第3話
しばらくして、僕はペンを置き、目を閉じて集中する。先生が「寝るな、ろん」と言ってくるが、そんなのは気にせずに集中する。感じ取れる...目には見えないなにかが、誰かがこちらに向かって来ているのがわかる。
その瞬間、僕は机の下でこっそりと人差し指を動かした。
すると、予想通り、窓の方からありえない速度で誰かがこちらに向かって突っ込んできたが、その者はまるで壁に激突したかのように僕の目の前でピタリと動きを止めた。しかし、一瞬でバランスを取り戻し、音もなく着地する。目の前には、端正な顔立ちの女性がいた。
「誰だ、あんた…?」
目の前の者からは、この前の者とは比べものにならないほどの圧倒的な強者の雰囲気が漂っていた。スーツ姿で、青い瞳に肩まで伸びた黒髪のその人物が、そこに立っていた。
「私の名前は参よ。あなたの隣にいる子を上からの命令で捕まえに来たのよ。」
その言葉に、僕は一瞬思考が止まった。
葵を捕まえに...??
しかし、葵は動揺せずにただ参という者を見つめていた。それが恐怖からのものなのか、余裕からのものなのか、僕にはわからなかった。
「なんで葵なんだ?」
「知らないわ。命令は命令。私の役目は彼女を捕らえて上に連れていくことだけ。それ以上のことは関係ないの。」
その冷淡な言い方に、僕は憤りを感じた。葵を連れて行かせるわけにはいかない。この者が何者であるかはまだわからないが、好き勝手させるわけにはいかない。
「...もしかして、お前は伍とかいうやつの仲間か?」
今はとにかく相手の情報を集めなければいけない。もし昨日会った伍という者の仲間なら勝つのはなかなか難しいかもしれない。
「まあそんな感じかしらね。でも伍の存在をどこで知ったのかしら。限られた人しか知らないはずなんだけど。」
「ああ、昨日の夜に伍というやつと会ったんだ。あいつは自分を神とか言っていたが…お前たちはどこかの宗教団体か?勘弁してほしいのだが。」
「まあ、疑うのも無理はないわね。でもさっきのを見てもそう思えるのかしら。」
参は挑発気味にそう言った。
「...」
「さあ、さっさとそこの子を引き渡してくれるかしら。無駄な争いは避けたいんだけど。」
「断る。葵は僕の友達だからな。」
「じゃあ戦うしかなさそうね。」
その瞬間、参の姿が目の前から消えた。
直感で動きを感じ取り、右からの攻撃を避ける。そして今度は左からの攻撃が来たが、それもかろうじてかわした。
その後も激しい攻防が続いた。攻撃を防ぎながら、バレないように後ろを確認すると、先生が生徒を外に避難させていた。
僕はある方法に気づいた。時間を稼げば、生徒全員が避難できるだろう。そうすれば...
一瞬、勝機を感じたが、それも束の間、参が突然攻撃を止め、話し始めた。
「やっぱりあなた、ただの人間じゃなさそうね。この攻撃だって人間が避けられるものじゃないもの。ましてや最初の攻撃を防いだのも人間技じゃないわ。」
「僕は人間じゃないとでも?」
「そうかもしれないわね…でも。」
参は僕をじっと見つめながら、にやりと笑みを浮かべた。
「ここからは私も本気で行かせてもらうわよ。さっきまでの攻撃でも避けるので精一杯だったのに、大丈夫なのかしら。」
その言葉と同時に、参の気配が一変する。今までとはまるで違う圧倒的な殺気が放たれ、教室の空気が重く感じられた。
僕はその瞬間、参の能力が何であるかをなんとなく察した。
体が重くなっていく。まるで重力が増しているかのようだ。動こうとしても、見えない手で床に押し付けられているように自由が利かない。そして、その力はどんどん強くなり、膝が痛み始めた。
「これは...重力か。」
「チェックメイトね。ついでに教えてあげるわ。神たちは1人1つの能力を持っているの。私の場合は、重力を操る能力よ。もしまた神と戦う機会があれば、覚えておくといいわね。」
ここで僕は意を決して、心の奥底にある何かを呼び起こした。僕を中心に、空気がわずかに揺らめく。しかし、参はそれに気がついてない。
周りを見渡すと、教室にはほとんど生徒がいなくなっているようだった。しかし、よく見ると、なぜかドアの近くにただ一人、葵が立っていた。それを見た僕は、力を抜いた。
「これで終わりにしてあげるわ。」
参が手を振り上げ、さらに重力を強める。視界がぼやけ始め、呼吸もままならない。
「葵...逃げ切れ...よ...」
僕は力を振り絞って声を出した。
「残念ね、ここで終わりよ...。」
その瞬間、僕の視界は完全に暗転し、意識が遠のいていく。力が抜けていく中で、最後に見たのは、彼女が腕を組んで僕を見下ろしている姿だった。あれ...この姿...どこかで見たような...。
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