第17話
しかし、零が再び波動を放とうと手を前に突き出してもそこからは何も出なかった。
驚愕が彼の顔に浮かび動揺の色が見えたその瞬間、僕はすでに彼の背後に回り込んでいた。まるでそれが起こるのが分かっていたかのように。
零が気づく間もなく、僕は至近距離から全力で波動を放った。
轟音と共に零の身体は激しく吹き飛び、衝撃波が周囲に広がった。零は建物を貫通して奥の広い庭のようなところまで吹き飛ばされていた。
必死に身を起こし、逃げ出そうとする零。しかし、壱たちはその一瞬の隙を見逃さず、彼の行く手を阻むように立ちふさがり、零の動きを完全に封じた。
「なんで...??」
零の声には恐怖が滲んでいた。目には必死さと焦りが混ざり合い、冷静さを失っていた。
「どうして俺は攻撃ができなかったんだ...?!」
「それは僕が能力を無効化させる能力を持っているからさ。」
「な?!でもお前は波動も使える...二つの能力を同時に使えるのか?!」
「いや、実はお前の最初の不意打ちをよけるために時間を巻き戻していたんだ。その能力も持っているんだよ。つまり合わせて三つだな。」
「三つも...?! 私でさえ二つだったというのに...」
「おい、お前ら。こいつを倒せ!」
「嫌よ、零。」壱の声が響く。
彼らの表情は冷酷で、同情の余地などみじんもなかった。それは零の支配がいかに過酷かを物語っていた。
零は体勢を崩しながら、銀色の目を細めて僕たちを見上げる。彼の冷酷な笑みが消え、絶望が彼の表情に広がっていた。
「じゃあな、零。」
僕は全力を込めて最後の一撃を放った。
その瞬間、周囲の空気が弾けるように変化した。
零は動けなくなり、かつての支配者としての威厳は消え失せていた。目は焦点を失い、もう立ち上がる力も残っていないことが明白だった。黒いエネルギーは霧散し、冷たく輝いていた銀色の目も今はただの虚ろな目だ。
「これが、俺の終わりか…」
風に吹かれて消え去る煙のように、彼は静かにその場から消えていった。
周囲からは静寂が消え、長かった戦いがようやく終わったことを実感する。僕たちはよろこび、零の消えた跡を見つめながら、その瞬間を噛み締めていた。しかし、その時、突然、激しい痛みが背中を貫いた。
「ぐっ...」
その瞬間、腹に鋭い痛みが走った。あの時、零の奇襲で受けた時の攻撃の傷だ。能力を使って対処したはずだが、それはまだ残っていた。見てみると、傷跡の部分は紫色になっていた。
広がった紫色の痕は、冷たい感覚とともにじわじわと僕の体を侵食していくかのようだった。胸を締めつけるような痛みが押し寄せ、まるで僕を縛り付けているかのように感じた。
僕は苦しみに耐えながら、必死に腹を見つめた。紫色はより濃くなり、痛みが体全体に広がっていく。しかし、その時、不思議なことが起きた。紫色が徐々に薄れ、痛みがゆっくりと和らぎ始めたのだ。
「何...?」
僕は呆然としながら手を見つめる。紫色の痕がまるで霧のように消え、何事もなかったかのように元の肌色に戻っていく。
「どういうことだ…?」
葵も驚いて僕の腹を覗き込む。彼女は心配そうに僕を見つめながら言った。「大丈夫、ろん?」
僕はしばらく黙って手を見つめていたが、確かに外見は元に戻っていた。痛みも消え、普通に動かせる。しかし、胸の中では零が残した言葉が引っかかっていた。
「そして一生栗しみ続けることになるだろう...」
あの時、零がどうしてそんなことを言ったのか、僕には分からなかった。だが今、この静寂の中で、彼の言葉が頭の中で鳴り響いていた。紫色の痕が消えたにもかかわらず、心の中に冷たい違和感が残っている。
「…本当に、大丈夫?」
葵がもう一度声をかけてきたが、僕はただ小さく頷くだけだった。何かがおかしい。しかし、それが何なのかまだ掴みきれない。
一生苦しみ続ける...何を...?
僕は自問自答しながら、自分の心の中を探る。そして、その答えに気づくのは、そう遠くなかった。
心の奥底にある、あの温かさ──葵に対して抱いていた感情が、まるで何もなかったかのように消え去っていた。肆に関しても同じだった。
「まさか…」
胸の中に広がる冷たい虚無感。それが何を意味しているのか、僕はようやく理解した。零の呪いは、物理的な傷跡だけを残すものではなかった。彼は、僕から「恋愛感情」を奪ったのだ。
「葵...」
彼女の顔を見ても、今まで感じていた温かさが何も感じられない。何か大切なものが、僕の中から完全に抜け落ちてしまったようだ。
僕たちはその場で解散した。他の神たちが勝利の余韻に浸り、祝杯の声をあげる中、僕だけは一人、現実に絶望していた。
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