第3話 鍛錬の成果
また時が流れること3年
俺は6歳になった
「ギャウッ」
「ガァッ」
俺は今、町はずれの森にいる。
家を抜け出して走って数十分ぐらいのところで、よく駆け出しの冒険者や暇な人たちが魔物を狩りにくる、けっこう安全な方の森だ。
ほかの人たちに見つかると面倒なので、人気のないちょっと入り込んだ場所で狩っている。
あれからずっと鍛錬を続け、それなりに魔法を使えるようになり、剣の腕も駆け出しの冒険者よりは強くなった。
ちなみに魔法は、よく最底辺の魔物とされるゴブリンを急所に当てれば一撃って感じだ。
剣のほうは、近接戦ならゴブリンが5体程度いても余裕だろう。
今も、走りながら見かけた単体のゴブリンを片っ端から倒している。
もちろん、両親には秘密だ。
こんなのがばれたら、どれだけ怒られるかわからない。
「ガァ―!」
「よっ、と」
「ゴァッ」
危ない危ない。
考え事をしてると、ゴブリンよりも早いうさぎ型の魔物が出てきた。
これは体が小さく、すばしっこいので当てるのに苦労するが、肉がおいしいやつで、狩れた日は人気のないところで密かにバーベキューを楽しんでいた。
森に入って魔物を狩り始めてから大体4年が経った。
最初はゴブリン1体倒すのにも怪我をしまくって、帰ったらめちゃくちゃ心配された。
そのあと家に監禁されそうになったが、今では怪我を治せるようになり、心配をかけずにいられている。
怪我を治すと聞くと治癒魔術だが、あれはかなり高度、かつあのステータス画面にないもので、また別の適性が必要になる。
ここで余談だが、あのステータス画面にない適性は属性外魔術と呼ばれていて、治癒魔術以外にもいくつか種類があるそうだ。
もちろん、俺にそんな適性があるわけもなく、どうしようか悩んだ結果、「概念」に至った。
俺の「概念」は「偽り」。
つまり、けがを偽れるのではないか、と。
結果は大成功だった。
初めのうちは完璧に隠せても、時間が経つにつれて傷が見えるようになっていくので、親の前でだけ概念を使うことにした。
ある程度概念も使えるようになってくると、ずっと偽っていれば怪我をしたことにならないのではないか、と思った。
3年間ぐらいは24時間の連続で概念を使うことができなかったが、最近ようやくできるようになった。
かすり傷程度を長い間偽っていると、大体1週間で、跡形もなく消えることが分かった。
さすがに1週間できれいに消えることはないと思うから、概念で傷がなかったことになったんだと思う。
あれは大発見だった。
変にはしゃいじゃったから親に心配されたけど。
「グルゥッ」
などと考えていると、少し離れたところに狼ぐらいの魔物が単体でいた。あの魔物は速いうえに力も強く、鋭い爪や牙があるから近接戦では確実にけがをする。
怪我はしたくないし、魔法での遠距離攻撃でどれだけやれるかを試してみるとしよう。
「ガゥッ」
急所に当たったはずだが、ダメージは負ってもまだまだ元気そうだ。
狼の魔物は俺の方へ走ってくるが、俺の気配は捉えられていないようで、俺がさっき居たあたりの匂いを嗅いでいる。
俺ってそんなに匂わないよね?
そんな不安は置いといて、俺は単身で魔物に挑むとき、魔術オンリーの魔術師は不利であると考えた。
一撃目はこちらが取れるが、気づかれた瞬間終わりだからだ。
そこで俺は概念を使い、気配を消す練習をした。
今では、それなりの冒険者であるらしい父さんにも気づかれないぐらいだ。
そして俺は、魔術師の弱点である魔術発動までの時間を短縮しようと考えた。
まずは無詠唱で発動できるように練習した。もちろん簡単なことではなく、今でも詠唱短縮はできるが、完全な無詠唱はできない。
なら、なぜしゃべらずに魔法が使えているのか。
答えは簡単、概念を使ったからだ。
初めは音を偽ろうとしたが、単に音が出なくなるだけで、発動時間は変わらなかった。
まあ、それでも声が聞こえないだけでそれなりに強いとは思うけど。
発動時間を短くするには、詠唱自体を偽らないといけないことが分かった。
つまり、詠唱をしていないけど、それが詠唱になるように偽った。
何言ってんだこいつ、とか思っただろうけど、安心してほしい。俺も何言ってるかわからない。
まあ、発動時間が短縮できたし、良しとしよう。
ただ、これは少し魔力の使用量が多いらしい。
概念を使っていて気付いたが、概念は、抽象的になればなるほど魔力の使用量が多く、発動難易度も上がるみたいだ。
今、無詠唱っぽくしてるのも何度だって使えるわけではない。
だから俺は魔術のみで狩るのは諦め、狼の足を狙った。
「ギャゥッ」
俺がよく使うウィンドカッターで、足を4本切り落とすことはできないが、動けない程度に切った。
また風の魔術を使い、一気に加速して剣で首を切り落とす。
「ガッ」
倒すことはできたが、この程度の魔物は父さんぐらいのそれなりの冒険者ならば一人で怪我無く倒せるらしい。
やはりもっと鍛えないとダメみたいだな。
「はぁ」
俺は剣についた血を払い、首を切り落とす際に狼の爪で掠ったできた傷を偽る。
この程度の傷ならば、1週間もせずに治るだろう。
「うさぎ肉でバーベキューでもするか」
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