第3話 魔族軍VS王国軍 開戦
大陸歴740年牛の月。魔族軍は2万の軍勢を二手に分けた。1軍は1万9千の前衛部隊、残る1千は後方支援のダークヒーラー部隊。指揮は1軍が総指揮官のウェスタ―卿。もう1軍の軍長に何と俺が抜擢された。それを聞いた三大魔神官はウェスタ―の無謀な采配に、
「ウェスタ―卿よ、人間の小僧ごときに軍長を任すとはいかなることか」
と揃って非難の言葉を口にした。するとウェスタ―は、
「すまぬがこれは我の策であり、決定権は総指揮官の己にある。いくら三大魔神官といえども口出しはさせぬぞ」
「やれやれ、ウェスタ―の好きにするがいい」
魔神官は苦笑いを浮かべると、ギョッと指揮官を睨んだ。それに気づき、
「ザブリーよ、俺は魔神官が気に食わん。一層の事どさくさに紛れて魔神官の胸にこれをぶち込め!」
とウィスターが俺の耳元で囁いてファイアーボールを渡した。すると”ピコピコーン”とバイクロが鳴り、
★★★★★★★★★★★★★★★
魔法、ファイアーボールを覚えた
★★★★★★★★★★★★★★★
と表示された。
「やったー、初めて魔法を習得したぞ!」
それで俺は狂喜乱舞という言葉の意味を生まれて初めて味わった。しかし変化球ではなかったのは少し残念な気がしたのだが。
一方、王国軍は――
魔族軍の総攻撃が開始される直前、王国軍は捨て身の策の準備を着実に進めていた。城内を覆う白い壁や柱、フロアーと至る箇所に時空爆弾を仕掛け終えると、
「王様、準備は抜かりなく整いました」
そう告げるマンスリー大佐の額から滲み出る汗は作業の過酷さを物語っていた。
ギルラーザ王は1万余の軍を3分割した。1軍は徒歩軍の6千、2軍は魔術軍の二千、3軍はヒーラー軍の1千。ヒーラーの数では両軍互角である。しかし、王国軍の兵の中には幼子までが動員されているため、戦闘力では数値以上に魔族軍が有利なのは明白だ。
ギルラーザ王は開戦を前にして小竜族のグローブを側に呼びつけ、
「グローブよ、お前に大事な任務を与える。これより共和国に行き、この書状をシネモラ評議会代表に渡すのだ。そして、そなたは……生き延びろ」
その言葉を聞いたグローブは、
「王様、この戦に負けることなどあってはなりません。生きて、きっと生きてまた再会しましょう」
「ありがとう、グローブよ」
小竜族の末裔の身を案じたウィスターのいきな計らいの命だった。グローブは涙を流しながら小さな羽根をパタパタと羽ばたかせ、草木の生い茂る高台を後にした。それを見届けたギルラーザ王は気を引き締めて、
「皆の者ー、生きるも死ぬも運命は共にある。死は生きるよりも容易い。死は最高の名誉であるぞー!」
ギルラーザ王の声が辺りの木々を貫くと、
「ウォーッ!」
と軍の士気は最高潮に達し、それは死をも恐れぬ不屈の刃となって魔族軍の襲来を待ち受けるのだった。
開戦――
魔族軍が戦闘態勢に入ったのは夜が更けた月の光が暗雲に遮断された時だった。司令官長ウィスターはここぞとばかりに、
「よいかー、暗闇こそ我らの味方。今宵、ガーベージ陛下に勝利の盃を捧げようぞー!」
「ヒヒーッ!」
数万の魔族の奇妙な雄たけびは雷鳴の如く辺りに響き渡った。
ウィスターはいよいよ、
「第1軍進軍開始ー!」
と合図を送った。1万9千余の1軍は”キャヒーッ”と叫びながら王国陣内へと突進を開始した。次に、
「ダークマージとネクロマンサーは魔法弾を打ち続けろー!」
すると暗闇の中に無数の光の玉が浮き上がり、”ビューン”と音を鳴らしながら王国陣内へ飛来した。
”ドドーンッ!! ズドーンッ!!”
空は一瞬にして魔光弾の光で染まり、次々と爆音を轟かせた。
王国軍の唯一の防御の生命線は僅か数十名からなる王護衛魔術団のシールド魔法だった。それは結界網を形成して魔族軍の放つ魔法弾をある程度防ぐことが出来た。そして徒歩軍6千は直進せずにサイド二手に分かれて挟み撃ちを試みた。
魔王軍の猛攻が続き、ついにシールドを張っていた王護衛魔術団の魔力は底をついた。それを想定していたギルラーザ王は、
「撤退だー、全軍撤退しろー!」
その声を耳にした王国軍は後方へと陣を引き、城を丸裸にした。それを目にした魔族軍司令官長ウィスターは、
「敵は撤退しているぞー、城だ。城を占拠せよー!!」
と言って1軍を丸腰となった城へと向けた。
魔族軍の2軍の指揮を務める俺はと言えば、適当にダークヒーラーに向かって数十秒置きに、
「ヒールを唱えよー!」
と言い続けていた。それでも余りにも暇なため、覚えたてのファイアーボールを使いたくなった。俺の取り柄は野心旺盛な所だ。それがなければただの変態人間で終わりだ、とそう自覚している。よし、試しにファイアーボールを使ってみよう、そう決意した。何とターゲットは味方の魔族、ゴブリンだった。
俺は右手の人差し指を立てると、腕を一気に天にかざし、
「ファイアー!」
と唱えた。が……MPがまだゼロだったことに気が付いた。
「なんだよー、がっかりだぜ」
しばらく喪失感に覆われた俺。だがよくよく考えればレベルを上げればMPも上がるはずだ。そう思った俺は味方の魔物にウィスターから貰った武器であるボールを投げてやっつけることにした。俺は、
「ボール!」
そう叫びつつボールを連打した。気が付けば味方の魔物12匹倒をしていた。予想通りバイクロが次々に”ピコピコーン”と鳴り、ステータスボタンを押すと、
★★★★ステータス★★★★★
・レベル 6
・クラス ダークファイター
・HP 36/36
・変化球(MP) 27/27
・速球 152キロ
・EXP 96/160 40G
★★★★★★★★★★★★★★
と表示された。
「凄い、レベル6でしかもMPが27!」
俺はまた狂喜乱舞を味わった。そんな時、視界にあの三大魔神官のスナイデルが入って来たのだ。俺はウィスターが言った言葉、「魔神官の胸に魔法をぶち込んでやれ」という言葉を思い出した。殺ってやるか、そう思い、
「ファイアー!!」
と唱えると、初めて発動した魔法はスナイデルに向かって”ヒューッ”と飛んでいった。次の瞬間、
”ドドーンッ”
という爆裂音。そしてスナイデルはこちらを睨んで「うわーっ!」と倒れた。しかしさすがは魔神だけあって、俺の低レベルの魔法一発では死なない。俺は必死に「ファイアー」と魔法を連発した。しかし9発撃つとMP切れで、スナイデルはまだこちらを睨んでいる。俺は恐怖のあまり今度は物理攻撃であるボールをひたすらに連打した。200発以上は打っただろうか、
「こ、この人間の小僧めー。俺様のい・の・ち・を……」
そう言い残して三大魔神官スナイデルの命は消えた。するとバイクロが暴走して、
”ピコピコピコピコピコ――”
と何度も鳴り続けた。バイクロがイカれたか。そう思いつつ俺はステータスボタンを押してみた。すると、
★★★★ステータス★★★★★
・レベル 16
・クラス ダークファイター
・HP 72/72
・変化球(MP) 57/57
・速球 156キロ
・EXP 1096/1900 880G
★★★★★★★★★★★★★★
そして更に、
★★★★★★★★★★★★★★
アイスボール 習得
サンダーボール 習得
ファイアーⅡ 習得
カーブボール 習得
ボーナスチケット 1枚ゲット
★★★★★★★★★★★★★★
と表示された。何とレベルは一気に16だ。
「よっしゃー、ボス討伐成功だー!」
俺はもうその場で笑い転げることしかできなかった。でも見方を殺してレベル上げなんてな。何とも複雑な気持ちが心の中でふわふわと踊った。
王国城では――
ウィスター率いる魔族軍の1軍は城を制圧すると、一匹(体)のゴーレムが頂上でドクロの旗を振りかざした。すると魔族は、
「ウッキキーッ!」
と喜びを体全身で表わした。しかしウィスターは、
「何かおかしい、こんなに容易く落城できるとは……」
その瞬間を王国軍のギルラーザ王は待っていた。
「今だー、時空爆弾のスイッチを押せ―!」
ギルラーザの叫び声の後でそれは爆発し、この世の裏まで響き渡るかのような凄まじい破裂音が辺りを支配した。そして城の半分以上がガレキと化し、魔族に多大の損害を与え、それと同時に魔族軍は混乱に陥った。ウィスターは、
「し、しまった。罠だったか……」
そして司令官長の安否を心配した部下たちは、
「大丈夫ですか、ウィスター様?」
「我は無事だ。撤退、撤退だー!」
魔族軍は再び南へと去って行き、城外でダークヒーラーの指揮を執っていた俺も、「ヒールを唱えよー!」とダークヒーラーに命じながら撤退を開始した。
かくして7時間に及ぶ第一戦は王国軍の奇跡の大逆転勝利で幕を閉じたのだった。
その後、俺は魔王の命で魔族兵士増強のために体を利用されることになるとは……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます