教師近藤を心配

 近藤は、見たところ健康で、体に問題はなさそうです。

 しかしあるときから、下半身のほうを気にして、屈伸をよくするようになりました。

「あら、また……」

 五十代の女性教師の赤羽育子は、自らもあちこち体に不具合が出る歳になってきたこともあって、近藤のその様子が気になるのでした。

 そして放課後に廊下でまた屈伸しているのを目にすると、同じくそれを見ていた男子生徒たちが次のようにしゃべりました。

「近藤先生、また屈伸してるよ」

「ひざが痛いのかな?」

「っぽいよな」

「そんな、生徒の前でも我慢できないほど悪いの?」と、育子は心配が大きくなり、職員室で近藤に声をかけました。

「先生、ひざが痛いんですか? 良い整形外科の病院を知っているので、よかったら紹介しますけど」

「ああ、いえ」

 近藤は照れたような表情になりました。

「最近買った、このスラックスが、見てくださいよ」

 そう言うと席を立ち、屈伸し、脚を激しく上下したりしました。

「伸びる素材なのですけれども、それがすごくて。ほら、こんなにしゃがんだり脚を動かしても破れそうな感じがまったくないんですよ。もう、感動して、気持ちよくって。たはーっ」

「……」

「日本は平和だな」と育子は思ったのでした。

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