第6話 シアの能力
私の名前はシア・アースファル。
貴族ではないけど代々魔法を使えたので、昔はそれなりに裕福であった。
でも、お父さんはある日、強い魔物がめったに現れないはずの森で命を落とした。
お父さんはパーティーを組んでいたけど、パーティーの誰も帰ってくることはなかった。
さすがにおかしく思った冒険者ギルドは一度、捜索に乗り出してくれていたんだけど、結果は何もなかったらしい。
一家の大黒柱だったお父さんがいなくなってからは、お母さんが必死に働いてくれた。
それでも生活は苦しくて、ぼろいフードをかぶってその日の食べ物を探すような生活になってしまった。
見ず知らずの同い年ぐらいの子供から食べ物を分けてもらったこともあったけど、とても苦しい生活だった。
お母さんは働きすぎで病気にかかり、食べ物もろくに手に入らず、ついに1か月前ぐらいにこの世を去ってしまった。
お父さんがいなくなってから借りた部屋の所有者はとてもやさしかったので、1か月間はそこにいさせてもらったけど、ついこの前、いきなり出て行けと言われてしまう。
1か月間いさせてくれたのは、私みたいな子供がいることで、子持ちの人たちが契約してくれるようになったかららしい。
それも、ある程度入ってくればもう用済みとばかりに追い出されてしまった。
優しくて、信じていた人に裏切られ、一人彷徨っていると、お父さんが消えてしまった森まで来ていた。
たぶん、ここで死にたかったんだと思う。
魔物を探してふらふら歩いていると、おいしい匂いがした。
一日中歩き回って何も食べていなかった私は、本能のまま匂いのする方へ行き、肉を見つけた瞬間、食らいついた。
食べ終わると、いきなり後ろから声を掛けられ、殺されるかもしれないと思った。
その時の私は勝手に肉を食べた挙句、怪しむように睨んでしまっていたと思う。
今考えると、本当にひどいことをしてしまった。
それでも、彼は私のために肉を焼いてくれた。
普通はそんなことはしないけど、私は一度、似たようなことをしてもらったことがあった。
肉を食べ終わったら、家に来ないか、と誘われた。
もちろん、とても怪しく思えたし、危険だと思った。
でも不思議なことに、この人とは初めて会ったような気がしない。
ずっと前に、どこかで会って、再び巡り合ったように思えた。
どうせここにいても死ぬのなら、この人に縋ってみよう。
もしかしたらあるかもしれない奇跡を願って。
♢ ♢ ♢
シアの測定が終わり家につくと、シアが何かを思い出しているような顔をして微笑んでいた。
ステータスが嬉しかったのだろう。
ステータスが知れたことで、より効率的に鍛錬ができるだろうし。
「よし、シアの特訓開始だな」
♢ ♢ ♢
というわけで、いつもの場所にやってきた。
まずはシアとの鍛錬の相談をしよう。
「シア、さっきのステータスを見るとシアには概念があったし、魔術に加えて概念の練習をしようか」
「わかりました。ですが、概念の練習とは何をすればよいのですか?本で読んだ限りだと、ほとんどの概念持ちはオリジナルの魔術として使っていましたから、練習のしようがありません。それに、オリジナルの魔術を作り出すには魔法陣から作らないといけないと、父が言っていました」
「え、ただ考えたことをやってみたらできると思うけど」
おぉ、いつになく饒舌だな。
自分のステータスを知れてそんなに嬉しかったのかな。
というか、シアがお父さんからその話を聞いたのって多分めちゃくちゃ幼い時だよね?
俺が言うのもなんだが、どんな頭脳の持ち主だよ。
「えっ、そんなんでできるものではないと思いますが」
「まあまあ、いいからやってみてよ。シアの概念は「停止」だから、試しにここの空気を止めてみて」
「. . . . . .」
「どう?」
「. . . . . . だめですね。空気を止めるなんてふつうはできません。そもそも、魔術師が使っている魔術だって、詠唱で魔法陣を補うような形をとっています。歴史上の魔術師の中には、魔術への高い理解度があればそのまま使えると主張する人もいましたが、魔術の原型は魔法陣なんですよ」
マジか。魔術も魔法陣とか考えずに使っちゃってたわ。
というか俺、本読んでたのに全然気づかなかった。
魔法陣とか、初期の魔法かなんかで超効率悪いものとぐらいしか思ってなかったわ。
「うーん、俺は普通に思ったとおりにやったらできたけどな」
「でしたら、ノール様が異常です」
もしかしたら、俺の概念で無詠唱もどきみたいに魔法陣を偽ったのかもしれない。
いや、でも、今シアが理解度が高ければそのまま使えるとかいう奴もいたとか言ったな。
本には、一度その魔法を使うと感覚的に使いやすくなる感じだったし、シアも一回概念を使えたら、いけるかもしれない。
「シアは、概念についてなんかわかる?」
「本で読んだ限りでは、概念を使って新しいことをするには、魔法陣を描いて一度、発動の感覚を身に着ける必要があったと思います。」
「俺は魔法陣を描いたことはないんだけど」
これも転生特権みたいなやつかな?
少々、調べる必要がありそうだ。
とりあえず今日は、レベル上げと剣、魔法の鍛錬をしよう。
♢ ♢ ♢
この人、ノール様について行ってから、私は衣食住だけでなく生きる術や生きる意味すらも与えていただいた。
それでも、ノール様のご恩に報いるには私は弱すぎる。
今日は、私の価値を示すことができるかもしれない日だった。
ノール様の不思議な概念で、私に視線を向ける人はおらず、測定器具まで簡単に使えてしまった。
そして、私は役に立てることを示すことができた。
しかも概念を持っており、ノール様も驚いていらした。
胸の内から嬉しさが込み上げてきたが、何とか声を出すのは我慢して、元の場所まで戻る。
そしてノール様が測定なさると、あれほど強いにもかかわらず私の少し上のレベルだった。
後からノール様に聞くと、レベルを偽ったと言われたが私には理解できなかった。
森にやってきて、私の概念の使い方まで示してくださり、ノール様の異常性が改めてわかった。
まだ使い方がわからないが、私も早くこの人に近づくためにこの概念を使いこなして見せよう。
私はノール様の教えを一言一句逃さないよう注意しながら、聞き入った。
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