第14話:初キス。

真白とゼゼットは回転寿司の店に来ていた。

昼間は夜と違って混んでいて待たされる、ということはなかった。


ふたりは、すぐにボックス席に座った。


「ほら寿司が皿に乗って回ってるだろ・・・、どれでも食べたい寿司取って、

食べればいいから・・・ 」


「取ったら、この醤油かけて食べる・・・分かった?」


真白は回ってきたマグロの皿を取って醤油をかけてシュシュの見てる前で

食べて見せた。


でも、ひとつ問題・・・ゼゼットは箸の持ち方が分からない。


「ああ、箸の持ち方から講習か?・・・」

「それはまた家で教えてやるから」

「寿司だし・・・箸は使わなくていいよ、素手で食ったほうが早いから」


そう言うと真白は手で寿司を持って、また寿司を食べて見せた。


「今みたいにして食べればいいから」

「それとワサビは嫌いだったらつけなくてもいいからね」


「ワサビ?」


「ちょっと舐めてみ?」


ゼゼットは言われるままにワサビを舐めた。


「おえっ・・・辛」


ゼゼットは嫌なものをクチにしたもんだから、ワサビを舐めた舌を手で

吹いて眉にシワを寄せた。


「辛いけど、適度に寿司につけて食べると美味いんだ」


「さ、食べよう」


ゼゼットは恐る恐る寿司が乗った皿を取って醤油をかけて食べてみた。


「美味しい・・・めちゃ美味しい、マー君・・・」


「美味いか?・・」


「美味しいね、お寿し・・・」


「そうか・・・よかった」


ゼゼットは、うんうんうなずきながら、すぐに次の寿司皿を取った。


「このタブレットのタッチパネルで好きな寿司も選べるからな」

「分かんないだろうけど・・・」


結局、真白は寿司を20皿食って、ゼゼットは15皿食って、おまけでに仲良く

デザートのシャーベットまで食った。


ゼゼットは寿司なんか食べたことがなかったので、めちゃ喜んだ。


「私もうずっとここで暮らそうかな・・・」

「地上って楽しいこと、いっぱいありそうだし・・・」


「こういうのは、たまに食うからいいんだよ」


「今日は、寿司食ったから、次は焼肉だな」


「やきにく?」

「やきにくって?」


「焼肉は焼肉・・・」


「分かんないんだけど・・・」


「そのうち食いに連れてってやるから・・・食えば分かるよ」


「さてと行くか・・・」


真白は勘定を済ませ、ゼゼットと店を出た。

人通りも少なくなった歩道を歩きながらゼゼットは真白と手をつないだ。


「迷子になったらダメだから・・・」


「だな」


「イルミネーション見に行くには時間的にまだ早いな・・・」

「それまで、カラオケって手もあるけど・・・行ってもゼゼットには

分かんないだろうしな・・・」


「私はマー君といられたら、どこだっていい・・・」


「おお〜そんな可愛げのあること言うんだ」


「私をバカにしてる?」


「違う違う・・・そんなこと言われるとさ・・・」

「なんつうの・・・胸がキュンってなって抱きしめたくなちゃうじゃん」


「こんな人がいるところで抱きしめられたら、おしっこチビっちゃう」


「面白いなゼゼット・・・」


「笑わないでよ」


「俺、ゼゼットを絶対帰ないからな・・・天界になんて・・・」


「マー君・・・」


真白はゼゼットを引き寄せて、本当に抱きしめた。


「切ないよ・・・ゼゼット・・・俺、君のことどんどん好きになってく・・・

この、あふれそうな気持ち止められそうにないよ・・・君が恋しくて

泣けてきそうなんだ」


「マー君・・・マー君の気持ち今のはちょっと重たいかも?」


「あ、ごめん・・・つい感情が高ぶって思ってること吐き出しちゃった」


「謝らなくていいよ・・・」

「ちょっと重いけど、私嬉しい・・・そこまで想ってくれてるんだって思って」

「嬉しくて泣けそうなのは、私の方だよ・・・」


「ゼゼット・・・」


真白はたまらずゼゼットに顔を近ずけて彼女の唇を奪った。

夕暮れ前の歩道に、ふたりの長い影が重なった。


キスの後、ゼゼットは、うつむいたままなにも言わなかった。

でも、きっと嬉しくて泣いていたんだろう。

笑うことはできなくても涙を流すと言う感情は忘れてはいなかった。


真白はそっとゼゼットの頭を撫でて、もう一度抱きしめた。


「ほんっとにもう、キスなんかされたらおしっこチビりそうになっちゃっ

たよ・・・」


つづく。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る