第18話

 翌日、僕は葵と会うことにした。零にかけられた呪いについて、彼女にきちんと伝えるためだ。


 集合場所は僕の家。ここは、かつての日常を象徴していた、人間の世界の一部だ。


 インターホンが鳴り、僕は葵を出迎えた。その瞬間、世界が急に色を取り戻したような感覚があった。


 僕の中で、消えかけていたはずの恋愛感情が再び湧き上がる。葵の笑顔、彼女の仕草、そのすべてがかつてのように僕の心を揺さぶる。

 彼女が目の前にいることが、どれほどの喜びだったのか、今となってはぼんやりと思い出すだけだ。それでも、呪いの影響でその感情が次第に薄れていくのを感じている。僕はただ、その感覚を受け入れるしかなかった。


「来てくれてありがとう。」

 僕はぎこちなく微笑み、葵を部屋に招き入れた。彼女は何かを感じ取ったのか、少し心配そうに僕を見つめている。


「ろん...本当に大丈夫?」

 彼女の優しい声が胸に響く。しかし、その響きですら、すぐに遠ざかるように感じた。


「実は...話さないといけないことがあるんだ。」

 僕は覚悟を決めて、零の呪いについて打ち明ける。心のどこかでは、彼女にこの苦しみを伝えることが自分を救う道だと思っていた。


「零にかけられた呪いで、僕はもう...誰かを愛することができない。どんなに気持ちが湧いても、時間が経つと、それは消えてしまうんだ。何度も、何度も...。」


 僕は言葉を続ける。胸が締めつけられるような痛みを感じながら、それでも声を絞り出した。


「だから...僕はこれから人間の世界で生きていく。神々のことからは手を引く。そして...他の神たちに、このことを伝えてくれないか?」


 葵はその言葉に驚き、しばらくの間、言葉を失っていた。彼女の瞳が大きくなり、心配そうな表情を浮かべた。


「...ろん、最後に1つ質問していい?」


「なんだ?」


「あなたって一体何者だったの?能力は神しか使えないはずなのにどうして神でないあなたが能力を使えるの?」


「僕は本当に人間だ。でも気づいたら能力を使えるようになってたんだ。三つの能力をな。」


「たしか時間を戻す能力があるのよね?なら、あの時に戻せば...」


「刺される前に二回も時間を巻き戻したが傷は治らなかったんだ。普通の傷なら治るんだがあいつの剣はやっぱり普通のじゃなかったんだな。」


「そっか...わかった。今までありがとね。ろん。」

 彼女はさみしげにそう言うと僕の家から出て行った。


 僕は一人、小さな部屋の中で号泣していた。そして熱い水玉は止まることを知らなかった。

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