第18話 異文化交流
俺が下らないことを考えていたので気が付くのがおくれたが、紅茶を入れてお出ししたものの、姫をはじめ全員が固まっている。
「「砂糖って、そんな高級品を……」」
「でも、これが砂糖なの?」
スティック状の砂糖を目の前にして困っているようだ。
俺は普段はミルクでなく牛乳だけを入れて紅茶飲むのだが、俺が見本を示さないとまずそうだ。
異文化交流なんか今まで習ったことがない。
いろんな個性をどうとかというのはさんざん学生時代から習わされたのだが、俺のいた地球で異文化交流って言ったって事前に情報も与えられるし、ただの地域差程度なので、ここでは通用しないことを思い知らされた。
『カミサマ』には無理なので期待はしないが、あの神様からはいろいろとアドバイスが欲しかったところだ。
ただのイベントがどうとかとしか言われていないが、こんな救助イベントをチュートリアルに持ってくるくらいなのだから、もう少しどうにかならないかな。
俺が心の中で愚痴を言いながらみんなからよく見えるようにスティックの上部を手でちぎりマグカップに砂糖を入れていく。
「「「お~~!」」」
一斉に感嘆の声が漏れる。
なんだかな~、これが異文化交流なのか。
「この中に砂糖が入っているのですね」
「はい、大体それ一本で一杯飲むのにちょうどよい量が入ってあります」
「あ、そうそう、スプーンをお出ししますね。
私はめんどくさがりなもので、普段はこのスティックの残りを使ってかき回すもので、行儀や良いとは言えませんから、皆様はまねをしないでください」
俺はいつものごとくって言ってもあまり砂糖は使わないのだが、それでも使うときには砂糖が入っていたスティックを軽く絞り、それでかき回していたので、ここでも何気にそうしていた。
貴族様相手にさすがに行儀が悪い。
俺は慌ててスプーンを人数分引き出しから取り出して皆に手渡した。
みんなが驚きながらも紅茶を飲みほしたころに姫様が改まって、挨拶をしてきた。
「この場をお借りして、挨拶が遅れましたことお詫びします」
そういってからもう一度ご自身の名を告げ、ここでの経緯を簡単に説明してくれた。
姫様は、先にも名前を聞いた気がするが、彼女の生い立ちまでは聞いていない。
彼女はハートポンド商業連合という国の指導者の御息女だったのだが、アンタレス教国に首都が襲われて海上に逃げ出したところを先の海賊船に襲われて囚われの身となったという。
今、指導者を言ったが、なぜ王様といわなかったのか俺が疑問に思いそのあたりを聞いたら、姫の国には王様がいないらしい。
5人からなる有力貴族が合議で最高指導者を選び、政を取り仕切っていた。
彼女の父親は当時最高指導者ではなかったのだが、5人の有力指導者には変わりがない。
よくわからないが一国に5人の王とか大公とかいる国での大公の娘と理解しておく。
しかも、この有力貴族というのが、そのほとんどが大商人も兼ねているらしく、俺の知る古代ローマ後のベネチアのような感じだと俺は考えている。
国としても国力はかなり強いらしいが、領土という面では小さく、首都の付近では都市国家のようだと教えてくれた。
その代わりに海でつながる各地に植民地を持っており、首都が落とされてもすぐには滅亡とはならないらしい。
それで、襲われた時は、他の指導者の半数が外国に出ていた時の惨事だったらしい。
有力者の半数がいない時を狙いすましたような襲撃だったようだ。
これでは防衛もおぼつかないだろう。
確実に都市を攻め落とすために最適なタイミングを計って攻めてきたようだ。
これは完全に狙われたな。
前に言われていたようにこの時代は本当に剣呑だ。
俺が聞いたいきさつはこんな感じだった。
「でしたら、その植民地のどこかに皆様をお連れすればよろしいのですか」
「いえ、大魔導士様。
確かに国としては植民地がありますからすぐにどうとはならないでしょうが、それも時間の問題かと。最後に奪われることでしょう。
それに私の家は襲われた時点で終わっております」
「……」
「大魔導士様。
お願いです。
私を、私たちを大魔導士様の配下のお加え願いませんか」
「お加え??配下?
ああ、この船に残って私の部下になりたいと」
「部下なんて大それたことは望みません。
奴隷でも結構ですので、ここに置いてください」
かなり必死で頼んでくるが、俺のそばにいても大丈夫かな。
確かに俺一人では手が足りていないこともあり、手伝ってくれるというのならば俺は助かる。
しかし、あの『カミサマ』が俺に平和がどうとか言っていたことだし、今後も勝手にミッションを命じてきそうだしな、その中にはというかたぶん多くが荒事になりそうなのだが。
俺は少し考えてから、自分のことを話していないことを思い出し、自己紹介を始めた。
「あ、先に私のことを話していませんでしたね。
挨拶を受けたのに大変失礼して申し訳ありません。
私のことをお話ししますから、それから考えても遅くはありません。
どうもこの先いろいろ厄介ごとが出てきそうなので、それでもかまわないというのならば私は喜んで皆様をお引き受けします」
俺は最初にこう断ってから、日本での仕事のことを簡単に話して、その後厄介な『カミサマ』について説明したのち、最後に出てきた神様についても説明しておいた。
「「「お~~~」」」
一斉にみんなからかなり大声の簡単の言葉が漏れた。
「大魔導士様は使徒様であらせられましたか」
「は?
使徒様?」
「神より遣わされた現人神のような……」
現人神って戦前の天皇陛下のことかなって、この場合はメシアとか救世主とかいう存在のことだろうが、さすがに違うだろう。
「いやいや、そんな大それたものではありませんよ。
預言者でもありませんからこの先何が起こるかなんか知りませんからね」
「では、どういう……」
「しいて言うならば神にもてあそばれている存在が妥当かな。
なにせ賭けの景品のようなものですからね」
「賭け?なんです」
「まあ、そのことはいいですから、今までのように話してください。
決して神ではないので、扱いは普通に頼みますよ」
あんな『カミサマ』と同列に御扱って欲しくはない。
後から出てきた神様にはシンパシーを感じはするが、やはり同列にしてほしくもない。
なんかブラック一直線って感じになりそうで怖い。
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