第6話 天才同士の一騎打ち
魔族軍VS協同軍 開戦早朝の魔族陣営――
俺は朝早くから突然変異で産まれた最強の息子ゴンブーの飯作りに追われていた。息子が起きるまでに作り終えておかないと、まだ幼い息子は拗ねてアイスボールⅡの魔法を連発して俺を殺そうとするから恐怖だった。
俺は猪の煮っころがしを作っていたのだが、
「しまった―、調味料の醤油がない。この世界ではそれがないのか?」
俺はしばらく頭を回転させたが、
「仕方ない、代わりに唐辛子で味をごまかそう。まあ子供の舌はまだ発展途上のはずだからな」
俺はたっぷりと唐辛子を料理にぶっこんだ。でも自分で味見をする気はまったくない。
息子のゴンブーは起きるなり、
「パパ―、喉が渇いたよー」
「はいはい、お水だね」
エプロン姿の俺は惨めな召し使いのようだ。水をコップに注いでゴンブーに渡すと、息子は一口飲むなり”ブーッ”と吐き出した。
「ねぇ、水よりあれがいいよー」
ゴンブーはそう言うと、テーブルの上に置かれていたウィスター様が飲む赤い涙を指差した。面白いじゃないか、酔わせばしばらく寝るだろう。そしたら俺も一休みできるに違いない。そう思って赤い涙を10瓶、ゴンブーに渡した。
「これは栄養剤だから一杯飲んでお前も早く大きくなりなさい」
そう言い終える間もなくゴンブーは10瓶一気に飲み干していた。ゴブリンと人間の血を継いだまだ幼さの残る我が息子は即酔った。すると急に豹変してサンダーボールを辺りに連発し、多くの味方の魔族を即死させた。ゴンブーは経験値を獲得してレベルアップ、レベル70になった。
そう、息子は酒乱の癖があることを俺は今知った。そして俺は酔い止め薬を無理やりゴンブーの口へぶち込んだ。しばらくしてゴンブーの酔いは冷め、
「ねぇパパ―、どうして周りに仲間が寝ているのー?」
それはお前が殺した魔族の死体だ、そう言いたかったが、
「そうだね、皆さんはきっと戦前の休憩だよ」
俺はまだ知能の発達していないゴンブーに軽い嘘を付いた。
「ところで戦って何?」
いちいち質問してくる息子に俺は嫌気がさしてきたが、
「簡単だよ、ここから遠くにいる生き物を殺すことだ」
と、言葉を間違えないように気を付けて言った。そして俺は唐辛子のたっぷり入った料理をゴンブーの前へ並べて、
「さあ朝ごはんだよ。美味しかったらお代わりは幾らでもあるからね」
「うわー、美味しそう。いただきまーす」
そう言うなりゴンブーは一口で料理を完食すると余りの辛さからか、口からファイアーボールⅡを発動させ、辺りは味方の魔族の死体で埋もれた。だが死にかけの仲間もいるようだ。俺、もここぞとばかりにファイアボールを連発して止めを刺した。親子揃って多くの経験値をゲットし、俺はレベル20になり、息子は既にレベル72に達した。
「やったね!」
俺と息子はハイタッチして喜んだ。そんな俺たちは仲間を殺してレベルアップする狂った親子である。
そしてその日の夜はやって来た。
開戦――
連合軍は先の戦で半壊した城を捨てると近くの小高い丘に陣を敷き、敵を待ち受ける。囮の徒歩兵3千を率いる前衛部隊のマンスリー大佐は、弓部隊3百を伏兵として丘の袂に配置した。軍は守りに長けた鶴翼の陣形。
魔族軍は、雁の陣。その陣形を取った理由は先の戦いで王国が見せた横からの攻撃にも対応できるように備え、ウィスターが今回から1軍の指揮官に抜擢したデゼルの考案を採用した。
ウィスターは気を荒くして、
「よいかー、敵は先の戦いで多くの兵を失っている。だが我らは再度軍を増強させたのだ。一気に敵を根絶やしにするのだ。進軍せよ―!!」
「ウィキーッ!!」
ついに戦が幕を開けた。魔族軍の後方射撃部隊、ダークマージとネクロマンサーは先の戦とは違い、水砲弾を容赦なく敵へ浴びせた。水攻めである。
ギルラーザ王とボルド将軍は同じ陣幕で指揮を執っていた。ボルドは、
「予想通り敵は夜に攻撃を仕掛けてきましたね」
「そうだな、やはり日が昇るまでがこの戦の鍵を握っている」
魔族軍の水砲弾が連合軍陣内へと飛来した。
「何と敵は水攻めのようですね。ではこちらは反対の雷攻めで参りましょう」
そしてボルド将軍は大声で、
「サンダーボールを放射せよー。白魔導士隊はシールドを張れー!!」
両軍の砲弾が宙を飛を舞う。一方で徒歩兵は接近戦で剣を交えていた。しばらくしてマンスリー大佐は、
「引け―、引くのだー」
と作戦通り部隊に後退を告げた。それに追い打ちを掛ける魔族徒歩部隊。すると連合軍の伏兵が弓の雨を浴びせた。たまらず魔族軍徒歩部隊は足止めを食らった。遠方からそれを見ていたギルラーザ王は、
「マンスリー大佐も中々やるではないか、あっぱれだ」
連合軍のシールド結界も威力を発揮したが、何時間経っても魔族軍の水砲弾は止むことを知らない。
だが、次第に魔族軍の兵力は連合軍の時間稼ぎの策によって徐々に削られていく。連合軍は日の出を前にし、ボルド将軍の提案した策は予定通りに遂行されていた。
魔族軍司令官長ウィスターは日の出を間近にし、眉をしかめて焦りを顔に表わし、
「このままでは夜が明けてしまう、何か策はないか」
と別の策を模索し始めた。そこへ侍従医師がやって来て、
「ウィスター様、ついに秘密兵器を使う時が訪れたようです」
「その秘密兵器とは何なんだ?」
「火炙りの大処刑です」
「……よかろう、その策を拝見させてもらう」
侍従医師はゴンブーを呼びつけると、
「おやまあゴンブー君、実は君にお願いがあるのだが」
「何だい?」
「実はね、君の父上は水を1万リットル飲まないと死んでしまう病気なんだ」
「本当かい! で、僕にどうしろと言うの?」
「お父さんに水を1万リットル飲ませなさい。そうしないと父は死にますよ」
「それは大変だ! 分かったよ」
ゴンブーは慌てて水の入った樽700を
「ぱぱー、病に負けちゃダメよー!」
そして俺の口を無理やり開けて樽の水をぶち込み始めた。
「お、おい、何の、ま、ね、だ……ぶくぶく」
親が苦しむのを楽しそうに息子は次々と樽の水を俺の体内にぶち込み続ける。
「ぶくぶく……ごほっ」
俺は息子に殺されると死を覚悟した。そして1万リットルの水が俺の体内に入ると、
「パパ―、元気になってよかったね!」
「ごほごほっ、バカかお前は。親を殺す気か!」
それを見ていた侍従医師はあまりのバカさ加減に笑いを抑えきれない。
俺は大量の水を一気に飲んだせいでおしっこがしたくなり、その場で甲冑と下着を脱ぐと、勢いよく連合軍目掛けて尿を放出した。侍従医師は、
「やったぞ、予想通りだ!」
俺の体内には侍従医師が前もって大量のアルコールを注入していたから、それが今から威力を発揮しする。
俺は10分間尿の雨を連合軍に注いだ。そしてそれを終えるなり侍従医師は、
「今だ、ファイアーボールで火の雨を連合軍に放てー!!」
炎の玉は眩い光を放ちながら連合軍の陣内に飛来し、アルコールで覆われた大地に着弾すると、辺りは炎の渦と化した。
それを見たアホのゴンブーは、
「わー、綺麗な火だなー、遊びに行こ―っと」
そう言って連合軍の本陣へ向かって一人でるんるんと駆けだして行った。それを見ていた俺は、あいつは最強のアホだ、いったい誰に似たのやら、と嘆くしかできない。
連合軍は炎に包まれると混乱に陥った。
「いったい何が起きたんだ!」
ギルラーザ王とボルド将軍、そして連合軍は皆死を覚悟するしかない。己の命は尽きた、とボルド将軍は魔族軍目掛けて駆けだした。
ゴンブーVSボルド将軍の一騎打ち
それは兵士の死骸が地を覆う暗闇の中だった。ボルド将軍は一匹のゴブリンと遭遇した。
「ふふ、ゴブリン、貴様もここで死ね」
それをゴンブーだとボルド将軍は知るはずもない。
「ねぇおじさん、遊ぼうよー」
「は?」
ボルド将軍は、このゴブリンはきっと頭がおかしいらしい、切り捨てるとするか、と思い剣を高く舞い上げて目の前のゴブリンを切り裂いた、はずだった。だが、剣はゴブリンの体に当たると”パリンッ”と折れた。ボルド将軍はびっくりして腰を引いた。
「何なんだ、こいつ!」
「うーん、気持ちいい―♡。おじさんもっと僕をいじくってくれる―」
「バカか!」
「バカ―? このおっさん、殺してやるー!」
怒りが一気に沸点に達したゴンブーは、最強の魔光弾を天空に創り上げ、目の前のおっさんに、
「死ねー!!」
とぶっ飛ばした。それは魔王ガーベージの力に勝るとも劣らない、凄まじい破壊力だった。
ゴンブーは、あっという間に両軍の兵を全滅させた。と思ったが、王国のギルラーザ王は辛うじて息をしていた。俺はそれを見るなりファイアーボールⅡで止めを刺そうとした。その時だ。何を考えたかゴンブーはギルラーザ王にヒールを連発して、
「やったー。パパが復活した―!!」
そう言ってギルラーザ王に、熱いお茶を召し上がれ、と差し出した。
「おいゴンブー、パパはこっちだぞ!」
何ということか、息子のゴンブーはギルラーザ王と俺の区別が出来なかった。復活したギルラーザ王は命辛々、共和国領へと逃げていった。
その他、生き残ったのは魔族軍の家臣団と王国軍の小竜グローブだけだった。
魔族軍の家臣団は大陸南部を辛うじて制圧したが、現兵力は僅か15。
連合軍VS魔族軍の第二戦はゴンブーの暴走で意外な末路が待っていた。
俺の息子はアホなのか……。
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