第8話 物資の到着
「加藤さん、ご注文の300卓の宴会分の食事が用意できました。今お受け取りいただけますか?」
「ありがとうございます。こちらに運んでください」
加藤は家に帰り、料理を届くのを待つ。この宴席300卓分の食事があれば、二、三年は食べていけるだろう。
手元にはまだ2億円ほど残っていた。そのため、金を使うことには全く抵抗がないどころか、早く使い切ってしまいたいくらいだった。
帰り道で吾郎は考えを巡らせ、まだ注文していない好みの料理がないかと。そこで彼は東京の有名レストランにも注文を入れ、それぞれ100卓ずつ届けてもらうよう頼んだ。和洋中、様々な料理を合わせて数千卓も注文した。
ほどなくして、オワリオルホテルのデリバリーカーが家の前に到着した。デリバリー車が20台、30台と連なり、道を完全に封鎖してしまったため、近隣住民はその光景にただただ驚くばかりだった。
付近にいた警察官の武田も慌てて前に出てきて、何をしに来たのか問いただした。ホテルのマネージャーが事情を説明したが、それでも武田は半信半疑だった。
この規模でのデリバリーだと、車内に何が積まれているのか分からないし、近隣の安全を考慮する上で簡単に見過ごすわけにはいかなかったからだ。
ホテルマネージャーからの電話がかかってくると、吾郎は家から出た時、近隣の住民や大勢の通りすがりの人が集まっていた。野次馬の中に、梓や雅香も顔を見せていた。
吾郎は武田の前に立ち、笑いながら言った、
「武田さん、これらは俺が注文した料理なんですよ。通してください」
武田は驚きの表情を浮かべ、
「料理のデリバリーですか?こんなに何台も?」
周囲の住人たちも、デリバリーカーだと聞いてざわつき始める。
「こ、これ…いったいどれくらいの人数分なんだ?どこに置くつもりなんだ?」
「結婚式の宴会でもこんなに沢山は有り得ない?数百卓なんてすごすぎるだろう」
「見てみろよ、あれはオワリオルの特注料理だぞ。ざっと見積もっても千万以上だな。」
「すごいな、加藤さんって金持ちだったんだな!」
隣人たちの間で様々な憶測が飛び交い、吾郎を見る目には好奇心が混ざっていた。
道端で見ていた梓は、唇を噛みしめ、吾郎という「富豪」を自分のものにする決意を新たにした。彼女は積極的に吾郎に歩み寄り、笑顔で言った、
「吾郎さん、ずいぶん沢山買い物をしたのね」
吾郎はそれを無視をし、武田に何かを差し出した。住人が来たことを確認した武田は、デリバリー車の軍団の通行を不問にした。吾郎はその先頭に立って、配達員たちに合図を送り、駐車スペースに誘導した。
梓は無視されても、まったく気にした様子はなく、吾郎のそばに寄り添いながら楽しげに話しかけていた。
「どうして無視するの?私たちって友達じゃなかったっけ?」
「もっとあなたのことを知りたいと思っているのよ」
吾郎は彼女をじっと見つめ、一芝居打つように言った。
「これらはすべて、上司に頼まれて買ったものなんだよ。先日のレストランの食事も、上司のおごりだ」
そう言いながら、彼はため息をついた、
「ああ、俺がこんな金持ちだったらよかったんだけど」
梓の顔色が一変した、
「……冗談でしょ?」
吾郎は肩をすくめて言った、
「どうして嘘をつく必要があるんだ?もう何年も知り合いだし、俺の家庭の状況は知ってるはずだろ」
「両親はもう亡くなってるし、ただのしがない管理職に過ぎないんだ。大したお金なんて持ってないさ」
梓の表情は揺らいだ。彼女も疑っていたことはあったし、本当に富豪なら、少なくとも加藤家には経営していた事業など、その痕跡があるはずだ。だが、加藤の両親は何年も前に亡くなり、多少の遺産を残してはいたが、それだけでは、富豪と呼ぶには程遠かった。
吾郎が自ら認めたことで、梓の心の中にあった疑念はすべて説明がついた。彼女は加藤から少し距離を取り、髪を整えながら礼儀正しい笑顔で言った。
「あなたが富豪であろうとなかろうと、私たちは友達でしょ?金目当てで仲良くしているわけじゃないわ」
「友達」という言葉を、彼女はわざと強調して言った。計算高い彼女は、相手との関係を完全に断つことは決してしない。なぜなら、「予備」であろうと価値は十分にあるからだ。
吾郎は口元に微笑を浮かべ、それ以上会話することはなかった。
配達員たちは吾郎の指定場所へ料理を次々と運んでいった。
日頃から、人当たりが良かったため、家の隣にある地下の倉庫の一つを借り、料理をそこに運び込んでもらった。300卓分の料理は非常に大量であったが、すべてパック詰めされていたため、思ったよりも場所は取らなかった。
注文したのは最高級の料理ばかりで、サーモン、オマール海老、トリュフ、キャビアなど、贅沢な食材が揃っていた。300卓分の料理を倉庫に運び込むのには相当な時間がかかった。
ホテルのマネージャーでさえ、その量に驚きを隠せなかった。これまで長年マネージャーを務めてきたが、これほど大量の注文を受けたのは初めてだった。
「そのまま倉庫に運び入れてくれればいい」
とだけ指示を出す吾郎だった。
だが、実はというと運び終えた後、ひっそりと異空間にすべての料理を収納した。他人から見れば、不審に思われるかもしれないが、実際のところ、少し時間が経てば、誰しも他人にそこまで深く関心を持つ余裕なんてない。皆、自分の目の前のことに忙しいのだ。
隣人やホテルスタッフ、配達員たちも少し話題にする程度で、誰も本気で気にすることはなかった。
300卓分の料理が吾郎の異空間に収められた。
その夜、TGN社の坂本から電話があった。
坂本は、TNG側の施工準備が整い、いつでもセーフハウスのリフォームに取りかかれると伝えてきた。作業開始のスケジュールを聞いてきたのだ。すぐに翌日からでも始めてほしいと伝え、吾郎はホテルにしばらく移住するつもりだった。
セーフハウスの話が終わった後、坂本がもう一件の話しを始めるのを、吾郎は他愛もない話しをしながら待っていた。もちろん、銃に関する話である。しばらくの逡巡の後、坂本は声を潜めて言った、
「もし本当にそのようなご要望があるのであれば、信頼できるルートを見つけることは可能です、値は少し張りますが」
吾郎は大喜びして電話口で頷く。値が張る程度の交渉は予想済みだった。なにより、彼にとってお金など大した問題ではなかった。
「問題ない。ただ、銃の品質が確かなものであればいい」
「分かりました。それでは、信頼できる相手をお繋ぎしましょう。三日後に取引場所についてご連絡します」
坂本は淡々と答えた。
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