第19話 見つからない大型船


「皆でよくよく話し合ってから、先ほどの件に決着をつけましょう。

 別に急ぐ話でもありませんからね」


 俺はそういって、食堂から出ようとしたら、みんなの視線を感じたのでもう一言言って食堂を後にした。


「おいおい処遇は決めますが、よく話し合ってください。

 ここはそのままご自由に使っていいですので。

 それと治療室へもご自由に移動してもらっても構いませんが、それ以外は危険もありますのでできましたら立ち入らないでほしいかな。

 私は艦橋います」


 そう言い残して艦橋に向かった。


 艦橋に入りすぐに周りの様子を確認する。

 レーダーを確認してもあの海賊船以外には何もない。

 艦橋横のデッキに出て双眼鏡で付近を探索するが、海上には何もない。

 木片の一つも流れてくるかなと思ったのだが、まだここまでは着ていないようだ。

 そういえばこの辺り海流も無ければ風もこの船の方が風上になっているからあの海賊船からの物は流れてこないか。


 そろそろここから離れるか。

 まだ俺に与えられたという大型船を探すミッションはまだ継続中だ。

 海図室に入りミーシャを見つける直前の海域の座標を調べて、そこに向かう。

 航路をAI操船に切り替えて簡易座標を入力する。

 これだけで、黙っていてもミーシャを見つけた場所まではAIがこの船を操船してくれる。


 そこの場所に戻ったら、最初の方針通りに渦巻き状の航路を再度設定して俺に与えられているという大型の船を探す。

 前の勇者には豪華客船とか言ってたことだし、かなり期待しているが、あの『カミサマ』のことだから、まさかタンカーってことはないよな。

 一番大きな船と言ったけど、タンカーならまさしくあの海域にいれば一番大きい船になる。

 何せ、日本に来訪してくる船のうち一番大きいのは大手石油会社関連のタンカーだ。

 これは自衛省海上防衛隊の持つ空母より大きいはずだ。


 だからもしタンカーが付近似たのなら絶望的だ。

 あの『カミサマ』が、いちいち俺に忖度などするはずがない。

 なにせ、俺が泳げるなんていおうものならば、この何もない海に身一つで落とすことをしてしまいそうな勢いだったので、そんな明らかに無理ゲーを要求することなど絶対に無いとは言い切れないのが不安だ。


 タンカーの中東方面に向かう船なら空船だし、大きな船の割には俺が欲しいと思う物はこの小さな巡視船よりも少ないぞ。

 それだったらコンテナ船の方がはるかにましだ。

 コンテナ船も大型の船に類するから、それにタンカーよりも数が多いはずだ。

 コンテナ船になるのかな。

 確率から考えると、コンテナ船か、タンカー、ちょっと変化球的には自動車運搬船……考えれば考えるほど、今の俺の置かれた状況にははっきり言って要らない物ばかりになりそうだ。

 それならば、勇者に与えたという豪華客船、これを探すしか俺の生き残る術はない……はずもないか。


 この船だけでも十分生きていけそうだし、何よりこの船はこの世界では明らかにチートすぎる。

 それは海賊との件で証明できた。

 ほとんど自衛手段のための40mm機関砲だけで簡単に海賊船を制圧できる。

 いや、乗員の関係で制圧は無理か、でも、沈没させるくらいは簡単だ。

 まだ俺はこの世界の海軍力が分からないが、あの海賊船から考えても主砲を使えば一国の海軍を簡単に撃破もできよう。


 だからと言って、それだけでこの世界の平和をどうとか絶対に言えないし、どうすればいいのかな。


 だんだん心配になってきた。

 せめて客を乗せる船でありますようにと祈ってしまう。

 ……いったい誰に祈ればいいのか?

 少なくとも『カミサマ』にだけは祈りたくはないぞ。

 神様もな~、非常に微妙なんだよな。

 地球にいる神様に至っては、世界が違うこともあるが、賭けに負けたからと言って俺を差し出すかな。

 ていうか、そもそも人の魂を勝手に賭けの対象になんかするなよ。

 ということで祈りはするが、神様たちには祈らないということで。

 ここは素直に親父おふくろ、それにじいちゃんに『助けて』と言って祈ろう。


 船の操船をAIに任せたこともあるので、俺はレーダーを確認したり、海上を双眼鏡で監視しながら艦橋で仕事をしていた。


 食堂でお茶をしてから2時間は経った頃だろうか、姫が騎士たち数人と従者二人を連れて艦橋までやってきた。


「使徒様」


「使徒は勘弁してほしい」


「すみませんでした、大魔導士様」


 大魔導士はそのまま使うのか。


「何でしょうか、姫様」


「皆とよく話し合いましたが、先の大魔導士様の御使命のお助けを私たちにもさせてください」


「私の仲間になると……」


「仲間なんてそんな大それた……ですが、お願いできませんか」


「わかりました、姫様の提案を受け入れましょう」


「でしたら私のことも姫呼ばわりは止めてください。

 フランとお呼びください」


「わかりました、これからよろしくフラン……これでいいですか」


「最後はいりませんが、それでお願いします。

 で、さっそくなのですが、まずは私の護衛隊長をお助け下さいまして感謝いたします。

 本人からもお礼を述べたいと申したので、連れてきました」


「姫……フラン様の護衛隊長をしておりましたケリー・マルガリータと申します……言え、申しておりました。

 姫、いや、フラン様も家名を捨てて大魔導士様の配下になりましたので、私もただのケリーとしてお使いしたいと存じます。

 今後はただケリーとお呼びください」


「わかった、ケリー。

 大魔導士も勘弁な、俺は守だ。

 それでだが、もう動いても大丈夫なのか」


「ええ、まずは私たちをお助け下さいまして感謝いたします。

 また、私のために貴重な薬もお使い下さったとか、ありがとうございます。

 助かりましたこの命、今後は大魔導士様の御使命のためにお使いください」


「だから、大魔導士様は勘弁してほしい。

 守と呼んでくれ」


「はい、守様」


「まずは傷口を塞がるまでは無理は厳禁だ」


「はい、ですが大魔導士……守様のしてくださいました治療のおかげですぐにでも治りそうです」


「そうか、ならよかった。

 なら、体をきれいにしようか。

 女性に言うのは憚れますが、少し臭いますから」



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