013 俊也編 ~基礎盗賊~

 パーティで求められる盗賊の役割は大きく分けて3つ。

 1つ目が斥候。敵の位置や罠の位置をいち早く知らせること。

 2つ目が宝箱の開錠。罠のある宝箱も存在するため不用意に開けると全滅の可能性すらある。

 3つ目が後衛職のサポート。特に後衛へのターゲットは外さなければならない。

 

「シゲがやっているのだから有効なのだろうけどさ……。」

 

 俊也はスキル画面を見ながら独り呟く。

 

 基礎盗賊のスキルレベルを上げるための条件。

 これが酷いなんてものではない。

 

 斥候スキル

 自身のレベルより高いモンスターを24時間スニーキングを50回

 

 宝箱開錠スキル

 宝箱の開錠成功を1000個

 

 小剣スキル

 小剣のスキル経験値を1万

 

 いずれにおいても、同時にスキルレベルを上げることが難しい。

 しいて言えば斥候スキルを伸ばしながら宝箱の開錠をして歩くことであろうか。

 とはいえ、今日や明日にスキルレベルを上げることは不可能。

 毎日コツコツと積み上げていくか、適性のあるクエストを受注して集中してやり切るかの二つである。

 

 例にもれず、盗賊スキルも『基礎』と『基本』の二系統がある。

 基礎は冷遇されており、基本の方が人気である。

 理由はスキルレベルのあげにくさもさることながら、使い勝手のよさであろう。

 基本盗賊スキルでは『斥候』ではなく『タカの目』というスキルでフィールドを上空から見下ろすことができる。

 デメリットは洞窟内などでは効果がない事である。

 逆を言えば洞窟に潜らずにフィールドでの戦闘であれば敵の位置をかなり正確に測れる。

 

『基礎』では『宝箱』と限定されているが、『基本』では『罠』の解除スキルとなっている。

 基礎系スキルでは斥候にて罠の発見、解除が可能であるのに対して、基本系では罠と限定されている。

 宝箱に仕込まれた罠も解除してしまえば、極端な話後はただの箱である。物理攻撃をもって破壊してしまえばよいのである。

 威力さえ間違えなければ、中に入っているアイテムを一緒に壊してしまう事もない。

 また、宝箱の中に本来入らないであろうはずの剣や弓、槍なども圧縮されて入っているので開封するまである程度は守られている。

 

 小剣スキルについては基礎も基本もほとんど違いはないが、単純に必要とするスキル経験値が違う。

 総合トータルで基礎が基本に勝てる要素はないのである。

 

 それでも尚、俊也を基礎スキルの取得へと向かわせたのはシゲの存在である。

 変わったことはするが、間違ったことはしない。

 これが俊也のシゲに対しての評価である。

 シゲが基礎魔法を習得するというのだから、不遇の基礎系スキルには何らかの秘密が隠されている可能性が高い。

 

「で、宝箱の開錠はっと……。」

 

 宝箱の開錠システムがどのようになっているのかを検索する。

 LAOの世界の中で金にならないものはない。

 装備、モンスターの情報、ダンジョンの情報、スキルの情報、クエストの情報。

 基礎系の情報だけは公式が無償で公開している。

 

 <開錠スキルについて>

 宝箱の開錠スキルは二段構えの仕組みになっています。

 1.マインスイーパーで罠が仕掛けられたマス目を特定してください。

 2.罠の位置を特定完了後、魔力を流し込みます。

 3.一定速度で自動的に魔力が流れます。

 4.ランダムに出される水道管を組み合わせて指定された出口まで魔力回路を繋いでください。

 5.その際に罠に対して魔力が流れてしまうと罠が強制発動します。

 6.魔力が流れない場所に水道管を設置することは可能です。不要な水道管は無意味な場所に設置することで回避できます。

 7.罠のマスに対して水道管を設置することはできません。

 8.宝箱は難易度が設定されており全部で1~10の10段階存在します。

 9.高難易度の宝箱ほど、レアアイテムの入手確率が上昇します。

 

 俊也はこの説明を見て絶句する。

 結局パズルゲームから離れることはできない。

 世の中の人々がどうして基礎系ではなく基本系を取得するのかよくわかる。

 マインスイーパーはある程度の『慣れ』で攻略することも可能だが、水道管ゲームはランダム性が強く確実な開錠には時間をかけるしかない。

 罠の解除だけ実施して宝箱を物理破壊することの速度に到底かなわない。

 

「マインスイーパーねぇ……。」

 

 WindowsPCを古くから触っている者にとっては馴染みのあるゲームであり

 一番真剣にやっていないゲームではないだろうか。

 馴染み度合いはやはりソリティアが一番なのであろうが、ソリティアは攻略不可能となるケースが存在する。

『成功』と『失敗』を明確に分離するためにはマインスイーパーというのはオーソドックスなチョイスである。

 だが、今の人々に受け入れられるかと言われれば否である。

 それは水道管ゲームにしても同じである。

 この仕業、MODの製作者は確実に昭和の人間であることは想像に難くない。

 

 <マインスイーパールール>

 ※Wikipediaより抜粋

 ゲーム画面は正方形のマスが敷き詰められた長方形のフィールドから構成されている。

 それぞれのマスは開けることができるが、地雷の置かれているマスを開けると負けとなる。

 地雷の置かれていないマスを開けたときは、隣接する8方向のマスのいずれかに地雷がある場合はその個数が表示され、隣接するマスに地雷が置かれていないときは、それらが自動的に開けられる。

 地雷の置かれていないマスをすべて開ければ勝ちとなる。

 プレイヤーは、地雷が置かれていると思われるマスに旗を立てることができる。

 

 Windows3.1からOS標準機能として搭載されたが、Windows8からは標準では搭載されず

 MicrosoftStoreからダウンロードが可能となった。

 

 Microsoft Windowsのものでは、3つのサイズがある。

 初級:9×9のマスに10個の地雷(Windows Meまでのバージョンは8×8)

 中級:16×16のマスに40個の地雷

 上級:30×16のマスに99個の地雷

 

「まずはマインスイーパーの特訓かな……。」

 

 俊也はマインスイーパーをダウンロードしてインストールする。

 初級から始めると、案外あっさりとクリアできてしまう。

 メンバーの中で頭脳派と言われるとシゲの名前が最初に出てくるが、俊也も十二分に頭脳派なのである。

 息子のぷよぷよ狂も決してトンビが鷹を産んだわけではなく、俊也の才能を、頭脳を尖らせただけなのである。

 

「この程度ならスニーキングしながらでも片手間でできるかな。」

 

 自分の脳に手応えを感じた俊也は、市場で大量の栄養食品を買い込むとそのままダンジョンへと潜ることに決めた。

 狙いはスニーキングと宝箱。短剣レベルは後からでもなんとかなるがこの二つだけはどうにもならない。

 時間がかかるものから手を付けるのが俊也の流儀。

 だからケアレスミスをするのではあるが、それはまた別の話。

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