003 それぞれの旅立ち

 LAOにおいてキャラメイクは自由である。

 生前の姿をそのままリアルに反映させるもの、美化させるもの、あこがれだった筋肉質な肉体を手に入れるもの

 身長すらも高くもでき、低くもできる。

 年齢も好きな年齢へと設定できる。

 ただし、脳年齢と肉体年齢に乖離があればあるほど、そのギャップは埋めるのが難しく

 終活という意味でLAOに転生した者たちは身体の動きに脳がついてこず

 判断ミスや、ノックバック時の硬直などの時間が長くなる。

 

 そう、これはゲームでありながら人生の続きなのだ。

 だからゲームをやめて、人生を終わらせて、永遠の眠りにつくこともできる。

 実際、そういう人がいることも事実でパーティ内の色恋沙汰のごたごたに疲れて辞めてしまうものもいる。

 また、LAOは犯罪者のログインは認められていないが、潜在的犯罪者というのはどこにでもいる。

 サイコパスだったりペドフィリアだったり、極端なサディストなんかもそれに含まれる。

 LAOは全キャラクター、NPCも含めて膨大なログデータをデータレイクとして保管しているため

 サイバー警察による取り締まりにより強制執行、つまりは完全な死を与えられることも存在する。

 

 逆に軽犯罪などということはなく、刑は一律死刑。LAOに不要と判断された時点で消されるのだ。

 システム側は対象キャラクターの脳機能を保管しているガラスケースの電源をパチンと落とすだけで完了する。

 執行者は本当に何も思わない。通常の死刑囚のように、刑務官に対して受刑者の声も届くことがなければ、接している時間も存在しない。

 そこにはただ並べられた脳が入ったガラスケースがあるだけで、左右に設置されている脳と何が違うのかも見た目ではわからない。

 その一方で決闘システムや、PKといったこともシステムは認めている。

 不意打ち、闇討ち、罠を仕掛ける。なんでもありだ。それはNPCプレイヤーは殺されてもリキャストするのだ。

 だから「死」という概念は存在するが、「死」に至ることというのは稀なのだ。 

 

 各々が、各々の思うキャラメイクを経てLAOの世界へと降り立つ。

 今でこそ風化してしまった、忘れ去られてしまった伝説の7人が再びゲームへと真剣に向き合う。

 

「全員揃ったな」

 

 シゲがそういうと、全員がこくりと頷く。

 流石に昔のMMOと同じ名前という訳にはいかなかった。50年も経てばハンドルネームも変わってくる。

 本名に近しい名前に変えたものもいるし、逆にシゲのようにずっと同じ名前を使い続けている者もいる。

 

 そして各々がウィンドウを開いてフレンド申請を送りあう。

 ぽこんぽこんと表示されるフレンド申請ウィンドウに対して『許可』を押してまわる。

 全員のウィンドウ操作が完了する角を見届けると、再びシゲが口を開く。

 

「じゃあ、一年後くらいかな?」

 

「そうね。一年はあったほうがいいかもね。」

 

 ブルーもとい澄狐(すみこ)はそう答える。

 

「半年くらいで一回再集合はしてみたい気もするけどな」

 

 ペインは変わらずペインと名乗っていた。

 

「じゃあレベルにする?事前情報だとLv50が一つの区切りっぽいし」

 

 ステファは変わらず謎が多い。自分のことを語らず。多くを語らず。誰も本名を知らないのでステファの名前に変わりがないことだけはわかった。

 

「キャラレベルとスキルレベルがあるのがなぁ……」

 

 マコはどうやら本名の誠で登録したようだった。

 

「職業にとらわれず、スキルは逆に言えば伸ばし放題と考えればプレイの幅も広がるし、タンクが回復使えたりして便利だろ」

 

 残るフィンは本名なのだろう。俊也と名乗って登録していた

 

「スキルレベルって蔑ろにしていいのか?最近のゲームはスキルとスキルを掛け合わせると新しいスキルの創造ができるとか聞いているが?」

 

 誠はまだまだゲームのシステムについて懐疑的だ。

 ここまででまだ一言も発しておらず、不安そうに下を向いている女性がいる。

『ハナ』と名乗っているが、これは向日葵のラノベ小説出版時の名前だ。

 シゲはハナにも聞いてみる。

 

「ハナはどうしたい?」

 

「そう……ね。みんなに……みんなに合わせるわ」

 

「そうか。じゃあひとまず、半年を目標にやってみようか。試したいこともいろいろあるし。」

 

「じゃあそれでいこうか。かいさーん!」

 

 能天気に俊也が声を発すると、各々がこぶしを突き出し円陣の真ん中でこぶしを合わせる。従来のMMORPGではなし得なかったシステムに縛られないエモーション。たったこれだけのことでテンションが上がり、みな意気揚々とそれぞれの目的地へと向かう。

 たった一人を除いては。

 ハナは意気揚々と始まりの地点から散っていく仲間たちの背中をただ目で追う。

 十分に、十二分に背中が小さくなった後、ハナはぺたんと膝から崩れ落ちるように地面へと座り込む。

 額からは大量の汗が湧き出る。そんな地面に座り込んだハナをいぶかしげに行き交う人々は視線を向けるも、助けよう、声をかけようというものは一人もいない。

 地面に手をつき、肩で大きく息をする。

 呼吸がある程度整ったら、下半身を使わず、上半身の力だけで匍匐前進のように近くの花壇へと向かう。

 ずりずりと這うように進む。石畳の地面は冷たく、初期装備の簡易な布の服では摩擦に耐えられる筈もなく、膝が擦れて痛い。

 それでもハナは着実に、花壇へと進む。歯を食いしばり進む。

 

 ようやく花壇にたどり着くと、今度は両手で上半身を起こして身体をひねって座る。

 汗がぽたぽたと滴る。たった数メートル進むだけでこれだけ大変とは思っていなかった。

 さて、どうするか。とてもではないがこのままでいいはずがない。

 とはいえ、助けを求められる自分物の心当たりは一人しかいない。

 

 卑怯だと言われるだろうか?

 姑息だと思われないだろうか?

 お人好しのあの人はきっと来てくれる。けれどもその優しさに付け込んでよいものか。

 次の人生では絶対に負けないと心に誓った。50年前の自分とは違う。

 前の人生はたくさん、色々諦めた。

 今回は諦めたくないし、自分から負けを認めるようなことはしたくない。

 

 まずは助けを乞うしかない。下心があろうとなかろうと、今のままではどうにもできない。

 そうハナは決心して、先ほどフレンド登録した一覧の中から一人を選び連絡した。

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