空気はイメージできません。」


 「シア、さっき聞いて思ったけど、空気と風が違うものだと思ってない?」


 「?. . . 違うものではないのですか?」


 あ、概念の練習の前に勉強が必要だ。


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