第4話 天才魔族ゴンブー誕生 実はアホだった!

 戦闘一夜後――



 敗北した魔族軍の残党は命辛々大陸の最南端へ落ち延びた。総司令官長ウィスターもまた腕に擦過傷を負い、ヒーラーの手当てを受ける羽目となってしまった。2軍の指揮を執っていた俺は幸いに城外での後方支援だった為、何とか無傷で済んだ。率いていたダークヒーラーにも害は全くない。



 ウィスターに一番嫌な仕事が回って来た。それは戦況をガーベージ陛下に報告することだ。

 しぶしぶウィスターはウェーブの魔法で陛下に取り次いだ。


「どうだね、ウィスター卿。戦況の具合は?」


 ガーベージ陛下の問いにウィスターは、


「すみませぬ陛下、実は王国の罠に掛かって我が軍は総崩れとなりまして……」


「何だと! 敗戦したと言うのか!?」


「すみません、陛下」


「まあ、兵が減ってもこちらには人間の少年、ザブリーがおる。そいつを利用してまた兵力を増やせば済む問題だ」


「では兵力増強策を実行いたしますか?」


「そうだな、一応種付けはして置け」


「畏まりました」




 数多くの女子の魔物と俺は急遽ウィスターに陣幕へと呼び出された。俺は、


「何の御用でしょうか、ウィスター様?」


 傷がすっかり癒えたウィスターだったが、敗戦の余韻からか不機嫌そうな顔をして、


「用は他でもない。全裸になれ」


「は?」


「だから全裸になれと申しておるだろ!」


「私の体は傷一つございませんよ」


「違う、そなたに次の命を言い渡す。そなたは今より生殖体となって魔族兵力の増強に精を出してもらう」


「俺が生殖体? ちょっとー、冗談キツイですよー!」


「嫌か?」


「嫌も何も生殖体になるって子を作って増やすと言うことですよね? そんなバカげたこと俺にはできません」


「魔族の女子は嫌いと申すか? ならば強制的に生殖体になってもらう。皆の者、ザブリーの服を脱いで寝室へ運べ!」


 ウィスターの命を受けた侍従がいきなり俺に麻酔銃を打ち込んだ。やがて俺は深い眠りに就かされると、全裸にされて妙な機器で精子をたっぷりと抽出された。一匹の侍従医師は、


「さすがはザブリーの性欲力。次々と液が湧き出て来るぞ」


 もう一匹の侍従医師は、


「これくらいで止めておこう。これで数万の魔族兵が増強できるというものだ」


「それと最後にザブリーの体内にアルコールを注入しておくか」


 俺の体内から抽出された液はすぐさま女子の魔族の体内へと注入された。そして医師の独断で俺の体内に大量のアルコールが入れられたのだ。かくして兵力増強策の種付けは無事完了した。



 王国軍の陣幕にて――



 国王ギルラーザは勝利を祝い、陣幕にて家臣や兵と共に盃を交わしていた。王は、


「皆の者、大儀であった。だが我らの軍も大きな損益を得て、兵力はすでに6千余となってしまった。第二戦は更なる地獄となるだろう」


 一方、ドゥルクス将官は、


「まあ王様、今は何もかも忘れて美酒に酔いしれましょうぞ。なあ皆の者」


「そうだそうだー!」


「うむっ、今宵は無礼講だー!」


 そう言いつつもギルラーザ王は第二戦のことを考えると酒が進まない。そして預言者レイズを側に呼ぶと、


「レイズよ、今そなたには何が見えるのだ?」


「北から光が現れ、されどその光と共に我らもまた地に沈む、です」


「北……か。そこは共和国だ。使者のグローブはどうしているだろうな」


 レイズは一つ息を吐き、


「グローブは上手くやっていますよ。そして一時期の光をこちらに運んできます」


「レイズ、光、光とそなたは口にするがそれは共和国の援軍の事か?」


「さあどうでしょうね。そこまでは私にも見通せません」


 魔族軍の侵攻をいち早く予言し、見事的中させたレイズの言葉をギルラーザ王は、今は心中に重く受け止めていたのだった。



 使者グローブ――



 王国の使者として共和国に入ったグローブは2人の兵士に評議会代表の間へと案内された。そこで待ち受けていた代表シネモラは歓迎の意を込めて、


「よくぞ参られた、気高き王国の使いよ」


「身に余るお言葉、誠にありがたき幸せでございます。私の名はグローブ」


「今そなたの国が魔族とやりあっていることはすでに聞き及んでいる。まさか南から戦渦が舞って来るとは予想だにできなかったであろうに」


「いかにも。代表殿、直入に申し上げます。我らと一つ取引を致しませんか?」


 そう言ってグローブは顔に目一杯笑みを浮かべた。普段竜族とはめったに笑わない生き物だとされている。


「取引だと? それはいったい何だね?」


「援軍をお出しすれば、我らとの国境にあるミッドベリア鉱山を共和国へ差し出します」


「ほう、鉱山を与えると申すか。でもそれだけではな」


「代表殿、万が一我が王国が滅びれば魔族軍はここ共和国領内へ進軍するのは必至です。今、我々と手を合わせればそれも防げるやも知れませぬ」


「確かにそうだが……援軍を出したところで勝算はあるのかね」


「何とも言えません。ですが、例え負けたとしても魔族軍を弱体化させることは可能かと。さすれば当分は共和国も訪れるであろう魔族軍との戦に備える時間ができます」


 グローブは頭で描いていたシナリオを口にした。しばらくシネモラ代表は黙り込んだ後、


「よかろう、援軍を派遣する。だが2千の黒魔導士軍のみだがそれでも良いかな?」


「それはありがたきこと。共和国の黒魔導士は世中でも魔力に長けているとの評判ぶりですから」


「それとそなたが申した鉱山の件、それを我らに与えると言うことで間違いないな?」


「いかにも!」


「決まりだ。ボルド将軍、早速援軍の手はずを整えろ」


 シネモラ代表の命を受けたボルドは、


「承知しました。明日の夕刻までに出陣できるよう手はず致します」


 グローブは安堵のため息をついた。そして共和国がその重い腰を上げ、ついに参戦することとなる。



 魔族陣営では――



 俺は目の前の光景をただ呆然と立ち尽くして見ているだけだった。何と昨日、俺の体内から抽出された液を体内に入れられた魔族の女子おなごが次々と出産し始めたのだ。俺はそのあまりにも早すぎる出産にアホ臭さを覚えて笑ってしまった。その数1万余。産まれたばかりの赤子に侍従医師が魔族ワクチンを打つと僅か3時間で成人するのを笑って見つめるしかできない。


 

 いきなり侍従医師はびっくりして、


「突然変異だぞ! この赤子は特別兵となるだろう」


 その赤子もまたすぐに成人した。そしてそいつが俺に


「パパ、初めまして」


とじゃれてきた。俺は、


「な、何なんだ。お前の名前は?」


「777号だよ」


 生まれた赤子には番号が振られ、それが呼び名となるらしい。

 それを見ていたウィスターが、


「はははっ! 若くしてザブリーもパパになったか」


と俺を皮肉った。そして、


「ザブリーよ、777号は天才魔族兵。既にレベルは30だ」


「なにー!! 俺でもまだレベル16だぞ!!」


「数百年に1の突然変異で777号は誕生したのだ。パパとして可愛がってやれ」


 777号はゴブリンだぞ。それを可愛がれって言われてもどこに可愛らしさがあるってんだ。俺はゴブリンのパパになったのか、そう思うと脳みそが半分腐ってしまいそうだ。


「パパ―、遊ぼうよー」


 そう言って息子の777号はアイスボールⅡの魔法を俺に向けてぶっ放してきた。間一髪俺はそれをかわした。そして、


「バカやろう、父上を殺す気か!」


 それからこっぴどく息子に説教をしてやった。それからウィスターに、


「すみませんが俺の息子の名前を改名し、ゴンブーとしたいのですが」


「777号とは呼びずらいか。いいだろう、今からそいつはゴンブーと呼ぶことにする」


「ありがとうございます」


 それからゴンブーは亡き三大魔神官スナイデルの穴埋めとして、その役割を果たすことになり、息子は俺の上の役職を得てしまった。天才がゆえに。




 魔族軍はあっという間に戦力をまた2万に戻し、大陸南端で王国軍との第二戦に向けて戦闘準備を整えていた。陣幕にやって来ると侍従医師が、


「ウィスター様、最大の兵器を用意しています」


「ほう、それは何だ?」


「ザブリーの体内に大量のアルコールを注入しておきました。それは我が魔族軍の秘密兵器として使えるでしょう」


「そうか、あい分かった」


 医師とウィスターの会話は俺の耳には入らなかった。




 戦闘準備が完了し、再び魔族軍は北上を開始した。


共和国軍の援軍が王国に到着したと言う一報がウィスターの元へ届くなりウィスターは、


「共和国・王国連合軍か、面白い。今度こそ根絶やしにしてやる」



 報復の魔族軍VS最勝への連合軍。



 間もなく大陸の支配権を掛けた運命の戦火が飛び交うのだった。


 そして俺の息子ゴンブーがアホ伝説を作ることになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る