教師近藤がスネる

 近藤は、ずいぶん前に、写真にハマったことがありました。

 持ち運びに便利なのでコンパクトなものにしましたけれども、けっこう値の張るカメラを購入したのです。綺麗だったり興味深かったりした風景などを撮るために、散歩によく行きました。

「そうだ!」

 彼は学校の遠足にそのカメラを持っていくことを思いつきました。

 そして当日、もちろん教師としてやるべきことを優先しつつも、生徒や景色をたくさん撮影しました。

「うひゃひゃひゃ! うひゃひゃひゃ!」

 近藤は興奮して浮かれ具合がハンパではなくなり、普段彼のハチャメチャな行動に慣れている教え子たちでも引いてしまうくらいでしたが、怒りや悲しみといったマイナスではなくプラスの感情だったので、生徒たちも明るい気持ちになって、悪くない遠足となったのでした。

 ところが、それから一週間ばかり後、近藤は不機嫌、より的確に表現するならば、スネた態度になったのです。

「先生、何かあったのか?」

「なあ」

「最近すげえご機嫌だったのに」

 こうした会話がクラス内の至るところでなされました。

 そんななかで、まもなく授業ゆえ本人の席に座っている女子生徒の雨宮詩織があることに気づいて、つぶやきました。

「もしかして、あれでかな?」

「え? 何が?」

 そばの席にいる友人の、別の女子生徒が訊きました。

「先生がスネてたの。あの三枚だけ、欲しい人がゼロじゃん」

 近藤は遠足で撮影した写真を希望する生徒にあげることにし、教室の壁に貼りだしていて、詩織はそれを指さしました。そこには、どれが何枚必要か知るために、欲しい人は目当ての写真の下にチェックを記すようにしてあるのですけれども、撮るのを誰かに頼んだのでしょう、近藤が一人で写っている写真が三枚あって、それらのみチェックがゼロだったのです。ただ、近藤の他に生徒がいる写真はすべて希望者がおり、近藤が写っていたら駄目と毛嫌いされていたわけではありません。なので、「普通こうなるでしょ」と、彼女たちは本人一人のものだけ誰にも欲しがられないためスネたのに間違いなさそうな近藤に呆れました。

 放課後になり、おそらくそれが原因だろうと他の生徒たちに話そうとして、二人は再び写真に目を向けました。

「あれ?」

 いつのまにか、近藤のみ写っている三枚の写真のいずれにも、一つチェックが入っていたのです。

「まさか……」

 詩織と友達の女子は視線を合わせました。

 そうです。彼女たちがにらんだ通り、それは近藤自身がやったのでした。

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