第4話 出会い

 俺はさっき取れた新鮮なうさぎを素早く下処理して、バーベキューをしようとしていた。

 今いるのは川が近い、ちょっと開けた場所だ。

 森を走り回っていた時にたまたま見つけた穴場である。

 ここではもう何回もやっており、かなり手慣れたものだ。

 木の枝を肉に刺し、魔術でつけた火で炙ると、肉汁があふれ出していい匂いが広がる。


 「うまそー。いっただっきまーす」


 そうしてかぶりつこうとした瞬間、誰かが近くに来たのを察した。

 ずっと森で狩りをしていたために、隠されていない気配はそれなりに察知できるようになっていた。

 お気に入りの穴場だったが、また別の場所を探したほうがいいかもしれない。

 仕方なく肉は諦めて、気配を偽って待っていると、近づいてきたところから現れたのは、フードをかぶった銀髪の少女だった。


 ――どこかで見たことがある気がする。


 その少女は、火の近くにある焼けた肉を見るや否や駆け出し、肉を奪った。


 「モグモグ . . .」


 「. . . . . .」


 少女は肉を食べたきり、黙ってしまった。

 仕方がないので、こちらから話しかけるとしよう。


 「もうお腹は空いてない?」


 いきなり現れたもんだから、ちょっと跳び上がっていたけど、驚きながらも恐々とこちらを見てくるだけだ。


 「まだ肉はあるし、食べたければ食べていいよ」


 首を横に振る少女。

 しかし、俺にはそれが偽りであることがわかる。


 「じゃあ、俺は食べきれないし、食べてくれない?」


 と、ほとんど無理やりに肉を持たせた。

 少女は一瞬ためらったが、すぐにかぶりついた。

 やはり、まだまだお腹が減っているようだ。


 そしてここに至りようやく思い出す。

 自分でも覚えていたことに驚いたが、この子、町で串焼きあげた子だ。


 しばらく、その少女の腹が満たされるまで肉を焼き続けた。



 ♢ ♢ ♢



 「かなり焼いちゃったけど、そんなにお腹が減ってたんだね」


 狩ったうさぎ肉のほとんどを平らげてしまった少女に驚きつつも、残った内臓や血を川のほうに捨てていく。

 良い子は俺を見習わないようにしてほしい。


 「どうしてこんな所にいるの? 俺が言うのは何だけど、ここは魔物がいるから結構危なくて、子どもが来る場所じゃないよ?」


 とりあえず、ここに来るまでの経緯を聞いてみる。


 「. . . . . . 追い出されました」


 おそらく、元々住んでいた所から追い出されて、行く当てもなく彷徨った結果、ここに来てしまったということだろうか。

 かなり前だが、前回会った時も似たような服で食べ物を探していたようだったし、何とか今日まで食いつないできたのだろう。


 「そういえば、まだ自己紹介していなかったね。俺の名前はノール・リューゲ。君は?」


 「. . . . . . シア・アースファルです」


 「おっけー、シアね。いい名前だ」


 「. . . . . .」


 「この後はどうするの? 行く当てはある?」


 「. . . . . .」


 思った通り、これから先は明日生きていけるかもわからない状況らしい。

 かといって両親に頼んでも、さすがに子供一人が増えるのは負担だろうし、なにより町にはたくさんいる中の一人を拾ってくるのはただの偽善行為だ。


 う~ん、どうしよう。


 あ、そうだ。俺の概念でシアの存在を偽ればいいんだ。

 このごろは毎日家を出てるし、その際にシアを鍛えて一人でも生きて行けるようにしよう。

 問題は、俺の概念でシアの存在をどれほど偽れるかということ。

 たぶん行けると思うけど、今回はばれたら一発で終わるから、俺の魔力があまり無いときは外にいてもらった方がいいだろう。

 まあ、一番はシアがついてくるかどうかだけど。


 「あのさ、提案なんだけど、俺の家に来ないか?」


 「. . . . . .」


 驚いた表情をして、訝しげな視線を送ってくる。


 「もちろん、親は反対するだろうから、ばれないようにだけど。ここにいるよりは安全だし、ご飯も持っていけるよ」


 「. . . . . . できるのですか」


 「多分できる。いや、やって見せるけど、念のため基本は外にいてもらう必要がある」


 「. . . . . . 私に何を望むのですか」


 「. . . . . . う~ん、これは俺がやりたいことだから、特に何も。あ、でも、魔術とか魔物狩りとかを手伝ってほしいかな」


 「. . . . . . 私は魔術も剣も使えません」


 「じゃあ、一緒に練習しよう」


 「. . . . . .」


「もちろん、嫌ならいいんだけど . . .」


 「. . . . . . 私はどうすればいいですか」


 「えっ、えーと、それは俺の家に来るってことで良いんだよね?」


 「. . . . . . はい」


「う~ん、とりあえずは寝られそうな場所を探して、多分家の中だと見つかるから、申し訳ないけど外で寝てもらうことになると思う」


 「構いません」


 「あとは、俺が森に行くときに一緒に来てもらって戦う練習をする、かな」


 「. . . . . . それだけですか?」


「えっ、うん、今思いつくのはこのくらい」


 「. . . . . .」


 まあ確かに、さっき会ったばかりでこんな話は信じられないか。

 自分だったら多分、何されるかわからないし怖いだろう。


 「あ、でも、魔物との戦いは命懸けだし、一緒に戦ってくれたらかなり助かるんだけど」


 「. . . . . . わかりました。よろしくお願いします」


 そう言って、被っていたフードをとる。

 かなり痩せてはいるが、それでもよくわかるほど整った顔をしていた。

 前世でラノベとかアニメとかによく出てくるような白い肌に、ボサボサだけどきれいな銀髪をしていて、一瞬見惚れてしまった。


 「あ、うん、よろしく。でも自分で聞いといてなんだけど、いいの?」


 「. . . . . . どのみちこの森で死ぬでしょうし、断る選択肢はありません」


 「そっか。じゃあ、一応説明しとくと、家では声は出さないでほしい。俺の力でごまかせないかもしれないからね」


 「わかりました」


 「家では、君はいないように扱われてしまうけど、もし嫌だったら外で待っていてほしい。俺もできるだけ外にいるようにするから」


 彼女は頷いた。

 声を出さないということを意識したのだろうか。


 「何か聞きたいことある?」


 「. . . . . . 私は何をしていればいいですか」


 「家での話だよね?えーと、あ、そうそう、家にたくさん本があるから、それを読んで知識を増やしてほしい」


 「わかりました」


 そんな感じで家でのことを話し合いながら帰路についたのだった。

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