第20話 乗船の儀


「そうですね、今までは気にもしませんでしたが、自分がきれいになると気になりますね。

 ケリー、あなたはこれから乗船の儀をしないといけませんね。

 大魔導士……すみません、守様。

 ケリーにも『乗船の儀』をお願いできませんか」


「乗船の儀?

 なんですか、それは」


「はい、あのシャワー室でしたっけ。

 あそこで守様に全身をさらけ出してみそぎをすることです。

 全身を守様にきれいにしてもらい守様に乗船をお許しいただくための儀式です」


 儀式ね~、そんな大げさなことじゃなかったんだけど。

 確かにやましい気持ちが無かったとは言わないよ、俺も健全な男だから。

 でもやましい気持ちだけではなく、女性にはきれいでいてもらいたいという純粋な気持ちと、とにかく病気が怖かったので、清潔にしたかったという方が大きい。

 というか、単純にとにかくあの匂いをどうにかしたかっただけなのだが、何だか大げさになっているような気がする。


「はい、私も聞きました。

 皆きれいになったので驚きましたが、守様。

 私にもその『乗船の儀』をしてください」


「私としては構いませんが、あの~裸を見られるのですよ。

 そこのミーシャにでも頼めば……あ、シャワー室を使うのには私の許可はいりませんよ」


「いえ、私にも皆のように、お願いします」


「私としても、ケリーさんのような魅力的な女性の裸を見られるのだから否と言うつもりもありませんが、いいのかな」


「お願いします」


「守様。私を、みずからの命を懸けて私を守ったケリーにもあの気持ちを感じてもらいたくて、お願いします」


「わかりました。

 あ、それではミーシャ。

 さっそく仕事を頼めるか」


「え、私にですか」


「ああ、昨日も頼んだように海上を監視てほしい。

 何か見つけたらすぐに知らせてくれ」


「わかりました、守様」


「守様。

 私もお仕事をさせてください」


「なら、後で、きちんとみんなの仕事の役割を考えますが、今はミーシャと一緒に周りを監視しておいてください。

 その間にケリーにシャワーを浴びさせてきますから」


 艦橋での話がまとまったこともあり、俺は護衛隊長のケリーを連れ本日何度目かのシャワー室に向かう。

 ケリーの上半身はバスタオルを羽織っただけの半裸状態だったので、更衣室で全裸になるのもすぐだった。

 一緒にシャワー室に入り、そこからは完全にルーチンと化してしまった説明しながらのシャワーの実践だ。

 慣れたもので、15分もすれば体も髪も洗い終わる。

 本当ならあと5分は短縮できたのだが、さすがに傷口が開くとまずいので患部周辺は特に丁寧に洗っていたので余計に5分余計に時間がかかった。

 髪の毛も乾かして……あ、代わりの服を用意してなかった。

 砲雷長の制服でいいかな。

 下士官待遇だったことだし、ケリーも家名もあったようだしそれなりのステータスを持っていそうなので、少し差をつけておく方がいいと判断したのだ。

 誰もいないことをいいことにバスタオル一枚の姿で船内を連れて歩く。

 しかもケリーの御年は25歳だそうで、俺とそう変わらない、いや、シャワーで火照った体を見たら妖艶な女性といってもいいくらいだ。

 それがバスタオル一枚だけって。うん、これは危ない。

 急ぎ砲雷長の個室に向かう。

 良かった、砲雷長はやたら凝った下着は持っていない。

 ここでやたらとセクシーな下着姿を見たら俺は襲っていたかもしれない。

 アメリカ海兵隊御用達のトランクスのようなショーツにフリーサイズの面白みのないブラ。それを渡して着替えてもらう。


 後はズボンタイプの女性用の制服に……裸足??

 あ、今まで服だけ気をまわしていたけど、靴までは気が付かなかったな。

 他のみんなはどうなっているかな。

 少なくとも俺は靴までは貸し出していない。

 一度集めて確認と、それに足にサイズを調べて靴の貸し出しもしないとまずいか。


 皆を集めるとすると時間が気になり、近くの時計を確認すると、昼を過ぎ午後1時少し前だ。

 そういえばそろそろ腹も減ったし、遅番の昼食ならばおかしな時間でもないし、彼女たちに食事を出してからも数時間たっているので、もう一度皆を食堂に集めて昼食でも取るか。

 今から準備といってもな、トーストと飲み物だけならすぐに用意できるし、今度はみんな食事をとりながら今後についても相談しよう。


 着替えたケリーを連れて姫改めフランがいる艦橋に戻る。


「ケリー、見違えたわ。

 とてもきれいよ」


「ありがとうございます、姫様……あ、フラン様」


「そう、間違えないでね、ケリー」


 フランと、ケリーが嬉しそうに話している。

 俺はその話が負就くまで待って、フランに昼食の提案をした。


「え?

 昼にも食事をとるのですか。

 領都にいた時には確かに軽食程度はとりましたが、それでも……」


「守様。

 庶民は、日に二食も食べれば恵まれていると言われております。

 私たちは今となれば流浪の身、そこまでご配慮いただかなくと……」


「私が今までいたところでは、日に三食が当たり前でした。

 もっともケリーの言うような生活をする人も大勢たことは理解しているが、私が所属した国では一日三食が一般的でした。

 なので、この船の中は私の国の習慣に合わせます。

 なので、また、全員を食堂に集めてください。

 食事をとりながら、仕事の割り振りなど話し合いたいと考えております」


「わかりました」


 そういうと、ミーシャが俺に聞いてきた。


「あの~、守様から命じられています監視は……」


「ああ、とりあえず今は止めようか。

 船も一旦停船させるから。

 レーダーって言ってもわからないか、この画面上に影が無ければ少なくとも1時間以上は誰もここには来られないから安心してくれ」


「わかりました、みんなを食堂に集めます」


 ミーシャが皆を集めに艦橋から出ていくと、フランが俺に声をかけてきた。


「守様。

 あの~」


 顔を赤らめて何か言いたそうにしている。


「お花を摘みに行きたいのですが、どうすれば」


 え、海上で花なんか無いぞ。

 海ブドウというのはあるが、湯の花のように海の花ってあるのかな。

 すると、もう一人の従者が俺に近づき話かけてきた。


「守様。

 姫……フラン様は用を足したいと申しております」


 用を足す……あ、トイレのことか。

 そういえば食事をしてから2時間以上は経過しているし、そうだな。


「申し訳なかった。

 トイレはこっちだ」


 俺はフランを連れて艦橋を出たわきにあるトイレに連れていく。


「使い方ってわかるかな」


「すみません……」


 フランをそう言うとさらに顔を赤らめた。


「だよな。

 履いているものを脱いで、この椅子に座る。

 こういう感じで」 と言って俺は実際にトイレに座った。


「それでそのまま用を足せばいい。

 で、終わったら、このボタンをこのようのしてくれ」


 俺はそう言って実際にボタンを押した。

『ジャ~』

 やや大きめ直人がしたので、周りが驚いた様子だ。


「今ので、この中に出したものはきれいに流される。

 あ、用を足した後は流す前にこの紙を使って拭いてきれいにすることを忘れずにね。

 そうしないと汚れた所から病気にならないとも限らないから」


 流石に俺が見ている前で用を足せとは言えないので、一旦俺はトイレから出ていく。


「あの~、守様」


「ああ、すぐ傍に居るよ。

 用があったらというよりも何か困ったことがあれば呼んでくれ」


 トイレから出ると傍に居たケリーについでにケリーにも簡単にトイレの使い方を口頭で教えておいた。


「お花摘みって言ったか、トイレに行きたくなったらこのトイレを使ってほしい。

 トイレはこの場所以外にもいろんな場所にある。

 このマークがあるところがトイレだ。

 どこも同じ作りだから使い方は一緒だ。

 ケリーの仲間にも教えておいてほしい」


「わかりました」


 説明が終わるころにフランは従者と一緒に出てきた。

 一緒??え、トイレに一緒にいたんだ。

 良くわからない関係だな。



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