教師近藤が犯人?

 近藤の勤めている中学校には、教職員のみが使用する場所に、お菓子が保管してあります。

 それは来客があったときなどのために一応置いているというもので、ほとんど使われません。しかし、そのままだと古くなって廃棄になってしまって良くないので、教職員が特に理由も申告もなしに食べてもよいことになっています。それでも、教職員が口にすることはめったにありません。

「あれ?」

 三十代の女性教師である富永恵令奈はあるとき、そのお菓子が減っていることに気づきました。

 くり返しになりますが、普段そのお菓子に教職員は誰も手をつけません。最近、来客などに使用されてはいないはずだし、誰かが食べている姿を彼女が目にすることもなかったので、小首を傾げました。

 けれども食べて問題はないのでたいして気にせず、そのときはそれで終わりました。

 ところが、その後もたびたび何者かが口にしているようで、見ると量が少なくなっています。

 念のためのものとはいえ、いつ必要となるかもしれません。食べるなら堂々と食べてほしいですが、職員会議といった場で「隠れてお菓子を食べないで」と話すのは恥をさらすことになるので避けたいため、どうにか口にしている人間を突きとめて、その本人にこっそり言おうと思いました。

 では、お菓子を食べる犯人は誰なのでしょうか? 恵令奈はあの人だろうと頭に浮かぶ人物がいました。

 そう、近藤です。

 まず彼は甘いものが好きです。加えて、こんなしょーもない感じのことをする教職員は他には思い当たりませんでした。

 しかし一方で、あの人がお菓子を食べる程度のことでコソコソするかなというのもあって、確信は持ちきれませんでした。そこで、仕事があるのでずっとは無理ですが、できる限り彼の行動を注意深く見ることにしました。

 するとある日の放課後に、近藤が例のお菓子を手に廊下を歩いている姿を目撃したのです。

「やっぱりか」

 恵令奈はそうつぶやくと、一言言うために後を追いました。

 近藤は裏庭のほうへ進んでいきました。そんな場所に行くなんて、やはり食べるところを誰にも見られたくないからという印象です。いつももっと恥ずかしいことを堂々とやるくせに、なぜそこまでお菓子を口にするのを隠すのか、謎は深まるばかりななか、彼は足を止めました。

「ん?」

 恵令奈が軽く驚いて、そう声を漏らしたのは、近藤のもとに猫が歩み寄ってきたからでした。

「隠れて食べてたわけじゃなくて、野良猫にあげるために。そういうことだったのか」と彼女は合点がいきました。

 動物に優しくするなんて近藤のイメージにはなく微笑ましく思いましたけれども、すぐに、「でも、野良猫にエサをあげるのって、善くないんじゃなかったっけ?」と考え直しました。

 そこらへんの知識が不十分な恵令奈は、近藤の行いを見過ごしていいものかどうか迷いました。

 その間に彼は猫をなで、続けてお菓子を袋から取りだしました。

 すると次の瞬間、近藤はお菓子を猫にあげずに自らの口の中に入れたのです。

「結局、自分が食うんかい!」

 聞いた人は誰もいませんが、恵令奈はそれはそれはとても上手にツッコんだのでした。

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