012 俊也編 ~コタエ~

 

「やはり家族との時間は欲しいか。」

 

「SNSの管理とか、全部嫁さんがやっててな。大変だろうなって。俺も手伝ったほうがいいのかなって。こっちにこいとは一言も言われてないし、コンバートしなくても会えたり会話したりする方法はいくらでもあるし。繋がりはあるんだよ。」

 

「男親の難しい所だな。戦力になるようでならない。ただ、放り投げする気にもなれない。」

 

「あっちいったり、こっちいったりするとやっぱりレベルあがるのが遅くなるからな。メンバーにも迷惑かけるんじゃないかと思って。」

 

 そこでようやく話が一つ止まる。注文していた料理が次々に運ばれる。

 ジョッキについた水滴がテーブルへと静かに流れ落ちる。

 

「なあ、俊也。俺たちの強みは何だ?」

 

「そうだなぁ……シゲは司令官としては常に最適解を探ってくれるし、ブルーの澄ちゃんは折れない心、ハナは明るく元気だし、誠は……よくわからん。ステファも謎だな。ペインはよくわからんが金持ち。」

 

 それを聞いてシゲは少し呆れた顔をして俊也を嗜める。

 

「お前……女性陣にだけ話してきたな。」

 

「くっ……。なぜばれる。」

 

「まぁそれはいいとしてだ。俺が思うにこのメンバーの良い所、最大の強みは『継続できること』この一点に尽きる。投げ出さない、諦めない、コツコツ積める。」

 

「ふむ。」

 

「つまり、プレイヤースキルを磨くことができるメンバーだという事だ。要はレベルや、スキル、多分MODにも依存しない強さを持ってる。それは俊也、お前も例外ではなく。」

 

「どうすればいい?」

 

「キャラレベルも、スキルレベルも、MODも飾りだ。こんなもので強さ弱さは図れない。例えば盗賊MODを入れているであろうお前が高レベル帯のダンジョンに放り込まれたとて即座に死ぬとは思ってない。戦うかもしれないが、多分それは確実に勝てる場合のみでほとんどの場合は逃げの一手を打つ。」

 

「まあ、多分そうだろうな。」

 

「それが俺の求めるメンバーの強み。状況を打開する方法を各々が持っている。個の力なんだ。キャラレベルなんてあとからいくらでもあげれるし、スキルレベルもやりようがある。でもプレイヤースキルだけはなかなか磨けない。」

 

「50年たった今でも俺にプレイヤースキルはあると?」

 

「もう錆びついているかもしれん。ただ、俺達は誰が何と言おうと『廃人』だった。」

 

「それは……確かに。」

 

「じゃあ『努力』はできるはずなんだ。コツコツと。毎日同じことを諦めずに投げ出さずに。」

 

「できる……か……?」

 

「やるしかない。そうでなければ俺たちがチームを組む意味がない。」

 

「澄ちゃんも似たようなこと言ってたな……。」

 

「師範代こそ努力の人だからな。女性で合気道の師範代までできる人はそうはいない。見た目は中森明菜系の美人なんだがな。」

 

「古い! 例えが古い!」

 

「平成、令和の女優さんをあまり知らん。」

 

「お前の目から見て、そうなるとハナはどう見えるんだ?」

 

「んー。そうだな。夏目雅子系?」

 

「マジかよ……。ひっくり返ってもその例えは俺にはできねぇわ。ちなみにステファは?」

 

「ステファは……難しいな……。しいて言えば牧瀬里穂とか。」

 

「はぁ……お前の脳内の女優図鑑は一度見てみたいわ。どこで年代が止まっているのか知りたくなってくる。」

 

「令和なら……橋本環奈は知ってる。」

 

「ほう。他は?」

 

「うーん。阿佐ヶ谷姉妹とか。」

 

「阿佐ヶ谷姉妹は女優じゃねぇよ! 芸人だよ!」

 

「歌って踊ってなかったか?」

 

「それはモノマネな! 細かすぎて伝わらないやつ! はー。もういいわ。お前と話してるとタイムスリップしそうだ。」

 

「あんまり興味がないものでな。すまんな。」

 

「悩んでたのがバカバカしく思えるわ。ってか今度、澄ちゃん見た時に横に中森明菜の画像出して比較しそうな自分が怖いわ。」

 

「そんな失礼な事するなよ……。」

 

「シゲが結局言いたいのは『信頼してるからやれるだけやれ。やる分量は裁量だから自分で考えろ』なんだよな。」

 

「完全に放り投げた言い方すればそうだな。」

 

 俊也は残っていた酒を一気に飲み干し、どんとテーブルの上にジョッキを置く。

 そして大きなため息をつくと、どこか吹っ切れたような顔になった。

 

「今更俺がコンバートしたところで、してあげられることなんてほとんどないんだよな。」

 

「既に仮想で上手くやっているならそうだろうな。」

 

「それなら俺はこっちで活躍する姿を見せたほうが、お互いのモチベーション上昇に一役は買える。」

 

「『親父も頑張ってるんだな』くらいは思ってもらえるな。」

 

「じゃあ話題を変えよう。」

 

「なんだ?」

 

「『基礎系』のMOD、ありゃ一体どうなってるんだ?」

 

「どう、とは?」

 

「明らかにおかしい。どう考えても変だ。スキルに対してスキルレベル上昇の条件が酷すぎる。」

 

「仕様だ。」

 

「お前が『基礎魔術師』なんておかしなMODを入れているのがわからん。絶対に何か情報があるから使っている。」

 

「まだ検証中だ。合っているかどうかもわからん。確実なことは無い。」

 

「じゃあ聞き方を変えよう。お前が毎晩娼館街に行っているのは『基礎魔術師』に関係があるのか?」

 

「ある。」

 

「ハナとか激怒してたぞ。」

 

「誤解を招くのはわかっていたが致し方ない。そもそも俺はアダルトMODを入れてない。」

 

「マジで!?」

 

「ああ、今は不要だ。アダルトMODを入れると娼館街でのクエストが受注できなくなる。」

 

「いっそ頭も丸めてしまえよ。出家だ。出家。」

 

「クエストが俺の満足いくまで終われば、アダルトMODを入れることは問題ない。今だけの話だ。」

 

 淡々と語りながらシゲもジョッキを空にする。

 俊也は追加で酒を注文する。

 

「そこまで魅力的なクエストなのか?」

 

「基礎魔術師にとっては最良とだけ言っておこう。他の基礎系では不要だ。」

 

「俺はもう少し様子を見るかな。」

 

「強制はしない。ただ、基礎系は実は有能という可能性が高い。今の評価は当てにならん。」

 

「何か理由がありそうだが、それを聞き出すことは出来なさそうだ。」

 

「確証ができたら話してもいいかな。」

 

 その後、シゲと俊也は他愛もない話をして別れた。

 結論は出ているようで出ていない。結局は俊也自身の問題だと切り捨てられている。

 

「仮想も現実も、結局のところは変わらんなぁ……。」

 

 そんなことを夜空に向かってひとり呟くのだった。

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