第5話 ゴンブー暴走 ボス魔神官戦!

 連合軍司令部――



 共和国の援軍を率いるのはボルド将軍である。彼は27歳という若さだが、幼少のころから軍の統率に関する英才教育を受けて育った秀才だ。それを証明するかのように18歳の頃、彼は反乱軍鎮圧という命を受けての初陣で、数カ月は掛かるであろう戦を僅か3日で沈め、22歳という若さで今の地位に駆け上がった。共和国切っての策略家。その将軍を差し出した共和国代表シネモラにギルラーザ王は感謝せずにはいられない。王は、


「ボルド将軍、はるばるの出陣心から感謝する。数十年前からあなたの名声は私の耳にも届いていますぞ」


「礼を言うなら戦に勝ってからにしてくれないか。それと僕が負ける時は己が死ぬ時と心得ているよ」


 それを聞いた王国のドゥルクス将官は、


「この戦は我ら連合軍が8千余、敵は2万余だ。いくらボルド殿でも勝機の策はあるのかな? それとも負け戦を前に尻丸出しで共和国へ引き返すのかな?」


 それに対しボルドは、


「私が引けばこの戦は3分で終結し、君たちは敵の前に跪くことになるだろうね」


「何だと、言わせておけば!」


「止めないか二人とも。内で小競り合いをしていたら連合軍は魔族軍に笑われるぞ」


 そう言って咄嗟に王国のマンスリー大佐がいがみ合う二人を制した。その時、


「王様、ご無事で再会できて何よりです」


 グローブが羽根をパタつかせてやって来た。


「おお、グローブ! 大儀であった」


 援軍を引き出したグローブは大手柄を上げて帰還した。だがその手柄の裏にはギルラーザ王が認めた書状を読んで暗記するとそれに自らの案を盛り込み、シネモラ代表に伝えたことが一番称賛に値する。だがそのことをグローブは自分の心に沈めることにした。


「では軍議に入る。敵は2万。それに加えて我々は城も失ったことで戦況はかなり不利だ。だが、今回は共和国の黒魔導士軍という駒をどう活かすかに掛かっている」


 そのギルラーザ王の言葉にボルド将軍は、


「敵は魔族。奴らは夜の闇に強く、日差しに弱い。我々は時間を稼ぎ、日が昇るまで時間を稼ぐことが一番初めの一手といえるのでは」


 王国ドゥルクス将官は、


「では黒魔導士軍の役目とは何だ?」


「防御。つまり白魔法シールドで結界を作ります」


 それを聞いた王国一団はびっくりし、マンスリー大佐が、


「白魔法だって? なぜ黒魔導士がそれを使えるのだ?」


「私たちの援軍の中には、2百余の白魔導士も導入しているのです。この作戦を遂行するために私が独断で連れてまいりました」


 さすがは秀才ボルド、と周りの皆がうなった。更にボルドは、


「徒歩兵はおとりにし、進軍させては引き時間を稼ぐ。その間にできるだけ多く魔光弾を敵に打たせる。シールドがあれば持ちこたえることが出来るでしょう」


 その策は敵の魔力を衰弱させるという奇策だった。


 口を閉ざしていたギルラーザ王は、


「我が軍のヒーラーは先の戦いで2百余を失い、残り8百。その内2百ほどがまだMP不足。つまり使えるのは実質6百と言ったところだ」


「時間稼ぎには十分でしょう。奴らは日に弱く、必ず時間が経てば焦りだして夜のうちに勝負を決しようと躍起になるはず」


 冷静にボルドが言った。


「ではおとり部隊3千は私、マンスリーが率います」


「俺はこの高台からヒーラーを率いて後方支援する」


 ドゥルクス将官も大佐に負けじと鼓舞してみせた。そしてギルラーザ王は、


「それでは我は残りの2千の魔術軍を率いて遠方射撃といくか」


 最後にボルド将軍が、


「では私たちは敵をかく乱する後方射撃とシールドを張る防御の二刀で参ります」


「よし、決まりだな」



 連合軍は時間稼ぎの策で日が昇るのを待つ耐久戦を挑むことにした。




 魔族軍陣内では――




 魔族軍内ではある問題が浮上していた。それは天才ゴンブーの暴走である。ゴンブーの力はレベル30ながらもそれ以上の潜在能力を持っていた。その力を父親の俺が逆手に取ろうと、


「なあゴンブー、アイスボールⅡの魔法を教えてくれ」


「パパ、そんな魔法も使えないのー? こうやるんだよ」


 そう言ってゴンブーはアイスボールⅡの魔法を辺りに連発し、多くの魔族兵を即死させた。ゴンブーはどんどん経験値を得てレベルが上がり、しまいにはレベル40に達した。


「バカかお前は。これでは魔族が全滅するぞ、ゴンブー!」


 しつけ役の俺はそのゴンブーに手を焼き、ノイローゼに陥りそうで仕方がない。そんなバカげたことをしていると、三大魔神官、炎の殺し屋ゼロがやって来て、


「おいザブリー、お前の息子は少々痛めつけないと私の気か済まねえ。殺しても良いか?」


 すると俺はひたすらに頭を下げ、


「すみません、うちの息子がご迷惑をお掛けしまして。私が何とかしつけますから」


 それを見たゴンブーは父親の私がゼロ様に虐められていると勘違いし、


「おいクソじじい、パパをいじめるな!」


「何! 私にクソじじいだと! 喧嘩を売っているのか、ゴンブー!」


そのゼロ様の言葉を聞いたゴンブーは、


「パパ―、このクソじじいが僕をいじめるよー!」


 何ということだろう、ゴンブーは可愛げなふりして俺に助けを求めてきた。


「こら! ゴンブー。いい子だから頭を下げて謝りなさい」


 それでも我が息子は甘えた声で、


「ねぇパパ―、あいつをやっつけてくれないかなー」


「ば、バカやろう! 親に自殺しろと言ってるのか!」


 それから俺は元の世界のコンビニで買っておいたカレーパンが腰の袋にあったのを思い出し、


「どうもすみません、お詫びのしるしにこれを頂いてください」


 ひたすら頭を下げながらそのカレーパンをゼロ様に差し出した。すると案外ゼロもアホだった。ゼロ様は、


「ん-、このパンは何味だね?」


「カレーですよ。だからカレーパンって言うんでしょ」


 俺はパンの味まで説明する羽目になった。ゴンブーの面倒見とゼロのアホにしばらく付き合わされる俺。ゼロ様はカレーパンを半分に割ると、


「こらー、ザブリー。このパン、中にう〇こが入っているではないかー!」


「ち、違いますよ。それはカレーです、ゼロ様」


「なーんだ。じゃあ食べよっと」


 俺はいちいちパンの中身まで説明しないといけないのか、と目の前のアホ魔神に笑ってしまった。すると、


「パパ―、僕もあのカレーパンが食べたーい」


 また息子が俺に甘えてきた。


「こらゴンブー、いい加減にしないとお尻ぺんぺんよ!」


「やだー、パパこわーい♡!!」


 それで俺は気付いた。ロンブーはお尻ぺんぺんに弱いのだと。その時ゼロ様が、


「こらー! このパン辛いぞー、ザブリー!!」


「当たり前ですよ、なんせカレーパンですから」


「おや、そうかい。それじゃあ全部食べちゃおっと」


 ゼロは脳みそもゼロなのか、こんなアホ魔神クソだな、と俺は独り笑いした。そして俺はつい、


「いいかいゴンブー君。あんな大人になっちゃだめよー」


 と言ってゼロ様に指をさした。それを見た炎の殺し屋ゼロは、


「何だとー! 俺をバカにする気か、ザブリー!!」


 俺はもうアホには付き合ってられないと思い、


「バカする気かじゃなくて、とっくにバカにしてまーす!!」


「おのれー、殺してやるーザブリー!!」


 仕方なく俺はゴンブーに、


「よし、我が子よ。あのクソじじいを懲らしめてやりなさい」


 すると、


「本当にいいの? 殺しても?」


 ゴンブーは闘争心を徐々に体中からみなぎらせ、それを見た俺は、


「ああ好きにしなさい。パパはここでゴンブーの応援をしておくからね」


「分かったー、じゃあ3秒で殺しま―す」


 それから本当に3秒後、ゴンブーはカレーパン事ゼロを口の中に頬張ほおばって飲み込んだ。


「やったねパパ!!」


 すると益々ゴンブーは経験値を獲得し、レベル50になった。この息子、どんどん強くなっていく、限界を知らないのか、と俺は開いた口がふさがらない。その時だった、


「2人とも、ここで何をしておるのだ?」


 ウィスター様が現れた。


「いやその……うちの息子にご飯をあげていたところです」


「そうだったか、ご苦労だ。さあ出陣の準備が整った。いよいよだぞ」


「あらー、うちの息子の初陣ですね。嬉しい限りです。さあゴンブーよ、戦闘配置に就きなさい」


「はーい! ここでいい?」


 何とうちの息子はウェスタ―様のベッドの上で小便を放った。たまらずに俺は、


「こらー、ゴンブー。お尻ぺんぺんよー!!」


「えーん。ごめんなさいパパ」


「あなたの戦闘配置はここでーす」


 そう言って俺はゴンブーを最前線の更に最前線に置いた。それを見たウィスターは、


「おい、ザブリー。お前自分の息子を殺す気か!!」


「いいえぇ、ウィスター様。我が子は痛めつけられるのが好きなMなんですよー」


「マジか!」


 これにはさすがのウィスターもあきれ果て、苦笑いを浮かべるしかできない。




 開戦前、魔族軍にはこのようなアホ物語があったとは連合軍は知らなかった。

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