教師近藤とダンス

 近藤は、学生時代にも他人に利用されたことがありました。同じ大学に通う若狭淳宏がある日、彼にこう言いました。

「お前さ、そのまま垢抜けないで歳をとったら、いろいろ苦労や損する可能性が高いから、俺が華やかな場所に連れていってやるよ」

 近藤は振る舞いはハチャメチャですが、見た目同様に生活は地味でした。

「いいよ、別に」

 あまり乗り気ではない彼を、なかば無理やり淳宏はディスコに引っ張っていったのですけれども、それは言葉通りに近藤を思ってよりも、冴えない外見の近藤と一緒ならば自分は良い男に見えて、モテるのではとの魂胆の比重が大きかったのでした。

 その狙いが功を奏したのかは定かでありませんが、淳宏は声をかけた女性と楽しく話したり踊ったりできました。

 一方、近藤は独りおとなしく座っているだけです。女性と会話が弾んでも、近藤が視野に入ると冷めた空気になってしまい、淳宏はほとんど己の都合で連れてきておきながら、近藤が邪魔になりました。

 少々イライラしつつも、自分の身勝手さに自覚がある淳宏はそれを抑えて、近藤に言いました。

「せっかくディスコに来たんだから、お前も踊ってこいよ」

「あ、うん」

 やる気があるようには見えないものの断らず、近藤は腰を上げて淳宏たちのそばから離れていきました。

 そしてダンスをし始めたのですが、やっぱりと言いたくなるような、ディスコという場にそぐわず踊った経験もほぼ皆無と思われる近藤がいかにもやりそうな、腕と脚を不器用に動かすめちゃくちゃな振りでした。

 淳宏は女性とそれを見て笑い、おしゃべりに戻りました。これで余計な奴がいなくなってよかったねという雰囲気です。

 ところが、しばらくすると二人はともに、また近藤に目をやりました。ちょっとして会話を再開しますけれども、数分後にまたまた近藤に視線を向けます。それを何回もくり返しました。

 その訳はというと、下手なだけのはずなのに、どうにも近藤の踊りを見たくて仕方なくなってしまうからなのです。それは、においを嗅いだら臭くて、嫌だから遠ざけたのに、なぜかまた嗅ぎたくなってしまう現象と似ていました。

 そうして、近藤のダンスはその界隈で評判になりました。


 淳宏は大学に走ってやってきました。

 近藤を見つけると、彼は叫びました。

「頼む、近藤、また一緒にディスコに行ってくれ! お前が来るなら遊んでくれるって女のコが山ほどいるんだ!」

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