第7話 セーフハウス

セーフハウスのカタログを読み終えると、吾郎は購入するハウスのオプションを選び始めた。


吾郎は、まず家全体の基盤を徹底的に強化することにした。壁も天井も床も、すべて100mmのスチール板で補強し、窓には防弾ガラスを取り付け、外敵に対して強固な砦を築き上げる。


また、換気システムにはろ過装置を組み込み、外界からの有害な気体を一切通さない工夫も施す。


そして仕上げとして、家の隅々まで監視可能なモニターシステムを設置し、玄関扉は銀行の金庫と同等の重厚な金属製に交換。これで、加藤の家は何者にも侵されない、まさに鉄壁の要塞となるのだ。


要するに、要求はただ一つ——誰であろうと侵入を許さない鉄壁の要塞を造ることだ。


オプションを選択すると、吾郎はパッドを坂本に返した。それを覗いた坂本は思わず目を凝らして再度確認する、たった130平方メートルの家をここまでの要塞にするクライアントは稀にも見ない、


「武器さえあれば、まるで大型の要塞みたいだな……」

と坂本が驚きの声を漏らした。


その言葉を耳にした瞬間、吾郎の瞳に興味深々の光が宿った

「へぇー、要塞についても詳しいんですか?」


坂本は少し固い笑みを浮かべながら、

「俺はかつて外国で傭兵をやってたから、こういう軍事関係の知識には詳しいんだよ」

と自慢げに言った。


吾郎の頭に一つの可能性がよぎった。


「坂本さん、銃を手に入れる方法はありますか?」

吾郎は声を低めて坂本に聞いた。


その言葉に、坂本の表情が一変して真剣なものになる。この国では銃はほとんど私的に所有することが許されていない。


「吾郎さん、原則的にそのような物を個人が持つのは許されていないことはご存知でしょう?」


と坂本も低い声で返す。


「あれですか、恐ろしい組織にでも狙われているんですか?」


吾郎も真剣な眼差しで答える、


「ええ。少々やっかいな連中に目をつけられてしまって。非常に手荒で、しかも銃を持っているんです。だから、こちらも銃を持って身を守るしかありません。でなければ、家に閉じこもってやられるのを待つだけです。それはあまりにも無策で愚かです」


だが、それを聞いた坂本は苦笑して濁す、


「吾郎さん、銃については私ではお力になれません。あくまでも正規の会社ですからね」


彼の目をじっと見捉えていた吾郎は、方法がないわけではなく、ただ意図的に協力を拒んでいる意志を感じ取った。


吾郎は深く息を吸い込み、

「このセーフハウスには2億円以上かけている。それでいて、最終的に安全が確保されなければ、御社の評判にも少なからぬ影響が出ることになると思うのですが」

真正面から坂本と睨みあい、吾郎は一語一語を噛みしめるように言いました。


「俺が求めるのは、自分を守るための武器だけです。この頼みを聞いていただけるなら、必ずその恩は返します」


坂本は黙り込み、眉をひそめながら少しばかり考えを巡らせていた。銃を手に入れるルートは彼にとって明らかにあるのだが、素性が不明な相手に、いとも簡単に紹介するわけにはいかない。


「本日は一度お帰りいただければと思います。この件に関しては、私がどうこうすることはできませんが、ツテを調べてみます。進展があり次第、改めてご連絡させていただきます」


坂本は明らかに即決できずにいた。それを見た吾郎も無理強いはしない。なぜなら、銃という法で禁じられているものは慎重を期すべきものであるからだ。


「分かりました、ではお待ちしています」

と吾郎は笑みを浮かべて頷く。


「それから、急いでいるので、なるべく早くハウスの強化も進めてください」


「最長で20日で完成させます」

坂本が堂々と言い切った。


吾郎はその場で契約書に署名し、同時に3000万円の手付金を支払った。


これでセーフハウスの問題はほどよく解決した。吾郎は車に戻り、知り合いの高宮ケイに電話をかけた。


東京近郊に広がる数百エーカーの山林を借りて狩猟場を運営する高宮は、無害な動物を飼い、訪れる者に狩猟の喜びを提供していた。彼の手には、合法的に手に入れたクロスボウやエアライフル、複合弓が揃い、狩りの用意は万全だった。


吾郎は何度か高宮の狩猟場を訪れたことがあり、彼の連絡先も控えていた。早速電話をかけ、弓とクロスボウを購入したいと伝え、相場以上の金額を提示して話を持ちかけた。


高宮は商人でもあり、吾郎にも世話になることもあるため、この話を快く応じてくれた。


「吾郎君、こんなに多くの道具を手に入れて、いったい何に使うつもりなんだね?これらはあくまで狩猟用であって、人を傷つけるためには使えんよ」

と高宮景は笑いつつも、慎重な言葉を投げかけた。


何せ、自分の手を介して売られるわけだ。万が一、これらの武器による殺傷が発生すれば、自身にもトラブルが降りかかる可能性がある。狩猟場を経営しているということは、仕入れるルートがあることは明らかですが、それでもただの友人である吾郎のためにリスクを負う必要はありません。


「そんな心配は無用です。友達と何人かで、近いうちに団体で狩猟をする予定なんだ。だから、装備が必要なんだ!」

と吾郎は軽く笑ってはぐらかした。。


「おお、そうか!扱いには注意するんだよ!」

と高宮はあっさりと納得した。


「では、装備を用意してくれるのはいつ頃になるかな?」


「すでにあるものもあるから、暇なときに取りに来ればいい」


吾郎は即座に車を走らせ、装備を入手した。今や彼にとって、過ぎ行く一秒一秒が今後の命運を左右するものだった。


吾郎は高宮から特鋼製クロスボウ5丁に加え、複合弓3丁、そしてそれぞれの矢を300本ずつ手に入れた。さらに、ダマスカス鋼で作られた狩猟ナイフを2本も購入。それらは頑丈さにおいて比類なく、耐久性は折り紙付きだった。後部トランクにいっぱいに詰め込まれ、大量の装備が積まれた光景は、吾郎に溢れ出るような安心感を与えた。


武器を車に積んで家に戻ったころには、すでに夕暮れだった。


再び外に出て、豪華なディナーを楽み、家に帰ろうとした時に、吾郎のスマホが鳴った。

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