第3話ー遺書


 彼の死体には、幾つもの刺傷と、幾つもの殴打された古傷が合ったらしい。

 

 刺傷は腕、脚、腹、胸、喉。

 刺傷は、自殺する際に自分で刺したものだと、警察がそう言っていた。

 

 殴打された古傷は、全身にあったという。

 古傷は、私の父親が殴った跡、学校での虐め、彼の両親が虐待して出来たものだった。


 そして、関係者だからと警察に話を聞いたとき、警察に彼の遺書を渡された。


―――

 

 ○○へ。

 子どもと君を置いて先に逝くようなパパでゴメン。

 許してくれとは言わない。

 僕のことを覚えてくれとは言わない。

 むしろ許さないで欲しいし、忘れて欲しい。

 そうだ、こんなクズのことなんて、忘れてくれ。

 

 そう言えば僕さ手紙で、君の両親に言われて、君に会えなかったって書いたよね。

 実はあれさ、嘘なんだよ。

 本当は君の両親、特にお母さんの方にはさ、君の傍にいて欲しいって言われてたんだ。

 それを僕が断ったんだよ。

 だってそうだろう?

 まだ子どもな僕達がさ、どうやって子どもを育てるの?

 正直無理だと思ったよ、僕は。

 だからさ、そんな現実から逃げたくて、君に合うことが出来なかったんだ。

 こんな弱い僕でゴメンね。

 昨日の君はさ僕と違って、ちゃんとママだったよ。

 少なからず、僕にはそう見えた。

 

 昨日さ、君たちを人目のつかない場所に誘ったでしょ?

 あれ実はさ、二人を殺して自分も死ぬ予定だったんだ。

 ポケットにナイフが入ってたから、それで……。

 でもさ、そんなこと出来なかったんだ。

 君との子どもを抱いたとき震えたよ。

 なんて可愛いんだろうって……。

 そりゃそうだよね。

 だってさ、世界で一番愛してる君との子どもだもん。

 可愛くない訳ないし、僕が守るんだって、そう思った。

 そう思ったけど、やっぱり僕には背負えなかった。

 君達を僕が幸せに出来る気がしなかった。

 

 君は妊娠するとき学校を休んでたけどさ、僕は学校に通っていたんだよ。

 まだ義務教育中だからさ、仕方無くね。

 学校に行った僕はさ、何時も通りに過ごせるんだって、そう思ってたんだ。

 でもそんなこと無かったよ。

 君の両親が先生に妊娠の件を言ったことでさ、口の軽い先生が妊娠の件を皆に言ったんだ。

 友達とかクラスメイトとか、そんなんじゃなくて、集会で学校の皆に言ってたよ。

 だからさ僕、皆に色んなこと言われたんだ。

 「キモイ」とか「死ね」とか、「学校来んな」とか……色々だね。

 殴られ、蹴られ、居ないものとされ、虐められ。

 別にこんなの気にしなければ良いだけだからさ、君と生まれてくる子どものことを考えたら大丈夫だった。

 大丈夫だった筈なんだ……。

 でもさ、不意に耳にした「あいつのせいで人生狂った○○と子どもが可哀想」ってのでさ、耐えられなかった。

 図星だったんだよ。

 性欲に負けた僕のせいで、君の人生を狂わせたんだ。

 本当ならさ、大人になって稼げるようになってから、そういうことはするべきだった。

 だって僕、二人すらも守れない子どもだから……。

 

 つまり何が言いたいかってさ、孤独に精神病ませただけで自殺する馬鹿でゴメンね。

 性別さ僕知らないけど、子どもも、君も、二人共心から愛しているよ。

 僕のことなんて忘れてね。

 By‪✕‬‪✕‬。


―――


 彼を殺したのは、私達だったのだ。

 私の心の中で何かが崩壊する音がした。

 私は、遺書と子どもを何度も交互に見る。

 私が子どもを産んだから彼は死んで、彼が愛してくれたから子どもが産まれて……。


 どうすればよかったの。

 どうすればよかったの!

 どうすればよかったの?

 どうすれば、よかったの……


 産まなければよかったの?

 生でヤらなければよかったの?

 そもそも、彼を愛さなければよかったの?


 解らない、判らない、分からない。


「わ"か"ん"な"い"よ"ぉ"ぉ"ぉ"───っ!!!」


 悲観、不安、絶望、それらの悪感情が私の心を犯す。

 二人しか居ない家には、私の嗚咽と、子どもの泣き声だけが木霊していた。

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