第2話ー再会
出産してから八日後、一通の手紙が家に届いた。
その手紙とは、私宛に書かれた、私への手紙だった。
家の郵便ポストを私が確認したのは偶然で、何時もはママが確認している。
しかし、今日はたまたまママが出掛けているため、子どもと一緒に留守番していた私が、確認したのだ。
手紙の封を開け、その内容を読む。
「○○さん。元気にしていますか? 君との子どもが出来たと聞いて、僕、驚いてるよ。今まで会いにいけなくてゴメンね? 実は僕さ、君の両親に、娘に会わせないって言われてるんだ。だからせめて、何とか手紙だけでも、ってこうして手紙を毎日送ってるけど、何度手紙を出しても、一回も返事が来なくて……もしかして、嫌われたんじゃかいかって、毎日気が気じゃないです。もし、この手紙を読んでくれたのなら、僕達の子どもと一緒にさ、思い出のあの場所に来てね。僕、ずっと待ってるから。By✕✕」
この手紙を読んだとき、嬉し涙を流した。
今までずっと会いに来てくれなかったのは、私のことを嫌いになったからだと思っていたから……。
彼が会いたいと言うなら行こう、──子どもと一緒に。
そう決心した瞬間、安らかに寝ている子どもを胸に、家を飛び出していた。
ーーー
彼との思い出の場所、それは近くの公園。
小さい頃からよく二人で遊び、そして、そこで彼に告白をされたのだ。
長いこと外に出ていなかったからか、公園に行くのすら懐かしく感じる。
彼はどんな表情で、私達を歓迎してくれるだろうか?
──きっと、満面の笑みで歓迎してくれるに違いない。
彼はどんな言葉で、私達を安心させてくれるだろうか?
──きっと、幸せにすると言ってくれるに違いない。
そんな幸せな未来を想像するだけで、私と子どもは救われるような気がした。
「今からパパに会いますよ~」
私の腕の中には、安らかに寝ている子どもが居る。
彼に会えることが心の底から嬉しくて、子どもが寝ているというのに、つい話しかけてしまったのだ。
やがて私達が公園に着くと、公園の奥の方にある木陰にフードを被っている彼が居た。
その身体付きは全体的に細くなってるし、発しているオーラも違って見えて、まるで、別人のようだ。
そんな彼を訝しみながらも、私達はその歩を彼の元へと進めていく。
愛おしい彼の前までに行くと、さっきまでの不確かな不信感が全て消え去っていた。
「✕✕! ずっと会いたかった……!!」
彼を見ているだけで、安心するし、楽しかった思い出の数々が蘇ってきて、自然と、涙が溢れてくる。
両手に子どもを抱き抱えている私は、溢れ出る涙を自分で拭わずに、彼に優しく拭って貰うのを待った。
しかし、そのときは中々訪れずない。
彼は無言で俯いており、私と顔を見合わせようとも、私達の子どもも見ようとはしなかった。
暫くして、彼が急に動いたと思ったら、両手をポケットに仕舞い、私達の方を振り向かずに低い声で言う。
「こっち来て」
ただ一言そう言った彼に頷くと、私達は公園の茂みの方へと着いて行った。
私達が着いて来たのを後目に確認した彼は、ポケットから出した両手を広げ、低い声で言う。
「ねぇ。その子抱かさせてよ」
胸に抱いている子どもを見た。
私達の子どもは大人しく、ママとパパに抱かれても泣かなかったのだ。
であるならば、寝ている今なら少なからず、彼に抱かれて泣くことは無いだろう。
と、そんなことを考えた私は、彼に子どもを抱かせることにした。
「うん、勿論。むしろ抱いて上げて? そっと、優しくだからね?」
「……うん、分かった」
子どもを受け取った彼は、手を震わせている。
でも、それでも、子どもを抱く彼の手は優しくて、やっぱり彼はパパなんだなと、そう思った。
と、そんなことを私が思っていると、彼は大粒の涙を流しては子どもを優しく抱きしめる。
「ゴメンなぁ……こんなパパで、ゴメンなぁ…………」
フードに隠れて見えない涙。
それは、滴り落ちると、子どもの頬に弾けた。
彼がどんな気持ちで、こんな懺悔をしているのかは、正直分からない。
だからこそ私は、そんな彼を黙って見守った。
やがて彼は満足したのか、抱きしめていた子どもを、私にそっと返して微笑む。
「ありがとう、凄く可愛かった」
微笑んだ彼は涙をパーカーの袖で拭くと、私の額に優しくキスをしたのだ。
「○○。愛してる」
そう言った彼の瞳は綺麗な闇を孕んでおり、私が手を伸ばすよりも先に、走り去ってしまった。
「……………………まっ、て」
この日の翌日、自殺した彼の死体が見つかる。
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