第6話

───


 暗い部屋に光が差し込んだ。


 赤い色をつけた男の人がやってくる。



「☓☓☓ッ!!」


「……おにぃちゃん?」



 その人は小さな女の子を抱きしめて、目からたくさんの雨を降らせる。


 それは『涙』というものだと思う。まだ見たことはないけれど、リトに教えてもらったものと似ているから。



「お兄ちゃん、お父さんとお母さんは……?」 


「死んだよ」


「……?」


「もう僕らを傷つける人はいない。☓☓☓を監視する人もいないよ」


「おにぃちゃん……?」


「これからは兄ちゃんがずっと一緒だよ」



 でもその人はいなくなった。


 バンバン、ガンガン。


 そんな音が聞こえた瞬間に。 



 目の前で、真っ赤な雨を降らせてその人は消えてしまった。


───


 起き上がってあたりを見渡した。



「ちよ、おはよう」


「………」



 寝ているときに見るものがある。


 寝ているのに起きているような感覚があるの。



「リト、寝てたのに変なの」


「どうした?」



 これがなんなのかわからなくて、リトから渡されたお茶を飲む。


 不思議な感覚に首を傾げた。



「寝ていたのに人に会ったの。誰かとお話したの」


「ああ、それは夢だよ」


「ゆめ?」


「寝ている時に見るものは『夢』って言うんだ。どんな夢を見たんだ?」



 どんな夢……?



「お、に、い……? えっと……赤い人が来て、いなくなる」



 なんだったかな……?


 おにい? えっと、おに? にい?


 分からない。



「あのね、赤い人が……え──?」



 その日からリトは体を触るようになった。


 汗というものがたくさん出て、お風呂で洗うのとは違う触り方で……。



「ちよ、それは夢だよ。あったことじゃない。忘れろ」



 変な感覚がするリトとのこれは、好きな人とする行為だとルキに教えてもらった。


 でもルキとはするものじゃなくて、リトとしかしちゃいけないものだと言われた。



「ちよ、蝶華」


「リト……? 泣きそうなの……?」



 手を伸ばしてリトの頬を撫でる。



「……蝶華」


「なぁに……?」


「ごめんな」



 ごめん。

 それは謝る言葉。


 悪いことした人が喋る言葉。


 そう言われた時には返す言葉がある。

 ルキに教えてもらった言葉がある。



「許す」


「は……?」


「リトのこと、許す」



 その時はじめて、涙を見た。


 夢の中の涙と違う、赤くない透明で綺麗な涙。



 どうして泣いているのかは分からないけれど、リトにはすごく悲しいことがあったんだと思う。


 だから、そっとしてあげるの。


 泣いてる人を見たら、頭をなでて、『よしよし』してあげるの。


 これもリトが教えてくれたことだから。

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